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Vol.16

Nice!

特集
慢性心不全患者さんの自己管理支援

慢性心不全の患者さんの中には、急性増悪によって再入院を繰り返す方が大勢いらっしゃいます。ただ、増悪の原因に着目すると、自己管理の不徹底によって再入院に至るケースも多く、適切な自己管理支援を行うことができれば、予防できる可能性は十分にあるようです。
そこで今回は慢性心不全患者さんの自己管理を支援する上でのポイントなどを中心にご紹介します。

慢性心不全患者さんの自己管理支援-ある日のこと-

自己管理を支援する上でのポイント

【自己管理支援を行う前に】

最も重要なのが、ご自分の病気を患者さん自身がどのように捉えているかを確認することです。「また病状が悪化した時に受診すれば大丈夫」とか「どうせ長くは生きられないんでしょ?」といった認識のままでは、その後の自己管理に繋げられません。
心不全は増悪と回復を繰り返しながら次第に身体機能が低下していく病気です。しかし、適切な自己管理によって急性増悪を予防できれば、病気と上手に付き合いながら日常生活を継続していくことは可能です。ただし、そのためには患者さん自身の努力が必要であるという点を理解していただいてから、具体的な支援を行います。

【“できること”“優先度の高いこと”から始める】

生活習慣はその人自身の価値観と密接に関わっているので、変える必要性は理解できていても簡単には変えられないものです。このため、患者さんの支援にあたっては“できること”は何かを一緒に考えながら目標を立て、優先度の高いことから取り組んでいきます。
例えば、定期的な受診や服薬は自己管理を行っていただく上で必須となりますが、患者さんによっては通院や服薬自体に強いストレスを感じることがあります。「まずは定期的に通院できるように頑張ってみませんか」「せめて、この薬だけでも飲めるようになると良いですね」といった形で患者さん自身の努力を促し、達成できたら次の目標にチャレンジしていきます。目標を一つ達成できると、次も頑張ろうという気持ちになれる患者さんも多いです。

【患者さんの自己管理状況を把握する際の観察ポイント】

観察にあたっては、患者さんに記録していただいた日々の体重や血圧、脈拍などを参照しながら、全身状態をチェックしていきます。

《体重》
体重が増加している場合、その背景に浮腫がないかどうかを下肢のむくみなどから評価します。逆に体重が減少している場合には、食事の摂取状況に問題がないか確認します。塩分制限を意識するあまり食事摂取量が減少して栄養状態が低下してしまうと、フレイルのリスクが高まります。フレイルは心不全の予後不良因子です。減塩の食事が食べられないことが原因の場合には、塩分制限の緩和、栄養補助食品の活用、リハビリテーションの活用などについて医師や管理栄養士と相談します。

《服薬状況》
前回入院に至った要因に服薬の中断がある場合、重点的に服薬状況について聞き取るようにします。

《血圧、脈拍、BNP※などの検査値》
数値が安定していれば、自己管理がしっかりとできている旨を必ず患者さんにフィードバックして継続を促します。数値に変動や悪化傾向が見られる場合には、その背景にある要因を探り、改善するための方法を一緒に考えます。

※BNP(Brain Natriuretic Peptide)
主として心室から分泌されるホルモンで、血管の拡張や排尿を促して心臓への負荷を和らげる働きを持っています。心臓の負荷が増えたり、心筋が肥大したりすると血中BNP濃度が上昇することから、心不全の診断や経過観察、治療効果判定を行う際の指標として用いられます。

《会話中の様子》
聴き取りを行いながら、患者さんの表情や反応を観察します。何か悩みを抱えている様子が見られたら、「最近、眠れていますか?」などと声をかけ、患者さんの思いを傾聴します。

今後のことが不安 こんなに頑張っているのに 図1

【再入院を繰り返す患者さんに対する支援】

「実はお酒をたくさん飲んでいる」「本当は薬を飲んでいない」など、心不全増悪の背景にある要因を聞き出すことが大切です。そのためには、患者さんに本当の思いを話していただけるような信頼関係を築く必要があります。問題点の指摘ばかりを繰り返していると、患者さんは心を閉ざしてしまいますので、“できていること”を見つけて努力をねぎらいます。また、“できていない”ことを怒るのではなく、その理由を一緒に考えるような姿勢で接するように心がけましょう。リハビリテーションスタッフや薬剤師、管理栄養士など、多職種の協力を得ながら話を聞き出すのも効果的です。

支援のポイント 起こらない 我慢させない 無理のない範囲で 図2

また、自己管理の仕方に関する認識のずれや誤りがないか確認することも重要です。ずれや誤りが認められる場合には、医師の説明内容を平易な言葉に置き換えたり、繰り返し説明したりすることで軌道修正を図ります。

尿がたくさん出ているから、利尿剤を飲まなくても大丈夫かな? 図3

【患者さんだけでは自己管理が難しい場合】

例えば、塩分制限などの食事指導については、実際に調理を行うご家族と一緒に受けていただくようにします。ただ、ご家族がどんなに気を配って調理しても、召し上がる段階で患者さん自身が醤油をかけてしまうことがあります。そのような場合には、醤油を減塩タイプのものに変えておいていただくなど、ご家族と連携を図りながら患者さんがストレスなく実践できる方法を考えましょう。
また、心不全患者さんの高齢化に伴い、長期にわたる療養生活の過程で認知機能の低下を認めるケースもしばしば経験します。そのような場合には、例えば1回に服用する分の薬を予め1包化しておく、内服の回数を減らすなど、自己管理の内容ができるだけシンプルになるよう、多職種で協議しながら調整します。

その際、患者さん自身でできることはなるべく生かすように心がけながら、サポートが必要な部分をご家族に協力していただいたり、地域の社会資源を活用することで再入院リスクの低減を図ります。

朝食後 昼食後 夕食後 図4

【もしもの時に備えた意思決定支援】

心不全では、再入院を繰り返しながら次第に身体機能が低下していきます。病状の悪化によって意識レベルが低下したり、療養過程で認知症を併発したりすると、患者さん自身で治療やケアに関する意思決定を行うことが困難になります。
このため、予後や経過のイメージを患者さんやご家族と共有しながら、今後の方針について早期から繰り返し話し合っておく必要があります。病状の変化や大きなライフイベントが起きた時はもちろんですが、状態が安定している時にも定期的に話し合いの場を設けると良いでしょう。

エキスパートの仕事現場(16)

資格取得のきっかけ

私は循環器病棟や高度集中治療室に配属されていた期間が長く、再入院を何度も繰り返しながら、やがて最期を迎える患者さんたちと数多く接してきました。そうした患者さんをケアする中で自分の無力さを痛感し、色々と思い悩んでいた際、親身に相談に乗ってくださったのが、集中ケア認定看護師の資格を持った先輩でした。自分もこの先輩のように専門知識を身に付け、後輩の相談に乗れるようになりたいと考え、当時新設されたばかりの慢性心不全看護分野の認定資格にチャレンジしようと思い立ったのが今から10年ほど前のことです。

資格取得までの道のり

教育機関に入学後は、自分の知識不足を思い知らされる日々の連続で、グループワークでも積極的に発言できない日が続きました。そんな時、指導を担当してくださった先生から「ここには学び方を学びに来ているんだから、今から追いつけばいい。認定看護師になってからも学び続けなけらばいけないのだから」と言っていただいたことは、大きな励みになりました。

資格取得後の実践面での変化

以前は、再入院を繰り返す患者さんに対して、自己管理上の問題点を探す方向に目が向いてしまいがちでしたが、認定看護師の勉強をしてからは、その人が頑張っている点を見つけて励ませるようになりました。

認定看護師としての業務

循環器科の医師や看護師長、心臓リハビリテーション専従看護師などの協力のもと、心不全チームの立ち上げに関わりました。現在はチームカンファレンスや勉強会の開催のほか、後進の育成にも力を注いでいます。

仕事のやりがい

自信を喪失している患者さんの気持ちに寄り添うことができた時や、その患者さんが自信を取り戻して元気に過ごされている姿を見た時などは、とくにやりがいを感じます。

カンタン生理学(16)

近年、高齢の心不全患者におけるフレイルが問題視されています。フレイルの概念には身体的要素だけでなく、精神・心理的な要素や社会的な要素も含まれますが、ここでは、高齢者心不全における身体的フレイルと低栄養の関係について解説します。

1.高齢者心不全とフレイル

高齢者人口の増加や心不全急性期治療の進歩に伴って、近年、心不全患者の高齢化が進んでいます。高齢者心不全には様々な特徴がありますが、中でも注意を要するものの一つがフレイルです。フレイルは心不全の予後不良因子であることが分かっており、国内外のガイドラインにも、その対策の重要性に関して記載されています。通常、フレイルは要介護状態の前段階に位置付けられ、可逆的なものとされていますが、背景に心不全があると改善に難渋することも少なくありません。

高齢者心不全の主な特徴(例)

  • 心臓のポンプ機能(左室駆出率)が保たれたHFpEF*が多い
  • 併存疾患が多い
  • 不十分な疾病管理によって増悪するケースが多い
  • フレイルを認めることが多い
  • *HFpEF(heart failure preserved ejection fraction)
    左室駆出率が50%以上の心不全を指します。なお、左室駆出率が40%未満の場合はHFrEF(heart failure with reduced ejection fraction)、40~49%の場合はHFmrEF(heart failure with midrange ejection fraction)と分類されます。

2.高齢者心不全と低栄養

高齢の心不全患者がフレイルを併発しやすい理由の一つとして低栄養が挙げられます。
心不全では、呼吸負荷に伴う安静時エネルギー消費量の増大や全身炎症などを背景に、筋たんぱくの異化が亢進します。その一方で、倦怠感や呼吸苦による食思不振、消化管機能の低下などにより、筋たんぱくの合成(同化)に必要なエネルギーと栄養素を十分に摂取することができず、異化と同化の不均衡が生じやすくなります。さらに、高齢の患者では加齢に伴う感覚機能(味覚・嗅覚など)や口腔機能、たんぱく合成能の低下といった要因も加わるため、低栄養のリスクがいっそう高まります。
低栄養の状態が続くと、筋肉量の減少や筋力の低下からサルコペニアとなって身体活動能力が低下するとともに、心不全の病態も重篤化し、さらに低栄養が助長されるというフレイルの悪循環に陥ります。

3.運動療法プラス栄養療法

高齢者心不全のフレイル予防には、筋たんぱくの同化を促進することが重要で、筋たんぱくの同化促進には、リハビリテーションなどの運動療法に加えて適切な栄養療法を行う必要があります。心不全を恐れるあまり不活動状態が長く続くと、廃用による筋肉量の減少や筋力の低下に繋がりますし、適切な栄養補給を行わずにリハビリテーションを行うと、かえって異化と同化の不均衡を助長させてしまいます。

4.病態の進行に応じて栄養療法も変化

心不全患者は心不全増悪による再入院を繰り返しながら、心機能や身体機能が段階的に低下していきます(図)。このため栄養療法の実施に当たっても、病態の進行に応じて対応を変化させていく必要があります。病態が比較的安定していて、栄養状態の保たれている段階では、塩分摂取量の適正化による心不全の増悪予防が栄養療法の中心になります。しかし、心不全の進行に伴って栄養状態が低下してくるに従い、適正なエネルギー・たんぱく質摂取の優先度が高くなってきます。
特に患者さんが高齢の場合、加齢に伴って味覚が低下している上に過度の塩分制限を行うことで、かえって食欲低下や偏食による低栄養を招いてしまう可能性があります。塩分制限によって期待される効果が低栄養リスクを上回るかどうかを個々の患者さんごとに評価し、必要に応じて塩分制限を緩和したり、患者さんの嗜好に合わせた食事を提供することも検討すると良いでしょう。

心不全の増悪による心機能や身体機能の段階的な低下(イメージ) 図5
▲図心不全の増悪による心機能や
身体機能の段階的な低下(イメージ)

制作●株式会社ジェフコーポレーション

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