Femlink Lab.(フェムリンクラボ)

学びとオンライン婦人科受診をセットにした「月経プログラム」をスタート

 その後、医薬品の専門知識を持つ男性社員も加わってプロジェクトチームは約20人となり、2021年4月からは、社員向けの「月経プログラム」をスタート。これは、月経と女性ホルモンの影響について学ぶセミナーと、婦人科医のオンライン診療・相談をセットにしたプログラムです。

(出典:丸紅提供資料を一部改変)

 「女性のカラダ知識講座」と題したセミナーは、同社のフェムテックビジネスのパートナー企業で、月経管理アプリ「ルナルナ」などを提供するエムティーアイと、低用量ピルの服薬支援プログラムや婦人科医によるオンライン診療を提供するカラダメディカと共催したもので、東京大学医学部附属病院産婦人科准教授の甲賀かをりさんを講師に、21年4月にオンライン開催されました。約130人の丸紅社員が、女性の体と月経の仕組みや女性ホルモンの変化による心身への影響などについて40分間の講義を受けたのです。

 セミナーの開催前に、20~50代の女性社員106人と男性社員42人を対象に実施したアンケートでは、女性社員の9割以上が、「月経痛やPMSなど月経前後の症状が仕事に影響がある」と回答しています。PMSや月経困難症については、女性社員の約8割、男性社員の約7割が、「よく理解している」か「どちらかといえば理解している」と答えたものの、「月経痛やPMSがひどいときに職場で相談できる」と回答した女性は7.8%で、1割に満たない結果でした。

 実際に、女性社員から月経痛やPMSについて相談された経験のある男性社員は14.3%と少なく、業務に支障が出ていたとしても男性の同僚や上司には月経関連の悩みを相談しにくい現状が浮き彫りになりました。また、低用量ピルの一部は、月経痛など月経困難症の治療薬としても使われていますが、男性では、低用量ピルは避妊薬という印象を持つ人が多いこともわかりました(下グラフ参照)。

丸紅社員の声(女性編)

リアルな健康課題に直面した女性社員が過半だが、対応策に苦労している社員が多数

(出典:丸紅提供資料)

丸紅社員の声(男性編)

男性社員の理解も道半ばで、実際に相談されたケースもまだ少ない

(出典:丸紅提供資料)

役員や男性社員も「もっと早く知りたかった」の声。婦人科を初めて受診した社員も

 このセミナーの参加者は、役員も含め、約4割が男性社員でした。参加した男性社員からは、「こういう知識をもっと早く知りたかった」「月経について全く理解していなかったことを理解しました」「家に帰って、妻と娘と勇気を持って話してみようと思います」といった感想が聞かれ、役員会議でも大きな話題になったといいます。

 「オンライン開催だったので、男性も周囲の目を気にしないで済み、参加しやすかったようです。男性が知らないことはたくさんあったと思いますが、女性である私自身も、知らないことが多いことに気づかされました。“月経は妊娠しなかった結果として起こる”と甲賀先生は説明されたのですが、月経をそんなふうに考えたことはありませんでしたし、ライフスタイルの変化で、現代の女性の生涯月経回数が、多産で寿命が短かった時代の約10倍になっているという話にも驚きました。女性のためにも、月経や体の仕組みなどを学ぶセミナーを繰り返し実施する必要性を実感しています。年齢が上がるに従って妊娠できる確率が減るという知識を持つことも、ライフプランとキャリアプランを考えるうえで重要なポイントであり、新入社員のうちに知っておきたい内容だと思いました」と野村さんは話します。

 丸紅では、この講座の後、月経痛やPMSで仕事に影響を受けつつも通院時間が限られる女性社員20人を対象に、オンライン診療・相談のサービスも試験的にスタートさせました。21年12月には、対象者を60人に拡大し本格始動しています。このサービスは、都合がいい時間帯を選んで提携クリニックの産婦人科医による婦人科のオンライン診療を受け、必要に応じて、月経困難症の治療用に低用量ピルを処方してもらえるという内容で、薬は翌日には自宅に届く仕組みです。低用量ピルをのみ始めた直後は副作用が起こることもあるため、心配なときはすぐに相談できるよう、オンライン診療の受診は1カ月に何度でも可能。診療費と薬代、薬の郵送費は福利厚生の一環として、会社が負担してくれます。

 オンライン診療を利用し低用量ピルの処方を受けた社員に、平常時のパフォーマンスを100%とした場合の月経中のパフォーマンスを聞いたところ、利用1カ月目では65%、3カ月目には77%、6カ月目には85%と、5カ月間で20ポイントの改善がみられました(下グラフ参照)。

月経中の業務パフォーマンスも改善傾向(平常時を100%とした場合)

月経困難症で試験的にオンライン診療を受けた20人のうち、低用量ピルの処方を受けた19人の結果(他の病気の治療のために低用量ピルの服用をやめた人がいたため6カ月目は18人の結果)。平常時の業務パフォーマンスを100%としたときの、月経中のパフォーマンスの自己評価。
(出典:丸紅提供資料を基に作成)

 また、重度または中等度の月経痛やPMSといった月経随伴症状のある女性社員の日常生活に影響が出る日数は月平均で2日でしたが、「月経プログラム」を受けた結果、5カ月後には0.93日改善して1.07日になっています。会社が女性特有の健康課題の解決に積極的に取り組むことに対する女性社員の評価は高く、「友人・知人に丸紅で働くことをすすめたい」という社員が増え、エンゲージメントも大幅に改善しました。

 「なかには、生まれて初めて婦人科を受診したという社員もいました。オンライン診療は10~15分くらいなので、ランチタイムに利用している社員もいます。受診のために会社を休んだり、休日が潰れたりということもなく、婦人科受診のハードルが下がったようです」と野村さん。

 利用社員のアンケートでは、「ピルをのみ始めて、ナプキンを取り替えるためにトイレへ行く回数が圧倒的に減った」「オンライン診療は予想以上に手軽でスムーズだった」「こういったケアを用意してくれて、会社のことが好きになりました」といった前向きな意見が寄せられています。健康支援策を会社が行うということは、女性社員の生活の質や生産性を向上させるだけでなく、会社や職場への愛着を高める効果もあるようです

オンライン診療を受ける様子(丸紅提供)

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最終的には“女性活躍”などとわざわざ言わなくてもいい社会を目指したい

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