TRAINING03成長期に必要な
トレーニング
〜「コーディネーショントレーニング」〜

いまの子どもは
不器用?

「転ぶときに手をつけない」「まっすぐに走ることができない」など、子どものからだにさまざまな異変が生じていることが叫ばれて久しくなります。この原因の一つに、子どもの遊びが昔と比べ大きく変化していることがあげられています。昔なら鬼ごっこ、相撲、ゴム跳びといった多様で豊富な遊びを通じて身につけていた動きが、現在では「サンマ(遊ぶ空間、時間、仲間)がない」ともいわれるように、遊びを通じて身につける機会が少なくなっているからだと指摘されています。

スポーツ選手においても、神経の働きが最も伸びる幼児期から成長期にかけて特定のスポーツだけでなく、いろいろな動きを身につけておくことは、将来スポーツの技能や体力を高めるために大変重要なことなのです。いいかえると、この時期にいろいろな動きを経験しておかないと、からだが成長しても運動能力が思うように伸びない、いわゆる「運動神経が鈍い」状態に陥ると考えられます。

運動神経とは?

スポーツ選手であれば、運動神経が良いにこしたことはありません。 ここでいう運動神経とは、目や耳など感覚器から入ってきた情報を脳が上手に処理して、からだの各部に的確な指令をだす神経回路のことです。近年、この運動神経を「コーディネーション能力」と呼ぶことが多くなってきました。

「コーディネーション」とは、 1970年代に旧東ドイツのスポーツ運動学者が考え出した理論で、コーディネーション能力を7つの能力に分けてとらえています(表1)。 その7つの能力とは、「リズム能力」「バランス能力」「変換能力」「反応能力」「連結能力」「定位能力」「識別能力」で、スポーツを行っている時は、これらの能力が複雑に組み合わさっているのです。

コーディネーション能力の分類

リズム能力 リズム感を養い、動くタイミングを上手につかむ
バランス
能力
バランスを正しく保ち、崩れた態勢を立て直す
変換能力 状況の変化に合わせて、素早く動きを切り替える
反応能力 合図に素早く反応して、適切に対応する
連結能力 身体全体をスムーズに動かす
定位能力 動いているものと自分の位置関係を把握する
識別能力 道具やスポーツ用具などを上手に操作する

例えばサッカーをしている場合、身体をバランス良くリズミカルに動かす(リズム能力・バランス能力・連結能力)、ボールの落下地点へ身体を移動する(反応能力)など、さまざまな能力が絶えず複雑に機能しているのです(表2)。
また、スポーツでは、二つ以上の課題を同時に行う場面がたくさんあります。例えば、サッカーでドリブルをしている時、周囲の状況を確認しながらボールをコントロールするといった場合です。このような場面でも、感覚器から入ってくる多くの情報を適切に処理して身体の各部へ伝える「コーディネーション能力」が重要となるのです。

サッカーを行っている時のコーディネーション能力の発揮

反応能力 ボールの落下地点へ体を移動
変換能力 状況に応じて動作を変える
リズム能力バランス
能力
連結能力
体をバランスよくリズミカルに動かす
識別能力 足を振り出す位置や角度、スピードなどを計算。
定位能力 ボールのスピード、強さ、弾道、ボールとの距離、
落下地点などを予測。
敵や味方の位置を確認し、ボールを出す位置を決定。

運動神経を伸ばす
コーディネーション
トレーニング

このコーディネーション能力(運動神経)を養うのが、「コーディネーショントレーニング」。 このコーディネーショントレーニングを行う時に、いくつか注意してほしいことがあります。

まず、小さい子どもを対象にトレーニングを行う場合、正しい姿勢で行うことができる種目を選ぶ必要があります。最初から難しい種目に取り組むのではなく、動きのレベルに合わせたものから徐々にレベルアップしてください。また、効果的に行うために、短時間でいろいろなバリエーションの種目を行うということも大切となります。同じ種目を5〜10分間続けて行うのではなく、1分程度で次から次へと新しいトレーニングに取り組むことで、からだにさまざまな刺激が加わりトレーニング効果があがるともいわれています。

ただし、これだけの短時間に数多くのトレーニングを行うためには、それだけの種目を準備しておかなければならないと頭を抱える方もいるかもしれません。そこで、いつも行っている運動にちょっと手を加えるだけでコーディネーショントレーニングに早変わりするポイントを示しますので(図1)、いろいろ工夫してチャレンジしてみてください。

いつも行っている運動を
コーディネーショントレーニングに変えるポイント

  • 1両側性

    前後左右上下、前に進んだら次は後ろ、右で出来たら次は左というように。

  • 2複合性

    運動の組み合わせ、足の運動に手の運動を加えるなど、複数の動きを組み合わせる。

  • 3対応性

    条件の変化。例えばテニスボールを使った運動をバレーボールで行ってみる。

  • 4不規則

    脱マンネリ運動。合図を変えたり、フェイントしたり、意外性のある動きを意識して取り入れる。

  • 5変化度

    レベルアップ。ひとつの運動ができたら、少しずつ難易度を上げて次に挑戦する。

コーディネーション
トレーニングの実際

それでは運動神経を楽しく伸ばすコーディネーショントレーニングを紹介します。子どもだけでなく大人の皆さんもぜひチャレンジしてみてください。

  • 1マリオネット

    その場で足を「グー・パー」、腕を「上・下」のリズムでジャンプを続けて行います。足はそのままのリズムで腕のリズムを「上・下・下」に変えます。また、腕は「上・下」のままで、足を「グー・グー・パー」のリズムに変えるといった条件にもトライしてみましょう。

  • 2キャッチ・プル

    二人1組で向かい合い、片手を軽く握ります。もう一方の手でジャンケンをして、勝った人が素早く手を引き、負けた人は相手の手を握ります。慣れてきたら、勝った人が握り、負けた人が手を引く、また足でジャンケンをするといった条件にもチャレンジしてみましょう。

  • 3リアクションジャンケン

    一人がジャンケンを出し、もう一人が後出しでよいので、できるだけはやく手で勝つものを出します。慣れてきたら、手で負けるものを出す、足で負けるものを出す、といった条件にもチャレンジしてみましょう。

参考文献

  • 東根明人,宮下桂治(2004)『もっともっと運動能力がつく魔法の方法』.主婦と生活社,東京.
  • 東根明人監修(2006)『体育授業を変えるコーディネーション運動65選-心と体の統合的・科学的指導法-』.明治図書出版,東京.
  • 広瀬統一,吉永武史(2007)運動神経を良くする方法.日経キッズプラス,20,67-83.
  • 木塚朝博(2010)見ながら動きを考えながら動く.子どもと発育発達,7,229-234.
  • 酒井俊郎(2007)幼児期の体力づくり.体育の科学,57,417-422.