「丹後乳販」ではお客さまとの関係を深め、地域に密着した取り組みを行っている。その代表的なものがお店の駐車スペースにテントを張りクイズ大会や健康測定などを行う「健康フェア」である。お客さまへ日ごろの感謝の気持ちも込めて、健康を通してさらにお客さまとの交流を図りスタッフとも親睦を深めてもらうことを目的に実施するイベントである。
「丹後乳販」はこうしたイベントを通じて、地域に密着した「オープンな店づくり」を目指している。
それと今年で6回目となり恒例行事になっている「お客様感謝旅行」。昨年は明治の関西工場の見学を、またある年は吉本新喜劇を鑑賞したりと、日帰り旅行とはいえ日ごろ町から出る機会が少ないお客様にとってこのイベントは人気が高く毎年盛況のようだ。
ちなみに、本年は北陸金沢初秋の旅として、200名の大切なお客様と行ってきますとのこと。
京丹後市は100歳以上の方が多くいらっしゃることでも全国的に有名な長寿の町。「丹後乳販」はただ商品をお届けするだけではなく、そうした健康意識の高い方々に向けて食と健康を提案できる身近な存在であることをアピールするためにもこうしたイベントは重要な意味を持つようだ。
どの宅配店も地域密着やお客さま感謝を掲げてこうしたイベントや活動を行っているがその多くはある意味、営業の一環で行われている。しかし、井上社長は丹後に生まれ育った住民として町の将来を案じ、集落の方々の健康のお役に立ちたい、地域の活性化に何かできないか、といったことを本気で取り組もうとしている。
人材の話に及んだ時、欠員や増員に迫られたときの求人状況についてお聞きすると、「強烈に難しいです」という切迫感のある返答が返ってきた。この辺りは、高卒の9割が進学や就職で町を出てしまうそうで、京丹後市、宮津市といった商圏内の人口は毎年減少しており今後20年で3割減少してしまうという。人口減は単に商売が厳しくなるだけでなく、住民の生活そのものを脅かすことになりかねないという危機感を持たれている。
「イベントもお店に来てもらうだけじゃなく、我々がお客さまの近くに出向いていくやり方がこれからは必要なんです」と、健康測定などができるキャラバンカー『みるたん健康測定号』がこの夏、いよいよ動き始める。スーパー銭湯やカラオケ喫茶、スポーツ会場、地元企業へ、また行政とも連携し限界集落へ、そしてもちろん我々の大切なお客様の元まで出向く予定だと言う。その表情は、経営理念でもある「飲と食を通して、地域社会に貢献する」という言葉通りの使命感を感じるものだった。
最後に宅配店として今後の展望をお聞きすると、点在する集落と過疎化という中で宅配の仕事に付加価値を高めていきたいという。地元の他業種の経営者とそうした共通の経営課題に向け共同で何かできないかといったことも模索中だという。
「10年後に安心して事業を継承できる環境を作りたいですね」井上社長には高校2年生の息子さんがいらっしゃる。3代続いた事業を息子さんにも安心して継承できるようにとの親心であり、郷土愛でもある言葉だと感じた。
取材を終え天橋立や地元の名所を巡ってみた。京都市街とは異なる魅力を感じる。またこの地域は全国にも有名な「丹後ちりめん」の産地でもある。最盛期は町々のどこを歩いても機を織る音が聞こえるくらい盛んな産業だったそうだが、現在では最盛期の20分の1程度だとか。嗜好の変化や過疎化などいろんな影響があるのだろうが、独特の風土と文化の息づく魅力的な地域の光は失ってほしくないと思う。そうした町のために「丹後乳販」さんのように地域住民の健康という側面から支えようとしている宅配店の存在はとはとても心強い。機織り機の音が聞こえなくなっても牛乳をお届けするビンの音をこれからも広げ続けてくれるものと期待せずにはいられない。
取材：営業コンサルタント/村山 哲治
