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Vol.18

Nice!

特集
がん化学療法時の食事支援
~抗がん薬の副作用対策を中心に~

がん化学療法中は、体力維持のためにもしっかりと栄養を摂ることが重要ですが、抗がん薬の副作用の影響で「思うように食べられない」と悩む患者さんも少なくありません。
このような場合、看護師には“ 患者さんの最も身近な医療職”として、一人ひとりに寄り添ったきめ細やかな対応が求められます。
今回は、抗がん薬の副作用に配慮した食事支援のポイントを中心にご紹介します。

ある日のこと…

抗がん薬の副作用に配慮した食事支援

食事支援に当たっての基本的な事項

がん化学療法に使用する薬剤の副作用の中には、吐気、嘔吐、下痢、便秘、味覚障害、口内炎など食事に影響を及ぼす症状が多数含まれます。このため食事支援に際しても、まずは患者さんが受ける治療のレジメン(薬剤の種類・量・日数・休薬期間・投与速度・投与順番など時系列で示す計画書)を十分に理解しておくことが重要です。
化学療法開始前のオリエンテーション(治療や副作用、日常生活での注意点などに関する患者説明)には、医師・薬剤師をはじめ多くの職種が関わります。その中で、食事に関する専門的な指導(献立内容や栄養価など)を担うのは管理栄養士ですが、同時に、患者さんにとって最も身近な医療職である看護師が食事支援において果たすべき役割も少なくありません。患者さんの嗜好をはじめとする食に関する情報を、管理栄養士と共有して栄養指導に役立ててもらうなど、食事支援に向けた多職種との積極的な連携が求められます。

副作用の症状の評価

症状の重症度評価がスタッフ間で異なると、患者さんのセルフケアを適切にサポートすることは困難です。それを回避する手段の一つとして、CTCAE* などの評価基準の活用が挙げられます。これにより様々な症状の重症度を多職種が共通の尺度で評価できるほか、それに応じた予防的対応にも繋げやすくなります。

*CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events:有害事象共通用語規準)
世界共通で使用されることを意図して作成された、有害事象に関連する用語の規準です。各有害事象の重症度の説明がグレード別に記載されています。

セルフケアの支援

近年は外来通院しながら化学療法を受ける患者さんが増えており、症状のモニタリングやコントロールをご自身で行うケースも多く見られます。このため、患者さんに対してできるだけ丁寧で分かりやすい説明を心がけるのはもちろんのこと、ご本人だけでは十分なセルフケアが困難な場合には、ご家族の協力を得ることも重要です。とくに食事に関してはご家族の協力が鍵になるケースが多く、実際に調理を行う方を把握し、患者さんとともに支援する必要があります。また、食事を「食べる」ことに関するサポートはもちろんですが、患者さんご自身が調理の担い手である場合には、食事を「作る」ことに関するサポートも重要になってきます。

食事支援①…
「食べる」ことに関するサポート

「食べる」ことに関するサポートの一番の目的は、がん化学療法中であっても食事を美味しく、楽しく食べていただくことです。副作用の症状が現れた際にも、常にその目的を念頭に置きながら、できる限り理想の状態に近づけられるよう、患者さんを支援します。

1)食事を摂る際の環境
ご自宅で食事を摂る際には、好きな音楽などを聴きながらリラックスした環境で召し上がっていただくように指導します。テーブルクロスや食事を摂る場所を変えてみたり、お気に入りの食器を使用するなど、気分転換を図るのも良いでしょう。
また、同居家族がいる場合には、基本的にご家族と一緒に召し上がっていただいた方が良いと思われます。ただし、ご家族から「たくさん食べてね」と繰り返し励まされたりすると、却って負担に感じてしまうことがあるため注意が必要です。患者さんの気持ちに寄り添いながら、ご家族を交えて個別の状況に応じた対応を検討するようにしましょう。

2)副作用の症状が現れた際のフォロー
副作用に関する説明を事前に受けていても、実際に症状が現れた際に慌てたり、心配に感じてしまう患者さんもいらっしゃいます。そのような患者さんに対しては、悩みを傾聴すると同時に、できるだけ具体的な説明やアドバイスを心がけることで不安の解消を促します。また、副作用の症状が辛い場合には、医師の診断のもと、症状を緩和させる薬剤も処方されるので、どのような時に受診していただくかといったことを予め明確にしておくと、患者さんも安心されます。

吐気・嘔吐

一度にたくさん食べようとせず、少量ずつ何回かに分けて食べる
消化を助けるために、よく噛んで食べる
無理をせず、食べられる時に食べられるものを食べる
脂っこい食品を避ける
温かい料理は湯気と一緒に匂いが立ちやすいので、少し冷ましてから食べる
など

口内炎

固い食品を避ける
柑橘類や香辛料の強い食品を避ける
食べ物を汁物などに浸し、柔らかくして食べる
など

味覚障害

違和感のある味を避け、いろいろな味付けを試す
味を感じにくい場合には、味付けをはっきりさせてみる
口腔内を清潔な状態に保つ
など

副作用の症状が現れた際の食事の工夫(例)

食事支援②…
食事を「作る」ことに関するサポート

患者さんの中には、ご家族のために食事を作ることを自身の生きがいのように感じておられる方がいらっしゃいます。そのような患者さんに対しては、化学療法を受けている間もできる限りその役割を全うしていただけるように支援することが重要です。
痺れや倦怠感などの症状があると、調理を行う上で様々な支障を来たします。痺れで手指の感覚が低下している場合には、火や包丁を使わなくても調理可能な献立・食品を取り入れることで、火傷や怪我のリスク低減を図ります。倦怠感が強い場合には身体への負担軽減を目的に、短時間で調理できる市販のレトルト食品や冷凍食品、栄養補助食品などの活用をお勧めします。

包丁が持てない…

また、味覚障害の症状があると、料理の味つけが普段と変わってしまうことがありますが、そうした場合に重要になるのが周囲の心遣いです。味つけの変化を感じた際にはタレや調味料を別にしておき、食べる時に各自で味を調整するなど、お食事を召し上がる方々の理解や協力も併せて促すようにします。

とくに鍋ものや鉄板焼きは、各自の好みでポン酢やタレなどを選んで味つけできるので便利かもしれませんね。

最後に

がん患者さんやご家族は、様々な不安や苦悩を抱えながら日々を送っています。それに寄り添って支援するのは看護師の重要な役割ですが、 “同じ病気を持つ人同士”でなければなかなか共有が難しい体験や感情も中には存在します。
そのような場合、「がん患者サロン」などを通じて患者さん同士で語り合っていただくのも有用な選択肢の一つです。最近は新型コロナウイルス感染症の影響でサロンの開催もなかなか難しいかもしれませんが、食事だけに限らず、闘病生活全般に関する思いをわかち合えるので、気持ちが楽になる患者さんは多いようです。

エキスパートの仕事現場(18)

資格取得のきっかけ

私は救命救急や消化器外科・消化器内科の病棟で勤務していたのですが、2006 年に外来化学療法センターが開設されたのを機に、センターへ異動することになりました。その際、がん化学療法に関する知識や技術を従来以上に深めていく必要性を感じたのが、がん化学療法看護認定看護師の資格取得を思い立ったきっかけです。

認定看護師としての業務

2007年に認定看護師の資格を取得した後は、外来化学療法センターで抗がん薬の安全な投与や患者さんのセルフケア支援などを中心に行っていました。そうした活動を続けていく中で、がん患者さんやご家族の精神面を含めた全人的なケアに対する関心が高まっていき、2011年にがん看護専門看護師の資格を取得しました。
専門看護師の資格取得後は、がん患者サロンの企画やスタッフ教育といった組織横断的な院内活動のほか、看護大学の講師など院外での活動も増えました。

仕事のやりがい

一番励みになるのは、患者さんから気軽に声を掛けていただいた時です。がんという病気の性質上、「周囲に心配をかけたくない」との思いから、ご家族とはなかなか本音で話せないという患者さんもいらっしゃいます。お話に耳を傾け、自分が少しでもお役に立てたと感じられた時、“今までがん看護を続けてきて良かった”と心の底から思う瞬間があります。

close up! がん化学療法と栄養障害

がん化学療法を施行中の患者さんでは、しばしば体重減少や骨格筋の減少、食事摂取量の減少など(以下、「栄養障害」といいます)を認めます。ここでは、その背景を中心に解説します。

はじめに

がん治療は、がんの原発部位・リンパ節や転移部位に対して治療を行う「局所療法」(外科療法や放射線療法)と、他の臓器へのがん細胞の広がりを考慮して治療を行う「全身療法」(薬物療法や免疫療法)に大別されます。がん細胞は血液を介して全身に転移する可能性があることから、現在のがん治療では全身療法、とくに細胞障害性抗がん薬を用いた薬物療法(いわゆる「がん化学療法」)が様々ながん種における標準治療となっています。ただし、がん化学療法の施行中にはしばしば栄養障害を認め、近年では、除脂肪体重の低下やサルコペニアが抗がん薬による毒性発現、要入院加療、生命予後の予測因子である可能性が様々ながん種で示されています。

栄養障害の主な要因

がん化学療法施行中における栄養障害の主な要因として、以下のようなことが考えられます。

❶ がんによる代謝異常
がん患者さんの体の中では、がん細胞の刺激によって慢性的に炎症が起こっています。この炎症反応に関わる炎症性サイトカインの過剰な分泌が代謝の乱れ(糖新生や骨格筋たんぱく・貯蔵脂肪の分解の亢進など)を引き起こし、栄養障害や体力の消耗を招きます。

❷ 食欲・食事摂取量の低下
がんに伴う身体的・精神的なストレスのほか、消化器系のがんでは、がん組織によって物理的に生じる消化管の通過障害なども食欲・食事摂取量の低下の一因となります。

❸ がん治療による影響
がん化学療法に用いられる細胞障害性抗がん薬(いわゆる抗がん薬)の一般的な副作用の中には、悪心・嘔吐、味覚障害、食欲低下、口内炎、下痢など栄養障害に関わる症状も少なくありません。また、外科療法との併用(術後補助化学療法)の場合には術後後遺症による消化管機能の低下、放射線療法との併用では放射線宿酔(消化器症状、倦怠感など)や放射線性腸炎といった副作用が栄養障害と関連します。

抗がん薬の副作用

抗がん薬の副作用の背景には、薬剤ががん細胞と同時に正常な細胞の働きまで阻害してしまうことが関わっています。また、がん細胞が抗がん薬によって傷害された際に発生する炎症性サイトカインなどが、食欲や嘔吐などを司る中枢に作用して食欲低下を引き起こすことも考えられます。
抗がん薬の副作用は、薬剤の種類や投与方法などによって現れ方が異なり、症状の強さにも波がありますが、副作用の現れる時期をある程度予想することは可能です。近年では副作用に対する予防法や対策も進歩しており、制吐剤などを適切に用いることで症状を軽く抑えられる場合もあります。

栄養障害の指標

がん患者さんの栄養障害を把握する上で、体重減少(率)は有用な指標の一つといえます。ただし、一見、体重が増えているような場合でも、胸水や腹水、浮腫による体重増加の可能性もあるので注意が必要です。

栄養管理の意義

栄養障害はがん治療の継続や患者QOLなどに影響することが知られています。一方、適切な栄養管理は経口摂取・体重の維持、QOL 改善への寄与が期待できることから、がん化学療法の円滑な実施・継続に繋がる可能性があります。
多職種が密に連携して、抗がん薬の有害事象などに対処しながら、適切な栄養管理を行うことが望まれます。

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