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経腸栄養時の胃食道逆流とその対策

「胃食道逆流」とは、胃の内容物が食道に逆流する現象で、逆流性食道炎や嘔吐、誤嚥等のリスクに繋がることが知られています。
特に経腸栄養時に胃食道逆流が発生すると、誤嚥性肺炎等、患者さんの生命に関わる重篤な合併症を招く恐れがあり、細心の注意が必要です。そこで今回は、経腸栄養時の胃食道逆流とその対策についてエキスパートの先生方にお話を伺いました。

ある日のこと…

経腸栄養時の胃食道逆流対策

三鬼達人先生藤田医科大学ばんたね病院 看護副部長/摂食・嚥下障害看護認定看護師

経口摂取していなくても誤嚥は発生する

経鼻胃管や胃瘻からの栄養投与には嚥下を必要としないことから、つい、誤嚥対策も疎かになってしまいがちです。しかし、胃内に投与した流動食が食道や咽頭に逆流した場合、嚥下機能の低下した患者さんでは容易に誤嚥が発生してしまいます。それに加えて、経腸栄養が必要な患者さんの中には、思うように意思表示できない人も多く、投与に際して胃食道逆流の徴候がないかを注意深く観察することが重要です。

胃食道逆流のサイン(例)

  • 痰が増える
  • 咳込む
  • 喘鳴が強くなる
  • 嗄声を認める
  • 嘔気・嘔吐を認める
  • 口から流動食の匂いがする など

投与時や投与中にこんな徴候を認めたら要注意

胃食道逆流の要因

経腸栄養時における胃食道逆流の主な要因として以下のようなものがあり、それらを念頭に置いた逆流対策が必要になります。

経腸栄養時における胃食道逆流の要因(例)

  • 消化管の器質的な障害
  • 噴門部の逆流防止機構の破綻(食道裂孔ヘルニア等)
  • 胃排出能の低下
  • 投与手技
  • 体位や投与速度が不適切
  • 胃内容物が滞留した状態での投与
  • 流動食の影響
  • 流動食の組成や物性が患者さんに適していない
  • 薬剤の影響
  • 逆流防止機構の阻害
  • 消化管運動の低下   など

胃食道逆流対策のポイント

経腸栄養時の基本的な胃食道逆流対策として、以下のようなものが挙げられます。

胃食道逆流の基本的な対策(例)

  • 体位の工夫
  • 胃内減圧(胃内残留物の確認)
  • 投与速度の工夫
  • 流動食の変更
  • 水分投与方法(水先投与法)
  • 消化管運動機能改善薬の使用
  • 投与ルートの変更   など

①体位の工夫

投与時には、30°程度までベッドを挙上します(45°~60°挙上は褥瘡のリスクが高まるので注意が必要)。
また投与後すぐに仰臥位に戻すと胃食道逆流を起こすことがあるので、投与後1時間程度は体位を維持するようにしましょう。

②胃内減圧(胃内残留物の確認)

流動食投与前には、胃内残留物を必ず確認します。先に投与した流動食が残留している場合には、投与を中止もしくは延期します。胃内容物が消化されるまでに3~5時間かかるので目安にします。胃内残留量が多い場合には、胃排出能の低下が疑われるため、医師等と相談のうえ対策を検討します。

胃排出能の低下を引き起こす原因(例)

  • 手術の影響(消化管ホルモンの減少、胃運動の低下など)
  • パーキンソン病
  • 感染に伴う腹腔内の炎症
  • 幽門狭窄
  • 腸閉塞
  • 便秘
  • 高脂肪流動食の使用
  • 薬剤の使用
  • 特発性胃不全麻痺   など

それぞれの原因に応じた対策を検討します

③投与速度の工夫

胃排出能が低下している場合、流動食の投与速度が速いと胃からの排出が追い付かないため、投与速度を落として逆流を防ぎます。

④流動食の変更

脂質:
脂質含有量が多いと、胃食道逆流の原因となる「げっぷ」や胃排出能の低下を誘発しやすいとされています。
濃度:
少量高エネルギータイプの流動食を選択することで、投与される流動食の量が少なく、胃の膨満を防ぎます。
一方、少量高エネルギータイプは水分量が少ないため、水分投与に関しては⑤水分投与方法を参考にしてください。
物性:
高粘度(半固形・とろみ)の流動食に変更することで胃の伸展を促し、噴門部の逆流防止機構の破綻による胃食道逆流を低減するとされています。

その他にも、流動食の胃内滞留時間に関する報告等もあるため、流動食変更時は特に注意深くモニタリングを行うことが大切です。

⑤水分投与方法(水先投与法)

胃排出能が低下している患者さんでは、流動食投与後に水分を投与すると、胃内容量が増えて逆流を起こしやすくなります。水は流動食と比べて胃からの排出が速いことから、水分を追加する際に流動食より先に投与することで、腹部の膨満を防ぎます。また、水分を先に投与することで、胃の蠕動運動を誘発しやすくなります。

⑥消化管運動機能改善薬の使用

胃運動が低下している場合には、メトクロプラミド等の蠕動亢進薬の使用について医師等と相談します。ただし、高頻度に逆流を繰り返している患者さんではかえって症状が悪化するとの報告もあるので、慎重な検討が必要です。

⑦投与ルートの変更

逆流が多い場合には、経腸栄養チューブの先端位置を、胃より先の十二指腸や空腸に留置する方法(幽門後アプローチ)も検討します。
幽門後ルートを用いて投与する場合には、経腸栄養ポンプを使用した低速投与が推奨されています。

口腔内のケアも忘れずに

嚥下障害のある患者さんの場合、流動食の逆流とは関係のない唾液性の誤嚥を起こすことがあります。
口から食事を摂っていない方は、唾液の分泌による自浄作用が低下しているため口腔内に細菌が繁殖しやすく、それを誤嚥することによって誤嚥性肺炎が引き起こされることがあります。食事を摂っていなくても、しっかりと口腔内のケアを行いましょう。

誤嚥性肺炎予防の重要性

経腸栄養に起因する合併症の一つに「誤嚥性肺炎」があります。 誤嚥性肺炎は患者さんの生命予後にも深刻な影響を及ぼす可能性があることから、十分な対策が求められます。ここでは、経腸栄養時の誤嚥性肺炎対策における予防的ケアの重要性について述べます。

高齢の患者さんでは特に注意が必要

厚生労働省発表の人口動態統計(2022年)によると、誤嚥性肺炎は日本人の死因の第6位となっており(図)、年間で男女合わせて5万6千人もの人が亡くなっています。誤嚥性肺炎は嚥下障害、脳梗塞の後遺症を含む神経疾患、認知症などに併発しやすく、高齢者で発生する肺炎の多くを誤嚥性肺炎が占めるといわれています。高齢の患者さんは身体機能の低下に加え、基礎疾患や合併症の併存などにより、退院までに時間を要したり、退院後も再発・再入院を繰り返すケースがあり、誤嚥性肺炎も入院が長期化する要因になっています。

主な死因の構成割合(2022 年) 誤嚥性肺炎 3.6%

高齢者は症状が現れにくい

高齢の患者さんでは、加齢による免疫力の低下から病気への反応が弱く、身体機能の低下に伴って、症状や徴候がはっきりしないという特徴があります。誤嚥性肺炎も発熱・咳・喀痰などの症状が現れにくいことで発見が遅れることがあります。このため、「いつもより元気がない」「ぼんやりとしていることが多い」といった些細な変化を見逃さないことが大切ですが、より重要なのは誤嚥性肺炎を予防することです。

誤嚥の予防&肺炎の予防

胃内容物や唾液を誤嚥した際、それらと一緒に口腔内の常在菌などが肺へ侵入することで誤嚥性肺炎の発症リスクが高まります。
胃内容物の誤嚥は「胃食道逆流」が原因となって起こるため、逆流対策をしっかりと講じることが誤嚥の予防に繋がります(本号P.1~2を参照)。一方、就寝中などにおける唾液の誤嚥は健康な成人にも見られる現象であり、完全に防ぐことは困難です。しかし、徹底した口腔内のケア(クリーニング)や適切な栄養摂取(免疫能を維持する)などを通じて、万が一誤嚥しても肺炎に至らないように予防することは可能です。
誤嚥性肺炎の予防において、看護師の果たす役割は非常に大きく、ぜひ積極的に取り組んでいただければと思います。

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