ヨーグルトの研究者たち

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メチニコフ(2)

ブルガリア菌の発見者グリゴロフとの出会い

メチニコフは腸内細菌と食べ物との関係に興味をもっていました。1905年のある日、ジュネーブ大学医学部で細菌学の講座を開いていたグリゴロフという学生がブルガリアヨーグルトの中から数種類の乳酸菌を発見し、これがブルガリア人の長寿の一端を担っていることを明らかにしたのです。彼は早速、グリゴロフをパスツール研究所に招き講演を依頼します。それをきっかけに腸内細菌をさらに調べ始める中で、彼は腸内にはインドールやフェノールなど有害な物質を作る腐敗菌もいて、これが自家中毒だけでなく動脈硬化なども起こしていることを動物実験で確かめたのです。

また、腐敗菌はアルカリ性の環境を好み、弱酸性の環境には住みつけないことも知りました。これで、ヨーグルトはその乳酸菌の働きにより弱酸性を保ち、腐敗菌の増殖を防ぐために有効であると考えました。
しかし、ことはそう簡単でないことが後に明らかになります。

ヨーグルト不老長寿説を発表

「そして、動物実験による研究は継続して行われ、肉食に頼ると有害物質が増え、野菜や果物など糖分の多い食べ物を摂取すると、その糖分が腸内細菌によって分解された結果生じた酸のため、悪玉菌が抑えられ有害物質が発生しにくくなることをつきとめました。また、乳酸菌を加えた食べ物でも同様の効果があることも確かめました。

腸内の善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌を増やすには、人の消化酵素では消化されない糖や食物繊維が必要であり、これらを「ビフィズス因子」と呼ぶようになったのは最近ですが、メチニコフは100年も前に確かめていたのです。
さらに彼は、腸チフスやコレラなど病原菌に対しても腸内細菌がこれに拮抗的に働くことも確かめています。
メチニコフはこれらの実験結果によって、ブルガリア桿菌と命名されたグリゴロフの乳酸菌を摂取することが長寿の秘訣であることを1907年、「楽観論者のエッセイ(不老長寿論)*4」として発表し、これをきっかけとして、ブルガリア菌を使ったヨーグルトのメーカーが増えていきました。

100年早過ぎたメチニコフの理論

1916年、メチニコフは71歳で死去します。彼は病の床でこういっています。「私がブルガリアヨーグルトの素晴らしさに気づいて食べ始めたのは53歳の時からで残念ながら遅すぎた。もっと早くから食べていればもっと長生きできたはずなのに」と。
死後、ブルガリアヨーグルトに含まれている乳酸菌は胃酸により死滅し、大腸まで到達できないので乳酸菌の飲用は無効という声も当時は聞かれ、ヨーグルトのブームは一時下火になります。
しかし、私たちが知っているように、メチニコフの考えが正しかったことは100年後の現代になり明らかになります。メチニコフこそが腸内細菌叢の重要性に気づいた最初の科学者だったのです。

*4:楽観論者のエッセイ(不老長寿論)

原題は「老化、長寿、自然死に関する楽観論者のエチュード」。日本では1912年に「不老長寿論」として翻訳出版されています。
「私は8年ほどブルガリアヨーグルトを摂取してきたが、現在は純粋培養したブルガリア桿菌と同時に一定量の乳糖としょ糖を服用している。結果は良好で、友人にもこの栄養法を奨めているがみな喜んでいる。私は乳酸菌が腸内腐敗防止に一大任務を果たしていることを信じている」と結んでいます。
本書はヨーグルトさえ食べていれば不老長寿が達成できると説いたものと誤解されがちですが、そうではなく、健康寿命の延長を求め、ヨーグルトの摂取と同時に飲酒・喫煙など生活習慣の改善が必要なことも説いています。