
月経にまつわる悩みの代表といえば、「月経痛(生理痛)」と「PMS(月経前症候群)」。およそ7割の女性が毎月、苦しんでいるといいます。「月経は痛いもの」「我慢するのが当然」などと思い込んでいる人もいるかもしれませんが、それは間違い。つらい痛みは治療が必要な病気の可能性があり、実際、治療によって痛みから解放される例も少なくありません。
また食事や運動、睡眠といった生活習慣を改善するセルフケアも、痛みや不調を軽くしてくれます。大切なのは、まず月経と自分の体について知ること。知っているようで、女性自身もよく理解していない月経のメカニズムと「月経痛」「PMS」の2大悩みが起こる原因や対処法について、総合母子保健センター愛育病院 病院長の百枝幹雄さんに聞きました。
女性の体は通常約28日間のサイクルで起こる“女性ホルモンの波”によって、大きな影響を受けています。この波によって引き起こされるのが「月経」。そして月経に伴って生じる不調の代表が「月経痛」と「PMS(月経前症候群)」です。
まずは下の月経痛・PMSチェックをしてみましょう。あなたは月経のたびに痛みや不調に悩まされていませんか?
- 月経痛をチェック!
月経が始まるといつも…… -
- 下腹部痛や腰痛などの不快症状がある
- 鎮痛薬で下腹部痛や腰痛などの痛みを和らげている
- 鎮痛薬を飲んでもあまり効かないくらい月経中の痛みや
不快症状が重い - 下腹部などの痛みや不快症状がひどく、日常生活にも
支障が出ている - 年々、月経中の下腹部などの痛みや不快症状がひどくなっている
- PMSをチェック!
月経が始まる3~10日くらい前から…… -
- イライラする、情緒が不安定になる
- 気分が落ち込む、不安になる
- 乳房やお腹が張る
- むくむ、体重が増える
- 眠気が取れない、だるい
……そして月経が始まると、こうした不快な症状が消える。
月経痛もPMSも約7割が経験。両方ある人は1カ月の半分以上悩まされることも
上の月経痛チェックで、2つ以上の項目に当てはまるなら、月経痛がかなり重いタイプといえます。総合母子保健センター愛育病院 病院長の百枝幹雄さんは次のように説明します。
「鎮痛薬が必要なほど月経痛がひどい場合は、単なる月経痛ではなく、『月経困難症』とみなされます。月経困難症では、月経痛だけでなく腰痛や頭痛、吐き気、下痢、便秘、イライラ、情緒不安などを伴うことも。月経痛は月経のある女性の約7割が経験していますが、そのうちの約半数が月経困難症。強い痛みのために仕事や学業など日常生活に支障をきたしている人も少なくありません」
一方、PMSは月経が始まる3~10日ほど前から、イライラしたり、気分が落ち込んだり、乳房が張って痛くなったりしますが、月経が始まるとスッと軽くなります。代表的な症状としては、上のPMSチェックにもあるように、イライラや情緒不安定、不安、気分の落ち込み、眠気、不眠、集中力の低下などの精神症状、乳房の張りや腹部膨満感、腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、体重増加、肌荒れ、食欲不振・過食、疲れやすさなどの身体症状があります。
「PMSは月経のある女性の約7割に見られます。症状の程度には個人差がありますが、日常生活に影響が出るほどつらいという人が約2割います。なかには月経困難症とPMSを合併しているケースも。月経前と月経中を合わせ、1カ月の半分以上を月経にかかわる苦痛と不調を抱えて過ごしているわけで、QOL(生活の質)が著しく低下しています」(百枝さん)
なお、PMSの程度が重く、特に精神症状が強い場合は、「月経前不快気分障害(PMDD)」と診断されます。月経の前になると人が変わったように怒りっぽくなったり、自制が利かなくなったりする場合はPMDDの可能性があります。
女性ホルモンの働きと月経が起こる仕組みを頭に入れておきましょう
月経痛とPMSについて理解するうえで、知っておきたいのが女性ホルモンと月経との関係です。
毎月の女性ホルモンの波と不調サイクル

月経は女性ホルモンの働きによって引き起こされます。女性ホルモンには卵巣から分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があり、脳からの指令を受けながら働いています。
月経周期は上の図のように「卵胞期」「排卵期」「黄体期」「月経期」の4つに分かれています。卵胞期にはエストロゲンの分泌量が増え、それに伴って子宮の内側にある子宮内膜も増殖し始めます。子宮内膜は受精卵が着床するためのベッドのようなものです。エストロゲンの分泌量がピークを迎えると、卵巣にある卵胞から卵子が飛び出す排卵が起こります。排卵後、卵胞は黄体という組織に変化し、プロゲステロンを分泌。これによって子宮内膜は受精卵が着床しやすい状態へと変化していきます。これらはすべて妊娠のための準備です。
妊娠が成立すると子宮内膜はそのまま赤ちゃんを育てていきますが、妊娠が成立しなかった場合、この準備状態は一度リセットされることになります。厚くなっていた子宮内膜が剥がれ落ち、血液と混ざり合って月経血(経血)となって体外に排出されるのです。これが月経です。
一方、PMSは月経と月経のほぼ中間の黄体期に起こります。排卵後に分泌量が増えるプロゲステロンが関係しているといわれます。PMSの症状自体はつらいものですが、見方を変えると、PMSは排卵がちゃんと起こったという証拠。女性ホルモンがしっかり働いているからこそ、PMSが起こるともいえるのです。