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Vol.14

Nice!

特集
腎臓病患者様の看護
~食生活支援を中心に~

食事療法は慢性腎臓病の進行を予防する上で大きな役割を担います。
しかし、治療のためとはいえ、長年築き上げてきた食習慣を変えることは患者様にとって決して容易ではありません。
また、食事療法は効果がなかなか見えづらく、長期の療養生活の中で不安や葛藤を抱く患者様もいらっしゃいます。
そこで、今回は腎臓病患者様の食生活を支援する上での注意点などを中心にご紹介します。

腎臓病患者様の看護-ある日のこと-

腎臓病患者様の食生活を支援する上での注意点

腎臓病の食事管理は長期にわたって継続していく必要があり、日々の食生活に対して何らかの不満や葛藤を抱えている患者様も大勢いらっしゃいます。そうした患者様の思いを傾聴し、多職種による情報共有や連携を図りながら、療養生活の継続や強化に繋げていくことは、看護師にとって重要な役割の一つです。
ここでは、日常の療養生活、とくに食事管理に関して患者様とお話する際の注意点を中心にまとめました。

【患者様と話す際に心がけること】

  • “患者様から話を聞き出す”というよりも、“患者様が自由に話せる”ような環境づくりを心がけます。
  • コミュニケーションに当たっては、自分が相手にどう映っているかを意識しながら信頼関係の構築に努めます。“この人なら理解してくれる”と思ってもらうことができれば、患者様の側から自発的に話していただけるようになります。
  • ただし、誰にでも他者に話せない、話したくない、伝えられない、“言いづらさ”を抱えていることがあるという点も十分に理解し、その気持ちを尊重しながら対応します。
POINT
患者様の些細な変化を見逃さない
  • 患者様の話に耳を傾けると同時に、全身状態も十分に観察します。
  • 例えば、いつもは外来通院時に自立歩行で来院される患者様が杖を持参しているなど、普段と異なる点がないか注意深く観察します。何か気になる点があれば、患者様との面談、身体症状の有無、血液検査データなどから、より詳細な情報収集を行います。
POINT 患者様の些細な変化を見逃さない

【患者様の療養生活をありのまま捉える】

  • 「患者様が毎日どのように療養生活を送っているのか」を、ありのまま捉えます。そして、患者様が日常の療養生活の中で工夫している点、苦労している点などを引き出します。
  • 日常生活における努力を患者様ご自身に意識していただくことで、療養に対する動機づけや継続の強化に繋がります。また、患者様が普段から心がけている内容を聞くことで、セルフケアに対する理解度や意欲を知る手がかりになります。

【腎機能や検査値の見方についての説明】

  • 腎機能が比較的保たれている腎臓病の初期には、自覚症状が出現しにくいという特徴があります。また、食事療法を中断しても目立った体調の変化は表れにくいため、療養生活の継続に対する患者様の意欲をいかに維持するかが重要です。
  • 腎臓病の早期発見として蛋白尿の有無を確認しますが、糖尿病を併発している場合は腎症の指標としてアルブミン尿の発見が腎症進行予防のための生活指導に繋げられます。

【食事療法を遵守できない方へのアプローチ】

  • 食事療法の遵守を妨げている背景には何か理由があるはずなので、それを引き出すように心がけます。その際、「なぜできないの?」と詰問口調で接すると、患者様は心を閉ざしてしまいます。まず相手のありのままを認めて、患者様の役に立ちたいという気持ちを伝え、話を引き出すことが重要です。
  • 患者様は十分に話をすることによって療養生活上の課題をご自身で明確化でき、課題解決への動機づけにもなります。
POINT
実行可能な目標を設定する
  • “患者様が実行できそうな目標”を具体的に例示して、患者様ご自身に判断していただきます。“何が実行できそうか”を一番よく知っているのは患者様ご自身ですので、無理な目標を押し付けないように注意しましょう。
  • また、患者様によっては食事を過剰に制限してしまう方がいらっしゃいます。とくに高齢の患者様の過度なたんぱく質制限は低栄養をまねき、フレイルやサルコペニアに繋がりやすいため注意が必要です。

【食事内容の記録を促すためのアプローチ】

  • 食事内容を記録することのメリットは、記録した内容(行動)を症状(結果)と関連付けて考えられる点にあります。ご自身の行動がどのような結果と繋がっているのかを振り返ることで記録の有用性を実感でき、その後の行動変容にも繋がります。
POINT
記録しない方、できない方への支援
  • まずは一緒に食事内容の記憶を辿ることから始めてみます。そうすると、何を食べたか覚えていない日が意外に多いことを自覚でき、「次回からは書いてきます」と自発的に言っていただけることも多いです。
  • 最初のうちは月に数日分しか記録できなかったとしても、記録した日の食事内容と血圧の値などを関連付けて考えられれば、記録の意義を理解する上での有意義な体験になります。
POINT 記録しない方、出来ない方への支援

【ご家族に対するアプローチ】

  • 腎臓病に限らず、慢性疾患の食事管理においてご家族のサポートは大変重要な役割を担います。患者様に腎臓病教室などを勧める際には、ご家族と一緒に参加いただくよう促しましょう。
  • 腎臓病教室などを通じて、同じような境遇の人たちと交流することは、患者様だけでなく、そのご家族にとっても非常に有用です。
POINT
腎臓病のことをご家族に打ち明けていない患者様も意外に多い
  • 自分のためだけにご家族が腎臓病食を毎日調理したり、自分と同じ腎臓病食をご家族が食べたりすることに対し、遠慮や申し訳なさを感じてしまう患者様は少なくありません。
  • また、腎臓病についてご家族にうまく説明できない患者様も中にはいらっしゃいます。
  • こうした場合には、まず医師と情報を共有の上、もし可能なら教育入院を勧めてみるのも一つの方法です。入院手続きなどをきっかけに、自然とご家族が関わるようになることもあります。

【病期の進行に伴って気持ちが揺れ動く患者様へのアプローチ】

  • 腎臓病の食事管理は病期の進行とともに変化していくため、困惑をおぼえる患者様も少なくありません。食事管理に対する不満やストレスは当然あるという前提で接するように心がけましょう。
  • 患者様に寄り添う上で重要となるのが、ご本人が“病い”の体験をどのような文脈に位置づけ、意味づけているかを知ることです。その手がかりはご本人の言葉の中にあるので、共感的態度で接し、患者様の語りをしっかりと傾聴します。
  • 患者様はご自分の考えや気持ちを話すことで、自らの体験を整理でき、新たな自分の考えに気付くきっかけにも繋がります。
エキスパートの仕事現場(14)

慢性疾患看護専門看護師になろうと思った理由

私が最初に就職したのは透析専門病院で、週3回の透析療法の管理を行いながら日常生活を営んでいる大勢の患者様たちと接していました。その中で、通院が途絶えてしまった患者様から、透析を継続することの辛さについてお話を伺う機会がありました。透析導入を一旦は受容したものの、実生活での様々な困難に直面している患者様の様子から、看護師として、どう支援すべきかを大いに考えさせられました。
その後、海外で看護を実践する機会があり、患者様の療養生活や治療管理などのセルフマネジメントの方法や、自律的に治療選択を行う姿に触れながら、その人らしさとしての人の価値観や権利について学びました。海外での看護の学びを通じて、看護職は患者様を医療や社会と繋ぐ役割が大きいということを知り、患者様の権利を擁護する看護のあり方について考える契機になると同時に、自分の看護の未熟さを知りました。帰国後は透析専門病院に戻り、自分にできること、不足していたことは何かを自問しながら患者様と向き合いました。特に、腎代替療法の選択が必要になった際、医療者から提供された情報を元に、ご自身で治療を選択できる方がいる一方で、情報を知りたがらない方もいらっしゃいます。選択には人それぞれで、病気の理解や管理方法の確立に向けて、より早期から支援する必要があると実感しました。
そんな折、日本腎不全看護学会の学術集会で黒江ゆり子先生(現岐阜県立看護大学学長)の特別講演を拝聴し、『病みの軌跡理論』について学びました。“老若男女を問わず、誰もが病気の慢性状況に苦しめられる可能性があり、誰もがこうした状況の予防を望み、それが困難であれば慢性状況を管理しようとする”との先生の言葉が強く印象に残り、慢性の病いを持つ患者様に対する支援の在り方について深く学びたいと思ったのが、大学院への進学を決めたきっかけです。

資格取得までの道のり

修士課程では、慢性看護学を通じて生活者とは何かについて学びました。特に、慢性維持透析療法を受ける患者様は週3回の外来透析が必須であり、医療者との関係性によっては通院を苦痛に感じてしまうかもしれません。私たち医療者が患者様を生活者として理解することの重要性を痛感しました。

専門看護師としての業務内容

実践:長期の経過を辿る慢性腎不全は患者様の人生の一部であり、保存期からの介入によるセルフケアの確立、腎症の進行・重症化予防、腎代替療法選択時の意思決定や治療法導入後の療養法の確立に繋げる支援を行っています。

  • 保存期における生活指導
    糖尿病透析予防外来
  • 末期腎不全における腎代替療法選択支援:腎代替療法選択外来
  • 腎移植後の生活支援:腎移植後外来

相談:短期入院で生活調整が難しいケース、短い外来診療時間で患者様の生活背景の把握・目標設定・適切な療養法の指導を行うことが困難なケースなどに関する相談が多いです。

調整:患者様の生活環境に応じて必要な社会資源を活用できるよう、地域の医療者との連携に取り組んでいます。特に、高齢の腹膜透析患者様の支援には訪問看護師の協力が欠かせず、市内のみならず県内の訪問看護師との連携体制づくりを行っています。

倫理調整:末期腎不全における治療選択支援が中心です。最近では、病いの長期管理に疲れてしまった方や、高齢で十分に人生を全うしたと感じている方など、腎代替療法の非導入を選択されるケースが増えています。また、がん治療に伴う腎機能低下・透析導入に対する葛藤に向き合う機会も増えました。直接的な介入依頼もありますが、患者様にとっての最善な選択を病棟看護師と一緒に考え、カンファレンスなどで継続的に話し合うための支援を中心に行っています。

教育:生活習慣病の予防、療養指導・治療、長期療養上の倫理的課題に関する患者様・ご家族の支援などについて学ぶ場を提供しています。院外では地域の看護師向け教育セミナー、学会のシンポジウムや教育セミナーなど、院内では新人看護師を対象にした外来研修を行っているほか、大学院の専門看護師教育課程での実習も担当しています。

研究:保存期における生活指導の効果や、末期におけるアドバンス・ケア・プランニングなどについて研究しています。

仕事のやりがい

病いと共存しながら生活をより良くするための支援について、大勢の患者様やご家族との出会いを通して考える機会を与えられていることに、一人の看護師としてやりがいを感じます。

クスリの話(14)

一般的に、薬は肝臓で代謝を受けて腎臓から排泄されます。その腎臓が障害された透析患者様では、薬が蓄積しやすく、副作用が生じやすいことは容易に想像できます。透析患者様には使えない薬、注意しながら使用する薬について述べます。

薬の代謝と排泄

薬の中でも脂溶性薬物は、主に肝臓で代謝されて無毒化され排泄されます。一方、水溶性薬物は肝臓で代謝を受けずに、薬効を発揮した後は腎臓から排泄されます。さらに、肝臓で代謝を受けた後も無毒化されずに薬効を持つ薬もあります。
がん性疼痛に使われるモルヒネは、肝臓でグルクロン酸抱合という代謝を受けて、モルヒネ-6-グルクロニド(M6G)という腎臓から排泄されやすい形に変わります。ただし、腎機能が低下しているとM6Gが排泄されずに蓄積します。M6Gは鎮痛作用もある上に眠気も誘発するため、腎機能の低下した患者様にモルヒネを使うと、いつでも眠そうな感じになってしまいます。したがって、このような影響の少ない疼痛治療薬であるフェンタニルやオキシコンチンを使います。一方、モルヒネまたはその代謝物は、若干ですが透析で除去されます。モルヒネが除去されることで痛みが誘発される可能性もあります。透析で除去されるかどうかは、アルブミンなどの蛋白との結合率、血液中にどのくらい薬があるかを示す分布容積という指標で決まります。
胃薬の中には、胃酸を中和するためにアルミニウムを含むものが多数あります。アルミニウムも腎臓から排泄されるため、蓄積すると脳症を起こします。胃薬は長期にわたって服薬する方も多く、薬にアルミニウムを含んでいるかどうかも分かりづらいため、添付文書等で確認して下さい。またエナラプリルなどのACE阻害剤は透析膜によって薬の効果が増強し、ショックを起こす場合があります。汎用される透析膜であるAN69膜が陰性に荷電しているためです。

透析患者様に使ってはいけない薬の例

下表に、透析患者様にとって禁忌(基本的に使ってはいけない)となっている薬の例と、どのような副作用を生じる可能性があるかについて挙げました。紙面の都合で一部のみを掲載しますが、リウマチ治療薬や骨粗鬆症治療薬などにも透析患者様に対して禁忌の薬があります。

薬効 医薬品名 商品名 副作用の理由
胃薬 アルミゲル、アルサルミン(スクラルファート)、アドソルビン、SM散、コランチル、マーロックス、マルファ配合顆粒等 アルミニウムを含有し脳症を生じる。
抗不整脈薬 ①シベンゾリンシベンゾリン
②リン酸ジソピラミド錠
①シベノール
②リスモダン
低血糖を生じる。
抗糖尿病薬 ①ブホルミン塩酸塩
②メトホルミン塩酸塩
①ジベトス
②メトグルコ
乳酸アシドーシスのリスクが高まる。
脂質異常症治療薬 ①フェノフィブラート
②ベザフィブラート
③ペマフィブラート
①リピディル
②ベサトール
③パルモディア
横紋筋融解症があらわれやすくなる。
抗凝固薬 ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩 プラザキサ 出血の危険性が増大する。
内視鏡前処置薬 リン酸二水素ナトリウム一水和物、無水リン酸水素二ナトリウム ビジクリア リンの排泄が遅延して、急性リン酸腎症(腎石灰沈着症)を悪化させるおそれがある。
MRI造影剤 ガドテル酸メグルミン注射液 マグネスコープ 腎性全身性線維症が生じる。
▲表透析患者様への使用が「禁忌」とされている薬の例
カンタン生理学(14)

人口の高齢化に伴って高齢の透析患者が増えています。ここでは、高齢の透析患者における低栄養と不足しがちな栄養素について解説します。

1.高齢化が進む透析患者

腎臓は、私たちが生命を維持する上で大変重要な役割を担っています。慢性腎臓病(CKD)とは、その機能が長い年月をかけて次第に低下していく病態を指し、薬剤だけで腎機能を補うことができない状態(末期腎不全)になると、「腎代替療法」が必要になってきます。
腎代替療法は腎移植(生体腎移植・献腎移植)と透析療法(血液透析・腹膜透析)に大別されます。このうち、腎移植はほぼ全ての腎機能を補うことができる根本的な治療法ですが、腎臓の提供者(ドナー)が必要となり、日本での施行件数は年間1900人程度で、透析患者に比べると必ずしも多くありません。
一方、透析療法は腎臓が持つ、尿をつくるという機能を部分的に代替する治療法で(表1)、腎臓自体を回復させる作用は持たないことから、合併症に注意しながら生涯にわたって治療を続けていく必要があります。とくに近年は人口の高齢化に伴って高齢の透析患者が増えており、透析歴の長期化も進んでいます。こうした中で重要視されているものの一つが、低栄養とそれに伴う合併症の対策です。

腎臓の主な機能 透析による機能の代替
尿をつくる機能
体にたまった老廃物を尿として体外へ排泄する 体にたまった老廃物を除去する
体内の水分量が一定になるように尿量を調節する 余分な水分を除去する
血液中の電解質濃度を調節する 血液中の電解質濃度を正常な値に戻す
血液を弱アルカリ性に保つ 酸性に傾いた血液を弱アルカリ性に戻す
ホルモンをつくる機能(内分泌臓器としての機能)
血液をつくるホルモンや血圧を調節するホルモンを分泌する 透析では補うことができず、別に薬で補う必要がある
ビタミンDを活性化して骨の生成を促す
▲表1腎臓の主な機能と透析による機能の代替

2.透析患者に見られる低栄養

透析患者は「たんぱく質・エネルギー消耗状態(protein-energy wasting:PEW)」と呼ばれる特徴的な低栄養状態になりやすいことが知られています。PEWとは、国際腎疾患栄養代謝学会と国際腎臓学会が2008年に提唱した概念で、体たんぱく質(骨格筋・血液中のたんぱく質)やエネルギー源(体脂肪)の貯蔵量が減少して引き起こされる低栄養を指します。PEWの主な原因としては、以下のようなものが考えられます。

PEWの主な原因

●栄養の摂取不足 … 過度の食事制限

●食欲不振、消化器症状 … 透析不足による尿毒症症状、ストレス、薬剤の副作用

●併発疾患の存在 … 糖尿病、心血管疾患、感染症など

●透析に伴う栄養素の除去 … アミノ酸、微量元素、ビタミンなど

●慢性炎症 … 透析液中のエンドトキシン、感染症など

etc.

PEWは通常の低栄養(たんぱく質・エネルギー低栄養状態:PEMなど)とは質的に異なる点に注意が必要です。例えば、PEMでは栄養摂取量の不足によって全身性の代謝回転の低下を認めるのに対し、PEWでは慢性炎症による代謝の亢進をしばしば認めます。こうした違いを踏まえて適切に対処しないと、サルコペニア(筋肉量の減少・筋力の低下・身体機能の低下)、フレイル(要介護の前段階)の進展を招き、ADL・QOLを障害するばかりではなく、治療に対するアドヒアランスや予後にも影響してきます。
透析患者のサルコペニア・フレイル対策の基本となるのは、適切な運動と並び、十分なエネルギー摂取と残存腎機能や透析量に応じたたんぱく質摂取を基本とする栄養療法です。適正量のエネルギーとたんぱく質を確保しようとするとリンなどの負荷が懸念されますが、その際には吸着薬をはじめとした薬剤の併用やCKDに配慮した栄養補助食品の活用も検討すると良いでしょう。

3.透析患者で不足しがちな栄養素

前述の通り、透析患者の栄養管理ではエネルギー・たんぱく質摂取量の管理が中心となりますが、その他の栄養素についても個々の必要量に応じた補充が必要です。
栄養素の中には、腎の排泄能の低下などによって蓄積しやすいものがある一方で、透析の際に体内の老廃物と一緒に除去されるなど、様々な理由によって不足しがちなものもあります。セレン亜鉛カルニチンは後者の代表例です(表2)。

亜鉛:亜鉛は多くの酵素の構成成分であり、栄養代謝や皮膚代謝、免疫系などに関与しています。また、亜鉛欠乏の代表的な症状として味覚障害が知られており、透析患者に見られる食事摂取量減少の背景の一つには、亜鉛不足による味覚障害が関わっている可能性も考えられます。また、味覚障害に伴う食塩摂取過剰も懸念されます。
亜鉛含有量の多い食品には魚介類や肉類など、たんぱく質を含むものが多く、過度のリン摂取制限から亜鉛不足を招くことが懸念されます。臨床現場では、亜鉛の補充方法として亜鉛製剤が投与されることも多いですが、食事摂取量の減少を認める透析患者に対しては、栄養指導も有用です。

セレン:セレンは抗酸化作用を担う多くの酵素に関わっており、欠乏すると心筋症、不整脈、易感染性、貧血、筋力低下などを認めます。透析患者の主な死亡原因が心不全感染症である点を踏まえると、セレンは透析患者の予後と密接に関わる栄養素だといえそうです。
セレンは穀類や魚介類、肉類などに比較的多く含まれ、通常の食生活でセレンが欠乏することは稀ですが、透析患者では低栄養や過度の食事制限、吸収低下、消費亢進によって潜在的にセレンが不足しやすい状態にあると考えられます。セレン欠乏が疑われる場合には血清セレン濃度を測定し、基準値の下限未満の患者に対してはセレン含有の栄養補助食品や経腸栄養剤、セレン注射液を用いた補充を検討します。

カルニチン:カルニチンは脂肪酸代謝によるエネルギー産生や赤血球膜の安定性維持などに関与しています。生体内のカルニチンのうち、75%は食事から摂取され、残り25%が肝臓・腎臓等で生合成されます。
カルニチンは肉類や乳製品などに多く含まれており、透析患者ではこれら食品の摂取不足や腎臓での合成能低下、透析による除去などからカルニチンが不足しやすい状態にあります。また、体内のカルニチンの多くは筋肉組織に貯蔵されますが、その量は加齢とともに減少していきます。
カルニチンが欠乏すると筋力低下、疲労の変化のほか、腎性貧血や心疾患への関与も指摘されており、血液検査の結果などから欠乏症と診断された場合にはカルニチン製剤による補充を検討します。ただ、カルニチンの投与量や投与期間については、まだ十分にエビデンスが確立されていないため、まずは日頃から欠乏予防に努めるとともに、定期的な血中カルニチン濃度のチェックを行うことが望ましいと考えます。

その他:ビタミンは脂溶性と水溶性に大別されますが、これらのうちビタミンB群、葉酸などの水溶性ビタミンは透析患者では不足しやすいとされています。その背景として、食事摂取量の減少のほか、緑黄色野菜や果物などを摂る際にカリウム制限のために茹でたり、水にさらすなどの下処理を行うことが考えられます。また、水溶性ビタミンは血液透析によっても除去される可能性がありますが、透析による除去量や適正な補充量については明らかになっていません。

欠乏症状の例 多く含まれる食品の例
亜鉛 慢性下痢、食欲不振・体重減少、貧血、免疫能低下、
味覚障害、皮疹・脱毛、創傷治癒の遅延、
成長・発達の遅延
牡蠣、うなぎ、赤身の肉、ココア、凍り豆腐、
ナチュラルチーズ、卵黄
セレン 克山病(心筋症の一種)、
カシン・ベック病(骨関節症)
戻りカツオ、からし、レバー
カルニチン 筋力低下、筋肉痛・こむら返り、心筋症、腎性貧血 赤身の肉、鶏肉、牛乳
▲表2透析患者様で不足しがちな栄養素

4.最後に

近年は透析技術の進歩によって、末期腎不全患者の高齢化・透析の長期化が進んでおり、QOL維持に向けた合併症対策がますます重要になっています。
透析患者様の栄養管理というと「食事制限」のイメージが根強いかもしれませんが、「食事制限」ではなく「食事療法」へと患者の意識を変容させ、継続的な栄養指導を通じて適正な栄養摂取につなげていくことが大切だと考えます。

お仕事スケッチ(11)

慢性腎臓病の患者さんへのケア

透析看護とは、透析患者さんのみならず慢性腎臓病のあらゆる病期の患者さんやご家族の生活に寄り添った看護ケアを提供することだと考えています。このような透析看護を臨床の場で実践すべく、私は透析室での業務と併行して、透析が始まる前の慢性腎臓病の保存期患者さんを対象とした外来看護にも当たっています。

〈透析患者さんに対する看護ケア〉

患者さんが安全で安楽な透析治療を受けられるよう、透析中の管理はもちろんのこと、日常生活における自己管理の支援なども行っています。また、術後や重症感染症などで集中ケアが必要な透析患者さんの急性期における透析療法の工夫などについて、医師や臨床工学技士と共同で提案することもあります。

〈保存期患者さんに対する看護ケア〉

腎臓内科医からの依頼箋に沿って、透析予防のための看護外来を行っています。慢性腎臓病の原疾患というと糖尿病のイメージが強いですが、実際には他の疾患で透析導入に至るケースが半数を占めます。そこで当院では「個別腎臓病教室」を立ち上げ、背景に様々な疾患を持つ患者さんを対象とした外来指導に取り組んでいます。担当するのは透析室の看護師3~4人で、指導時に共通のパンフレットを用いることによって指導内容の標準化を図っています。このパンフレットは医師(医学情報)、管理栄養士(食事療法)、ソーシャルワーカー(社会福祉制度)といった各専門職の監修のもと、慢性腎臓病の関連学会のガイドラインを参考に作成したもので、情報のアップデートも随時行っています。また、パンフレットには部分的に空欄の箇所を設けており、患者さん毎に個別性を反映させた目標値を設定の上、入力できるようにし、最適な情報を提供するようにしています。
看護外来での指導内容は多岐に渡りますが、患者さんの関心がとくに高いのは食事や水分・塩分の摂取に関する内容です。指導の過程で管理栄養士による詳細な情報提供が必要だと判断された場合には、栄養食事指導への橋渡しも行っています。
また、病期の進行に応じた腎代替療法の選択支援も重要な看護ケアの一つです。近年は患者さんの高齢化や様々な合併症から、腎代替療法の非導入を希望されるケースもあり、倫理的な側面に十分配慮しながら、ご本人にとって最良の意思決定ができるように支援しています。

院内教育活動

院内の各部署から依頼を受けてコンサルテーションを行ったり、勉強会を開催したりしています。慢性腎臓病患者さんの増加や高齢化に伴い、他院で慢性透析療法を受けている患者さんが別の併発疾患の治療で来院されることも多々あり、各部署からの相談も増加傾向です。当院併設の訪問看護ステーションから透析患者さん宅を訪問する際の注意点などについて相談を受けたり、病棟に入院中の透析患者さんの合同カンファレンスに参加することがあります。透析患者さんの高齢化や透析歴の長期化が進む中、今やあらゆる診療科で透析管理に関する一定水準のスキルが求められているように感じます。

院外での活動

院外での主な活動の一つとして、長野県腎不全看護連絡会での取り組みがあります。この連絡会は、腎不全看護に携わる県内の看護師が、地域医療への還元として慢性腎臓病の啓発活動を目的に活動しているもので、2019年からは私が代表を務めさせていただいています。連絡会では、看護師向けの勉強会や透析患者さん対象の勉強会のほか、地域住民を対象にした市民フォーラムを2009年より毎年開催しており、多くの市民の皆様からご好評をいただいています。残念ながら2020年の市民フォーラムは新型コロナウイルスの影響で中止になりましたが、2021年はウェブ開催の検討など昨今の社会情勢に対応した開催に向けて鋭意準備を進めているところです。

最後に

私は現在、病院勤務と併行して大学院の博士前期課程で腎代替療法選択時の共同意思決定(Shared decision making: SDM)に関する研究を行っています。療法選択は患者さんにとって“生き方の選択”であり、その後のQOLにも大きく影響します。患者さんと医療者が情報共有や対話を重ねながら最善な治療法に辿り着けるような、本当の意味での“患者中心の医療”を提供するために、今後も自己研鑽に励みたいと思います。

制作●株式会社ジェフコーポレーション

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