妊娠中の母親の乳製品、特に牛乳の摂取が5歳の子どもの情緒問題発生リスクを低下させる可能性を確認~11月8日 国際科学雑誌 Nutrientsにて論文発表~

株式会社 明治(代表取締役社長:松田 克也)は国立大学法人 愛媛大学大学院 医学系研究科 疫学・公衆衛生学講座(教授:三宅 吉博)との共同研究により、妊娠中の母親の乳製品、特に牛乳の摂取が出産後の子どもの5歳時における情緒問題※1の発生リスクを低下させる可能性があることを確認しました。

本研究成果は国際科学雑誌 「Nutrients」の母子栄養特集(Special Issue: Influence of Dietary Pattern, Quality, and Chrono-Nutrition on Maternal and Offspring Health Outcomes)(Nutrients 2022, 14(22), 4713; https://doi.org/10.3390/nu14224713(新しいウィンドウ))にて発表されています。

当社は、愛媛大学の三宅吉博教授が実施した出生前コホート研究である、「九州・沖縄母子保健研究」に参画し、大規模なデータセットを用いた疫学的解析を行っています。従来から、妊娠中の母親の食事をはじめとする環境要因が子どもの精神行動発達に重要な役割を果たしていると言われていましたが、今回の研究では、妊娠中の母親の乳製品、特に牛乳の摂取が子どもの情緒問題を予防できる可能性があることを世界で初めて確認しました。

当社は、引き続き「九州・沖縄母子保健研究」に参画し、妊娠中の母親の栄養摂取と子どもの精神行動発達の関連性を明らかにすることで、母子の栄養に関する基盤情報を蓄積してまいります。さらに、それらの成果をもとに、周産期の女性に適した栄養食品の開発と栄養情報の提供を行ってまいります。

論文内容

タイトル

Maternal consumption of dairy products during pregnancy is associated with decreased risk of emotional problems in 5-year-olds: the Kyushu Okinawa Maternal and Child Health Study
(妊娠中の乳製品の摂取は5歳時幼児の情緒問題のリスク低下と関連している:九州・沖縄母子保健研究)

発表者

Nguyen Quynh Mai1、三宅 吉博2,3,4,5、田中 景子2,3,4,5、蓮尾 静香1、高橋 啓次6、中村 吉孝1、大久保 公美2,7,8、佐々木 敏9、荒川 雅志10,11

1 株式会社 明治 乳酸菌研究所 2 愛媛大学大学院医学系研究科疫学・公衆衛生学講座 3 愛媛大学大学院医農融合公衆衛生学環 4 愛媛大学医学部附属病院先端医療創生センター研究推進支援ユニット 5 愛媛大学データサイエンスセンター 6 株式会社 明治 技術研究所  7 国立環境研究所JECS Programme Office 8 日本学術振興会 9 東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野 10 琉球大学国際地域創造学部/観光科学研究科 11 大阪観光大学国際交流学部

方法

九州・沖縄母子保健研究の5歳時における追跡調査に参加した 1,199 組の母子から得た情報を解析対象としました。

  1. 妊婦の栄養情報については、妊娠中に食事歴法質問調査票を用いて調査しました。また、子どもの精神行動発達における情緒問題、行為問題、多動問題、仲間関係問題、および低い向社会的行動については、「子どもの強さと困難さアンケート」を用いて評価しました。
  2. 妊娠中の総乳製品、牛乳摂取が最も少ない群を基準とした場合の、他の群における各精神行動発達問題の生じるリスクを比較しました。その際、非栄養要因である母親の年齢、妊娠週、居住地、子数、両親の教育歴、家計の年収、妊娠中の母親のうつ症状、妊娠中の母親のアルコール摂取、妊娠中の母親の喫煙、子どもの出生体重、性別、母乳摂取期間及び生後1年間の受動喫煙の影響を補正しました。さらに栄養要因として、総乳製品・牛乳と情緒問題との関連において、過去に情緒問題のリスクを低下させることが明らかになっている柑橘系果物摂取の影響を補正しました。

結果

  1. 妊娠中の母親の総乳製品摂取量が多いほど子どもの情緒問題のリスクが低下し、有意な用量反応関係が認められました( P for trend = 0.04)(下図、左)。
  2. 妊娠中の母親の牛乳摂取量と子どもの情緒問題のリスクとの間に有意な用量反応関係が認められました( P for trend = 0.003)。最も摂取の少ない群と比べて最も多い群の補正オッズ比(OR)※2は0.41(95%信頼区間(CI):0.23−0.70)と有意な関連を認めました(下図、右)。
グラフ:①	妊娠中の総乳製品摂取量と5歳調査における情緒問題のスコアとの関連

結論

妊娠中の総乳製品、特に牛乳の摂取は、5歳の子どもの情緒問題のリスクを低下させることが示されました。

※1「子どもの強さと困難さアンケート(Strengths and Difficulties Questionnaire:SDQ)」 (https://ddclinic.jp/SDQ/index.html(新しいウィンドウ))の質問項目への回答をスコア化して評価しました。 情緒問題は不安な感情や行動で、具体的には以下の事例を指標としています。
・頭が痛い、お腹が痛い、気持ち悪いなどと、よく訴える
・心配ごとが多く、いつも不安なようだ
・落ち込んで沈んでいたり、涙ぐんでいたりすることがよくある
・目新しい場面に直面すると不安ですがりついたり、すぐに自信をなくす
・怖がりで、すぐにおびえたりする

  • ※2オッズ比とは関連の強さを表す指標のことです。オッズ比が1の場合、関連が全く無いことを示しています。1より大きい場合、リスクが上がる方向を示しています。1より小さい場合、リスクが下がる、つまり予防的であることを示しています。いずれの場合も、1より離れるほど、関連が強いことを示しています。

参考資料:研究成果の詳細の一部

表:研究成果の詳細:妊娠中乳製品摂取と生まれた子の行動的問題との関連