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犬山紙子とサッカー選手・下山田志帆が話す、生理やジェンダーに関するもやもや

テキスト:松井友里 撮影:吉田周平 編集:竹中万季(me and you)

イラストエッセイストの犬山紙子さんが、個人の抱える悩みから社会課題まで、生理やPMSにまつわる課題を軸にインタビューするスペシャルコンテンツ。ゲストとしてお越しいただいたのは、現役のサッカー選手としても活躍されている、株式会社Rebolt代表の下山田志帆さんです。生理にまつわる違和感に葛藤した時期を経て、ご自身の経験をもとにした商品の開発や、アスリートが生理の話を共有する「アスリートと生理100人プロジェクト」に取り組む下山田さんは今、ご自身の体や生理とどのように向き合っているのでしょうか。犬山さんが、自らの経験も交えながら質問を重ねました。

生理用品は「女性らしい」デザインのものが中心なのが悩みだった

犬山:下山田さんは2019年に内山穂南さんと共に株式会社Reboltを立ち上げて、2021年からは、アスリートの方たちに生理の向き合い方についてインタビューを行う「アスリートと生理100人プロジェクト」を始めていらっしゃいますね。まずはこのプロジェクトについて伺えますか?

下山田:「アスリートと生理100人プロジェクト」は、生理と向き合い挑戦し続けるアスリート100人のリアルな声をプラットフォームを通して届けるプロジェクトです。2021年にこのプロジェクトの公開インタビューを行ったとき、会場のお客さんから質問を募ったら、性別や年齢問わず、生理に関する自分の経験についてすごく話してくれたんです。話してみないと気づかないことがたくさんあるんだと感じました。その場では、60分もの間、アスリートたちがずっと生理の話をしていたので、参加者が生理について話すことのタブー感がまったくなくなっていたんだと思います。「アスリートと生理100人プロジェクト」は、生理のタブー感を減らしたいと思って立ち上げた側面もあるので、それを実感した経験でした。

下山田志帆さん

犬山:ほかの人の経験について知ることで、初めて自分の立ち位置が分かることも多いですよね。例えば、生理の痛みや量は人それぞれだから、自分が重い方かどうか意外と分からなかったりします。だからそうやってみんなで話せる場があるのはすごく良いことだし、若い子ほどそういう場が必要だと思います。下山田さんご自身は、生理やPMS(月経前症候群)について抱えてきた悩みはありますか?

下山田:まずは身体的な悩みです。生理が重い方なので、大事な試合の前に不安の要因になったし、実際に良いプレーができなかったこともあります。
私はPMSはあまりない方なんですけど、犬山さんはありますか?

犬山:あります。だからパートナーにPMSのときにイライラしてしまうことを伝えていて。あと、PMSに空腹が加わるとよりひどくなるので、きちんとご飯を食べるようにしています。

犬山紙子さん

下山田:「アスリートと生理100人プロジェクト」をやっているなかで、PMSがひどい方がいて、その方もチームメイトに自分の症状を共有するようにしたら、トラブルが減って、自己嫌悪することがなくなったとお話しされていました。もう一つ、生理については心理的な悩みもあって、これまでの生理用品はいわゆる「女性らしい」デザインのものが中心だったので、持ち歩くことがすごく嫌で。買いに行くのが辛くて、友達に頼んで買ってきてもらったこともありますし、できるだけ生理用品と向き合わなくて良いように策を講じてきました。

「アスリートと生理100人プロジェクト」のイベントの様子

犬山:フェミニンなものも良いけれど、シンプルなものやクールなものだってあった方が良いし、やっと今、いろいろなカテゴリーで少しずつ生理の選択肢が増えつつあるように思います。下山田さんがつくられている商品もその一つですよね。

それに、生理にまつわる制度や仕組みにかんして言うと、贅沢品じゃないのに、生理用品に軽減税率が適用されないこともおかしいですよね。昨今ようやく少しずつ声を上げられるようになってきたけれど、女性にまつわるものが贅沢品として扱われがちな現状は変だと思っていて。意思決定権を持つ人の層に偏りがあって、当事者の意見が取り入れられづらい状況が私もすごく気になっています。

生理のことが大嫌いだった。「妊娠する体」として扱われることが嫌だった子ども時代

犬山:下山田さんは現在、生理にまつわるさまざまなアクションをされていますが、もともと、生理にどのようなイメージを抱いていましたか?

下山田:(少し考え込んで)……大嫌いでした。

犬山:ああ……。

下山田:子どもの頃、生理の教育を受けたときに、必ずと言っていいほど「生理は将来妊娠するために絶対必要だ」と言われました。子宮内膜について「赤ちゃんのためのふかふかクッション」と表現されたり。生理自体が身体的にも辛いうえに、自分は妊娠したいと思ったことがなくて、「妊娠する体」として扱われることが嫌だったので、そういう表現が苦痛で仕方なかったです。

犬山:確かに、子宮がある人はすべからく妊娠をするという前提で話が進みがちな場面は多いですよね。私自身は、そう言われることに慣れきってしまっていて、伺っていてすごくはっとして、「大嫌い」という言葉が刺さりました。今は生理についてどんな風にとらえていますか?

下山田:女子サッカー界に「メンズ」という概念があるんです。性表現が男性的で、女性とお付き合いしている選手たちのことを指す言葉で、女子サッカー界では「男性」「女性」と同じような感覚で「メンズ」の存在が受け止められています。私もこの概念に助けられてきました。なぜそうした言葉ができたか掘り下げて考えてみると、「身体的には女性でも、男性的な性表現を好む人や女性ではない性自認の人もいる」という、身体的な性とその人がどうありたいかを分けて見る捉え方がそこにはあって。だからこそ、「メンズ」という言葉があることで「身体的には女性だけれど自分は自分でいいんだ」と前向きになれている人も存在すると思っているんです。私は、自分に生理がくることで、問答無用に性のあり方を「女性」とされてしまうことがとても嫌。でも、生理がくるのは私が女性だからなのではなく、「生理がくる身体を持っている」からだと分けて考えることができたときに、いい意味で諦めのようなものが生まれて前を向けるようになったなと思っています。

犬山:生理が来たばかりの小学生や中学生で、生理について違和感を覚えている人もいると思います。彼女、彼らにどんな言葉をかけたいですか?

下山田:生理が来るのを嫌だと思うこと自体が、変なのではないかと感じてしまったりするかもしれません。だけど「普通」とか「変」なんてなくて、生理のとらえ方なんてそれぞれ違うものだから、生理を嫌だと感じることも変じゃないと言ってあげたいですね。

犬山:その言葉、届いてほしいです。そんな風に感じているのが自分だけじゃないかと孤立してしまうことが一番辛いですよね。

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