TRAINING01成長期とカラダの
変化について

子どもは大人の
ミニチュアではない

「子どもは大人のミニチュアではない」。この言葉は、成長期にある小学生や中学生のジュニアスポーツ選手やその指導者が、常に考えて欲しい言葉です。
子どもと大人のからだは大きく異なるため、大人が行っているトレーニングと同じことをすれば、トレーニングの効果が思うようにあがらないどころか、ケガをするおそれまであります。テレビやインターネットが発達している今日では、いろいろな情報を比較的簡単に手に入れることができるため、特に注意が必要です。では、子どもと大人のからだはどのように違うのでしょうか?

成長期と身長の
変化について

図1・図2は、8歳から13歳までの男女ジュニアスポーツ選手の身長の変化を示したものです。青色の線は身長の測定値、赤色の線は身長の伸びる速度を表しています。青い線だけみると、年齢が高くなると身長も徐々に伸びているようにみえます。
しかし、男子は、赤い線をみると、10歳頃にいったん身長の伸びる速度が低下しますが、その後急激に速度が高まり、12.5歳頃にピークに達することが分かります。一方、女子は男子とは異なり、9歳頃に身長の伸びがピークに達しています(図2)。
このように子どもから大人になるプロセスにおいて、最もカラダが成長する時期を「成長期」と呼び、一般的に男子では約12歳,女子では10歳にこの時期を迎えるといわれています。

ジュニアスポーツ選手(男子)の身長
ジュニアスポーツ選手(女子)の身長

身長が伸びるメカニズムには、男女ともに意外にも女性ホルモンの働きが深く関わっています。成長期を迎え女性ホルモンが分泌されると成長ホルモンの分泌を介して、身長が伸びるように働きます。一方でその分泌量が多くなると、今度は骨に働きかけて身長の伸びを停止させる働きがあります。男子より女子の方が約2年成長期が早く、また身長が低いのは、成長期前の女性ホルモンの濃度が男子より女子の方が高いこと、さらに成長期になると女性では女性ホルモンが素早く増加することが関係しているのです。

成長期と体格の
変化について

成長期を迎えると、男子は筋骨隆々、女子は丸みを帯びたからだへと変化します。
この男性、女性らしいからだへの変化は、男子では男性ホルモン、女子では女性ホルモンの働きが関わっており、体重・体脂肪率といった測定値にも変化が現れます。男子の体重は年齢が上がるとともに増加しますが(図3)、身長のようにピークがはっきりしていません。これは、成長期以降に男性ホルモンの働きで全身の筋肉量が増加するため、13歳までの範囲ではピークが現れないからだと思われます。また、男子では成長期に体脂肪が減少するといわれています。図4のグラフをみると11歳頃から、身長の伸びる速度がピークに達する12歳後半まで体脂肪率が低下していることが分かります。

ジュニアスポーツ選手(男子)の体重
ジュニアスポーツ選手(男子)の体脂肪率

女子では体重の増加のピークが9歳頃と12歳頃にみられます(図5)。9歳頃のピークは、身長の伸びのピークと一致していることから、身長の急激な伸びが体重の増加に関係していると考えられます。一方で12歳頃のピークは、体脂肪率のピーク(図6)とも一致していることから、女性ホルモンの働きによって女性らしいからだつきへと変化したことが、体重や体脂肪率の増加に関係していると考えられます。
このように私たちのからだは成長期に大きく変化することが分かりました。では、成長期をいつ迎えるのかを予測する方法はあるのでしょうか。

ジュニアスポーツ選手(女子)の体重
ジュニアスポーツ選手(女子)の体脂肪率

成長期は
予測できるの?

成長期を予測する方法として、一般的には骨年齢査定法が用いられています。これは、手のレントゲン撮影をすることにより、骨形成の状態から成長期を予測する方法のことです。
しかし、この方法はX線撮影を必要とすることから、さまざまな制約が生じてきます。そこで、Mirwaldらが、身長・座高・脚長などから成長期を予測する方法を提唱しました。成長期の骨の成長は手や足の指先といった末端から始まり、続いて腕や足、背骨へと移るため、身長の伸びのピーク前に脚長、身長のピーク後に座高がピークに達します(図7)。このような現象を利用して成長期を予測する方法は、骨年齢査定法とは異なり、現場でも簡単に行うことができるという利点があります。
しかしながら、Mirwaldらが算出した成長期を推定する公式は、カナダ人の体格を基に作成しているため、この式をそのまま日本人に用いることには疑問が残ります。このようなことから、今後さらに日本人を対象とした簡便な成長期を予測する方法の開発が待たれるところです。

(a)男子および(b)女子の身長、脚長および
座高の発育速度のピークMirwald(2002)より作成)

参考文献

  • 藤井勝紀(2008)生涯発達の健康科学-生涯にわたる健康への科学的探究-.杏林書院.
  • Mirwald, R. L., Baxter-Jones, A. D., Bailey, D. A. and Beunen, G. P. (2002) An assessment of maturity from anthropometric measurements. Med. Sci. Sports Exerc., 34, 689-694.
  • 大山健司(2004)思春期の発現.山梨大学看護学会誌,3,3-8.
  • 佐竹隆(2006)発育研究の動向.体育学研究,51,253-262.
  • 渡辺英次,三島隆章,岩舘千歩,関一誠(2010)ジュニアスポーツ選手における身体的発育発達の特徴に関する考察-Polynomialによる解析-.教育医学,55,251-264.