高齢者がかかりやすい感染症の種類や季節毎の特徴とは

知る 2020.06.11

免疫力が衰えている高齢者は、感染症にかかりやすいもの。そのうえ、体力も弱いため感染症にかかると重症化するリスクも少なくありません。肺炎や敗血症を合併して、命を落とすケースもあります。

高齢者を感染症から守るには、正しい予防対策の徹底が必要です。そこで今回は、高齢者がかかりやすい感染症の特徴と予防対策について詳しく解説します。

高齢者がかかりやすい感染症の種類と症状

世の中にはさまざまな種類の感染症がありますが、高齢者がかかりやすい感染症には次のようなものが挙げられます。

インフルエンザ

毎年秋の終わり頃から春の初めにかけて、全国的に流行する感染症です。インフルエンザウイルスによる感染症で、感染経路は接触感染と飛沫感染。発症すると高熱、のどの痛み、ダルさ、関節痛などの症状を引き起こします。健康な方であれば、4~5日で自然に回復することがほとんどですが、高齢者は気管支炎や肺炎などの合併症を生じやすく、重篤な状態になることも少なくありません。

なお、厚生労働省のデータによれば、インフルエンザの死亡率は年齢を重ねるごとに上昇し、70代以降では若い方の30倍以上にも上るとのこと(※1)。入院治療が必要になる方の割合も年齢が上がるごとにアップします。

※1)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/219-about-flu.html
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/120217-01.pdf

肺炎

現在、肺炎は日本人の死因5位。6.9%の方が肺炎で亡くなるとされています。(※2)高齢者の肺炎は、飲食物や唾液が気管に流れ込むことによって生じる「誤嚥性肺炎」が多いですが、風邪が悪化して肺炎に進行してしまうことも少なくありません。

肺炎は気道に細菌やウイルスが感染することによって発症する病気で、発症の原因となる病原体はさまざまですが、病原体が何であれ、発症すると発熱、咳、呼吸困難感、胸の痛みなどを引き起こし、重症化すると自力での呼吸が困難に…全身の酸素が不足して重篤な状態に陥ります。

高齢者は肺炎を発症すると命を落とすケースも多いため、予防対策を徹底することが大切です。高齢者の肺炎対策として平成26年には、高齢者の重篤な肺炎を引き起こしやすい「肺炎球菌」のワクチンが65歳以上の方の定期接種に定められました。

※2)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai18/dl/gaikyou30.pdf

尿路感染症

膀胱や尿道、尿管、腎盂など尿の通り道に細菌が入り込んで炎症を引き起こす病気です。通常、これら尿の通り道は無菌状態。ですが、加齢とともに膀胱や尿道の働きは低下するため、尿道口から細菌が侵入して尿路感染症にかかりやすいのです。とくに寝たきりの方は、膀胱内に尿が溜まりやすくオムツなどで陰部が不衛生になりやすいため、頻繁に尿路感染症を繰り返す…というケースも多々あります。

尿路感染症を発症すると、残尿感や排尿痛、下腹部の違和感などを生じます。さらに炎症が腎臓内にまで波及すると腎盂腎炎を発症。強い背中の痛みや高熱が生じ、敗血症に至ることも珍しくありません。

感染性胃腸炎(ノロウイルスなど)

ノロウイルスなどによる感染症です。症状は病原体の種類によりますが、発熱、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)などの症状を引き起こします。重症なケースでは、頻回の下痢や嘔吐のため脱水状態に陥ることも少なくありません。とくに高齢者は元々体内に保持されている水分量が少ないため、脱水を起こしやすいのが特徴です。

一般的な感染性胃腸炎は冬に流行しやすいですが、年間を通して感染する危険があります。主な感染経路は接触感染と経口感染。施設内などで集団発生することもあるため、徹底した感染対策が必要です。

MRSA感染症(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症)

「MRSA」とは、一部の抗生剤に対して耐性を持つ黄色ブドウ球菌のことです。黄色ブドウ球菌は、私たちの皮膚や口の中などに常在している細菌の一つ。MRSAも通常は悪さをすることはありません。しかし、免疫力の低い高齢者が感染して肺炎や腸炎などを発症すると、治療が難しいばかりでなく、敗血症や髄膜炎などに進行して重篤な状態に陥る危険が高くなります。

なお、近年、MRSAのように抗生剤が効かなくなった細菌が増えていることが社会問題となっています。原因は抗生剤の不適切な使用とされており、抗生剤の使用頻度が高い日本は海外に比べてこれら「薬剤耐性菌」の発生頻度が高い傾向にあります。特に高齢者は、これまで不適切な抗生剤の使用を繰り返されてきた方も多く、MRSAをはじめとした「薬剤耐性菌」を持っている率は高め…。免疫力の低さと相まって重篤な感染症を引き起こすリスクが高いのです。

結核

結核は過去の病気というイメージが強いかも知れません。しかし、今でも年間で40,000名以上の方が新たに結核と診断されています。死因順位は30位とのこと。決して珍しい病気ではありません。(※3)

結核は発病すると、発熱、咳、血痰、呼吸困難感、体重減少、活動性低下などの症状が引き起こされます。感染経路は空気感染ですが、感染してから症状が現れるまでに長い時間がかかるのが結核の特徴です。結核は結核菌が肺の中で悪さをすることで発病します。

しかし、通常の免疫力がある方であれば、肺の中に侵入した結核菌は硬い殻の中に閉じ込められて眠った状態に…。感染したとしても8~9割の方は、結核菌が眠った状態のまま一生を終えます。そして、残り1割程度の方が免疫力の低下などにより、結核菌が悪さを始めて発病するのです。

結核は治療法が確立するまで日本人の死因1位を独走していました。そのため、高齢者は若い頃に結核菌に感染している方が多く、加齢とともに免疫力が低下することをきっかけに結核を発病しやすいのです。実際、結核と診断された方の半数以上が60歳以上の高齢者。近年、高齢者の結核患者が増えていることが問題となっています。

※3)https://jata.or.jp/rit/rj/kekkak00.htm

高齢者が感染症にかかりやすい理由は?

上でも述べたように、高齢者は感染症にかかりやすいものです。その主たる原因は、免疫力と体力の低さ。一方で、高齢者を取り巻く状況や環境も感染症にかかりやすい原因となり得ます。
では、高齢者が感染症にかかりやすい理由について、さまざまな角度から見てみましょう。

内因性感染と外因性感染

感染症は、病原体の由来によって内因性感染と外因性感染に分けられます。
内因性感染は、腸内細菌や皮膚常在菌など元々私たちの身体に潜んでいる微生物が何らかの原因によって悪さを始めることによって生じる感染症のことです。一方、外因性感染は空気、飲食物、土、動物など外界中の病原体が体内に侵入することによって発症する感染症のこと。

つまり、「もともといた微生物が悪さを始める」のが内因性感染で、「悪さをする病原体を体内に取り込んでしまう」の外因性感染症です。

外因性感染症は若い健康な方でもかかるものです。もちろん高齢者も病原体から身体を守る免疫力が低下しがちなため、外因性感染症にかかるリスクは高くなります。

一方で、内因性感染症は通常の免疫力がある方であれば微生物の増殖や働きが抑えられているので、発症することはほとんどありません。対して高齢者は、体調を崩したときや疲れが溜まったときなど、さらに免疫力が低下するタイミングで発症することがあるのです。

感染症にかかるパターン

高齢者は、免疫力や抵抗力といった身体機能の低下だけでなく、「感染症がうつりやすい」環境が原因で感染症にかかることがあります。

とくに、一人での外出が困難になったり、外出する気力がなくなったりして家に籠りがちな方は注意が必要です。確かに、家の中にいれば、外の環境から病原体をもらってくることはありません。ですが、家族が感染症にかかると、ずっと同じ家の中にいる高齢者はそれだけ感染するリスクが高くなります。

また、高齢者施設を利用している方は、施設内で感染症がうつることも少なくありません。施設内は利用者やスタッフが密なかかわりを持つため、接触感染や飛沫感染が生じやすいのです。

また、結核など空気感染を引き起こす感染症患者が一人でもいると、ホール内にいる全ての方に感染する危険が生じます。施設内で同一感染症の集団発生が起こることも少なくありません。

高齢者の感染症をできるだけ防ぐための対策

感染症は、がんなどの病気と異なり、予防対策を徹底することで発症リスクを大幅に軽減することができます。高齢者は感染症にかかると重症化しやすいため、正しい予防対策が必要です。
次のような点を心がけて、高齢者を感染症から守りましょう。

感染症対策の原則

感染症を予防するための三大原則は、「病原体を持ち込まない」・「病原体を持ち出さない」・「病原体を拡げない」ことです。

「病原体を持ち込まない」ためには、手洗いや手指消毒、マスクの着用を徹底することが大切。マスクには、のどや鼻の粘膜を潤して風邪をひきにくくする効果もあるので一石二鳥ですね。

また、「病原体を持ち出さない」ためには、マスクの着用をすることが必要です。マスクは「病原体を持ち込まない」ようにする役目もありますが、感染症を周囲の人に拡げないという効果もあります。咳やくしゃみなどの症状があるときは、必ずマスクを着用するようにしましょう。

そして、「病原体を拡げない」ためにも手洗いや消毒、マスクの着用が必要です。さらに、尿や便などの排泄物、吐物などの処理をするときは手袋や使い捨てエプロンなどを利用するなどの対策が望ましいです。

免疫力をアップさせるには…?

感染症を予防するには、免疫力を一定水準に維持することが大切です。加齢は誰にでも平等にやって来るもの…加齢による免疫力の低下を完全に防ぐことは困難…。しかし、感染症を少しでも予防できるよう、日ごろから免疫力アップを目指した以下のような習慣を身に付けるようにしましょう。

  • 規則正しい食生活
  • 十分な休養と睡眠
  • ストレスの解消
  • ワクチン接種(肺炎球菌、インフルエンザなど)
  • 室内環境の整備

免疫力と食生活の関係とは?

ここで、食生活と免疫力の関係を疑問に思った方も多いことでしょう。実は、食生活の乱れは免疫力低下を引き起こすことがわかりつつあります。というのも、私たちの腸は免疫の働きに必要な「IgA」と呼ばれる抗体を産生していますが、腸内環境が悪化すると「IgA」の産生量にも影響を与えることがあるため、免疫力が低下する可能性が考えられるのです。

腸内環境を整えるには、食物繊維やヨーグルトのような乳酸菌を含んだ発酵食品を摂ると良いとされています。毎日の食事に積極的に摂り入れましょう。

まとめ

高齢者は、今回ご紹介したさまざまな原因で、感染症にかかりやすい傾向にあります。しかも、感染症にかかると重症化しやすいため注意が必要です。

高齢者にとって感染症は恐ろしいものですが、予防対策を徹底することでリスクを抑えることができます。日ごろから感染対策を心がけ、免疫力アップの習慣も同時に行っていきましょう。

【監修】成田亜希子

所属学会:日本内科学会、日本感染症学会、日本結核病学会、日本公衆衛生学会
略歴:弘前大学医学部卒業。内科医として勤務。また、国立医療科学院でも研修を積み生活習慣病や感染症予防などの公衆衛生分野の知見を習得している。

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