腸内フローラ(腸内細菌の集まり)は、私たちの健康を大きく左右します。腸内フローラの乱れが、生活習慣病やうつ病などのきっかけになる可能性もゼロではありません。
毎日お通じがあるのに、なんとなく不調を感じている場合は腸内フローラが乱れているかもしれません。
ストレスが多く食生活が乱れやすい人は、ぜひこの機会に腸内フローラ対策を始めてみませんか?

この記事の執筆者
薬剤師/腸育コンシェルジュ
松本 萌
薬剤師ライターとして、セルフケアに関する記事を執筆している。前職のドラッグストアで健康相談を受ける中で、正しい知識を知らない人が多くいることを痛感。セルフケアの正しい知識を誰にでも分かりやすい言葉で紹介することを心がけている。薬剤師以外にも化粧品成分検定1級、腸育コンシェルジュなどさまざまな健康・美容の資格を取得。
腸内フローラ(腸内細菌叢)とは?
腸内フローラとは腸内細菌の集まりで、腸内細菌叢(そう)とも呼ばれます。
人間の消化管(腸)には約100兆個、1,000種類程の腸内細菌が存在すると言われており、その種類ごとに集まり腸内にすみついています。その姿がお花畑(フローラ)や草むら(叢)のようだと言われることから、「腸内フローラ」や「腸内細菌叢」の呼び名がついているのです*1。
*1 安藤朗. 腸内細菌の種類と定着:その隠された臓器としての機能. 日本内科学会雑誌. 2015, 第104巻, 第1号, p.29-34
腸内細菌の種類と健康への影響
腸内細菌は大きく善玉菌・悪玉菌・日和見(ひよりみ)菌に分けられます。健康面におけるそれぞれの代表的な影響は次のとおりです。
健康への影響 | 具体的な菌の名前 | |
---|---|---|
善玉菌 (別名:有用菌) |
悪玉菌の発生を抑えて腸の動きを活発にする、ビタミン※をつくり出す、免疫機能を高めるなど |
ビフィズス菌 乳酸菌など |
悪玉菌 (別名:有害菌) |
肥満、糖尿病、大腸がん、動脈硬化症、炎症性腸疾患などと密接に関連 |
ウェルシュ菌 黄色ブドウ球菌 毒性をもつ大腸菌など |
*2*3*4
ビタミン※:ビタミンB1・B2・B6・B12・K・ニコチン酸・葉酸
日和見菌は善玉菌と悪玉菌のどちらにも分けられない中間の菌で、その役割については、はっきりしない点も多かったのですが、近年の研究で健康への影響も明らかになりつつあります*5*6。
また、腸内細菌の種類は人によって大きく異なり、もっている腸内細菌の種類は一生を通じてほとんど変化することはないと言われています*2。
*2 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「腸内細菌と健康」
*3 公益財団法人 腸内細菌学会「よくある質問 ヒトの腸内にはどのような微生物が棲んでいるのですか?」
*4 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「腸内細菌叢(腸内フローラ)とは」
*5 平野里佳ほか. 腸内細菌一斉培養システムを用いたオリゴ糖の資化性評価.日本応用糖質科学会誌:応用糖質科学. 2022, 第12巻,第4号, p.203
*6 公益財団法人 腸内細菌学会「よくある質問 腸管内にすむ善玉菌、悪玉菌、日和見菌とは何ですか?」
腸内フローラのバランス
一般的に、腸内フローラは日和見菌がもっとも多く、次に善玉菌、悪玉菌は少数です*2。自分の腸内フローラのバランスを把握するのは難しいですよね。簡単に腸内フローラのバランスを見分けたい場合は、便の状態に注目しましょう*2。
<バランスが良い時の便>
- 黄色〜黄色がかった褐色
- においはあるが臭くない
- 形状は柔らかいバナナ状
<バランスが悪い時の便>
- 黒っぽい色
- 臭い
- 形状がバナナ状ではない(柔らか過ぎ、もしくは硬くてコロコロしている)
毎日しっかり便が出ていても腸内フローラのバランスが悪いことがあります。便の状態を観察して乱れを整えていくことが大切です。

便秘にお悩みの人必見!オリゴ糖の特徴と働き、効果的なとり方を解説
便秘の原因の1つは、腸内環境の乱れ。近年注目されているオリゴ糖は腸内環境に良い影響を与えるため、便秘対策にも役立ちます。今回はオリゴ糖の特徴・働きをあげ、便秘対策を中心に腸内への影響を解説します。
腸内フローラが乱れる原因は?
腸内細菌の種類は一生を通じてほとんど変わりませんが、細菌の数はさまざまな原因によって変化します。特に、食生活や加齢、ストレスによって、細菌の数が変化し、腸内フローラが乱れやすくなります。
食生活
栄養バランスの悪さは腸内フローラが乱れる大きな原因です。たとえば、赤身肉や乳製品の摂取で、腸内細菌がつくる物質により、動脈硬化につながる可能性が示唆されています。また、動物性たんぱく質を多く食べることで、腸内フローラのバランスが変化し、炎症性腸疾患のリスクを高めるのではないかと考えられてます*7。
食物繊維は便の量を増やすとともに善玉菌のエサになりますが、日本人の摂取量は減少傾向にあります*8。
加齢
腸内フローラは年齢によってバランスが変化します。生まれたばかりの赤ちゃんの便はほぼ無菌状態です。そこから徐々に腸内細菌の状態が変化し、離乳食をとる頃には、成人と似たような腸内フローラになっていきます。また、老年期に入ると善玉菌であるビフィズス菌が減り、一方で悪玉菌のウェルシュ菌が増えるとの研究結果も出ています*9。
ストレス
「脳腸相関」と言って、脳と腸は深い関わりがあると言われています。さらに近年では、腸内細菌の情報も脳との関わりが注目され、「脳-腸-腸内細菌軸」という概念も出てきました*10。
たとえば、2021年には、ストレスにより腸内フローラを調整するαディフェンシンという物質が減少するという研究報告も発表されています*11。
良い腸内フローラのためにはストレスを溜め込まない工夫が必要ということです。
*7 山口元輝ほか, 腸内細菌叢に影響を与える食事因子. 化学と生物. 2022, 60巻, 4号 p. 156-160
*8 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」
*9 光岡知足. 腸内菌叢研究の歩み. 腸内細菌学雑誌. 2011, 25巻, 2号, p.118
*10 公益財団法人 腸内細菌学会「脳腸相関(brain-gut interaction)」
*11 Suzuki, K. et al., Decrease of α-defensin impairs intestinal metabolite homeostasis via dysbiosis in mouse chronic social defeat stress model. Scientific Reports. 11, 9915 (2021)
腸内フローラを整える方法
腸内フローラを整えることで毎日の健康につながります。「腸内フローラを整える=善玉菌を増やす」ためには何をすれば良いのでしょうか?
善玉菌を摂取する
まずは食事から善玉菌を取り入れましょう。取り入れた善玉菌は腸内に留まり続けるわけではないので、毎日コツコツと食事から取り入れる必要があります。生きたまま腸内に届く善玉菌を含んだ食品を「プロバイオティクス」と呼びます。普段からプロバイオティクスを積極的に食べていきましょう。例としてはヨーグルト・納豆・漬物などが当てはまります*2*12。
食事から善玉菌を摂取することが難しい場合、乳酸菌飲料や善玉菌のサプリを取り入れるのもおすすめです。

プロバイオティクスとは?作用やプレバイオティクスとの違いも解説
善玉菌を育てるのに有効なプロバイオティクス。腸内フローラを整えるのに役立つと言われていますが、プロバイオティクスとは何のことなのでしょうか?この記事ではプロバイオティクスの種類とその働き、プレバイオティクスとの違いについて紹介します。
腸内の善玉菌を増やす
善玉菌を腸内で増やすことも意識しましょう。食物繊維やオリゴ糖などの「プレバイオティクス」は、腸内の善玉菌のエサとなり、摂取することで善玉菌を増やすことにつながります。
難消化性オリゴ糖は胃や小腸で消化・吸収されずに大腸まで届き、善玉菌のエサになる成分です。甘味料として販売されている他、大豆・玉ねぎ・バナナなどにも含まれています*2。
ビフィズス菌などの善玉菌は酸に弱く、食事から摂取しても生きたまま腸まで届かないことも多いです*13。そのため、元から腸内にある善玉菌をプレバイオティクスで増やしていくことが大切です。

プレバイオティクスとは?健康効果や食品例、効果的なとり方を解説
善玉菌を増やし、腸内環境を整えながら健康をサポートするプレバイオティクス。善玉菌のエサとなり、腸内環境を整えるのに有効と考えられています。今回はプレバイオティクスの効果や食品例について解説します。

バナナに含まれる栄養素と働きを解説|バナナが腸活に良いって本当?
日ごろからスーパーなどで目にすることの多い「バナナ」。体に良いとよく言われていますが、実際にはどのような栄養素が含まれているのでしょうか。そして、近年注目されている「オリゴ糖」や「腸活」とのつながりとは。この記事では、バナナに含まれる栄養素とその働きを解説し、腸活に取り入れるヒントを紹介します。
腸の動きを促す
便が腸に溜まり続けると、腸内の悪玉菌が増える原因となります。腸内フローラを整えるためにも、快便を目指していきたいものです。
排便を促すために、日頃から適度な運動を取り入れてみましょう。また、自律神経が整うと排便リズムも整うため、規則正しい生活習慣も大切です*14。
排便習慣をつけることが有効という報告もあります。便意をもよおさなくても、朝と夕食の30分後にトイレへ行き、排便動作を継続することで、直腸の感覚が回復してくることがあります*15。
*12 公益財団法人 腸内細菌学会「プロバイオティクス(probiotics)」
*13 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「ビフィズス菌」
*14 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「便秘と食習慣」
*15 味村俊樹ほか. I.慢性便秘症の診断と治療. 日本大腸肛門病会誌. 2019, 72巻, 第10号, p.594
まとめ
腸内フローラを整えることで、すっきり健康的な生活につながります。なんとなく不調が多い人は、腸内フローラが乱れているかもしれません。毎日お通じがあっても腸内フローラの状態が良いとは限らないので、便をチェックしながら自分でできることを始めてみましょう。
合わせて読みたいおすすめ記事

便秘にお悩みの人必見!オリゴ糖の特徴と働き、効果的なとり方を解説
便秘の原因の1つは、腸内環境の乱れ。近年注目されているオリゴ糖は腸内環境に良い影響を与えるため、便秘対策にも役立ちます。今回はオリゴ糖の特徴・働きをあげ、便秘対策を中心に腸内への影響を解説します。