お通じが悪い人や下痢しがちな人は、「腸内環境が整っていない」と言われることがよくあります。しかし、そもそも「腸内環境が整っている」とは、どのような状態を指すのでしょうか。
本記事では、腸内環境とは何かを説明したうえで、腸内環境を整えるメリットや食事による整え方を解説します。腸内環境をセルフチェックする方法も紹介するので、自身の腸の状態を把握したうえで腸内環境の改善に取り組んでみましょう。

この記事の執筆者
管理栄養士
いしもと めぐみ
病院給食、食品メーカーの品質管理、保育園栄養士を経験して独立。栄養・健康分野の記事執筆のほか、栄養指導、食が楽しくなるレシピの発信などを行う。
腸内環境とは?
腸内環境は、腸の中にすむ細菌により左右されます。人の腸には約1,000種類、100兆個もの腸内細菌が生息しており、菌の種類ごとに集団をつくって活動しています*1。腸内細菌が集まった様子はまるで花畑のように見えることから、「腸内フローラ」と呼ばれています*2。
人は、胎児の段階では腸内細菌を持っておらず、出生後1〜2日の便には細菌はほとんど見られません。しかし、出生直後からさまざまな細菌が増殖を始め、腸内環境がつくられていきます。その後、食事や生活環境などの影響を受けて、各個人で異なる腸内フローラのコアが形成されると考えられています*2。
腸内細菌は大きく分けて、善玉菌・悪玉菌・日和見(ひよりみ)菌の3種類。これらの細菌が互いに関わり合いながらバランスをとって生存することで、腸内環境が形成されています*2。腸内環境は私たちの健康と深く結びついているため、腸内環境を整えることで体へのさまざまなメリットが期待できます。
腸内環境が整っている状態とは?
腸内環境が整っている状態とは、善玉菌が優勢である状態を指します。
腸内環境に大きく影響を与えるのが、善玉菌と悪玉菌のバランスです。善玉菌(別名:有用菌)とは、ビフィズス菌や乳酸菌に代表される、人の体に有益な働きをする細菌のこと。一方で、大腸菌やウェルシュ菌など、増殖し過ぎると人の体に悪影響をもたらす細菌を悪玉菌(別名:有害菌)と呼びます*3。
ちなみに善玉菌と悪玉菌のどちらにも分けられない中間の菌を日和見菌と言います*3*4。
腸内環境を整えるうえで重要なのが、善玉菌がつくり出す乳酸や酢酸です。乳酸や酢酸が腸内を酸性に保ち悪玉菌の増殖が抑えられ、善玉菌が優勢な環境を形成しやすくなります*2。したがって、腸内環境を整えるためには、善玉菌が優勢になるようサポートしてあげることが大切です。
腸内環境が悪いとどうなる?
腸内細菌のバランスが崩れて悪玉菌が優勢になると、便秘や下痢などお腹の調子に影響します。また、最近では腸内環境が免疫機能に影響する可能性も報告されています*1。
悪玉菌が増殖し過ぎると、悪玉菌がつくり出す有害物質により便を排出する「蠕動(ぜんどう)運動」がうまく機能しなくなり、便秘になります。また、腸内細菌のバランスが崩れると腸粘膜の透過性が高まり、細菌が入り込むことで炎症が起こります。炎症が神経に作用することで、下痢が引き起こされる場合もあります*5。
近年は、腸内環境と免疫機能の関係にも注目が集まっています。感染症から体を守るためにも腸内環境の悪化を防ぎたいですね。

腸内フローラ(腸内細菌叢)とは?乱れる原因と対策を解説
腸内細菌の集まりである「腸内フローラ」のバランスが取れていると、免疫機能が高まるなど私たちの健康を支えてくれます。一方、乱れた腸内フローラでは、体や脳の疾患のリスクを高めてしまう可能性もあります。この記事を読んで、腸内フローラを整えて健康的な毎日を目指しましょう。

腸内細菌の種類と働き|善玉菌を増やす方法を解説
腸内環境を整えることに興味はあっても、理想的な状態や改善方法が分からない人もいるでしょう。腸内細菌のバランスが乱れると、さまざまな病気のリスクに大きな影響を与えます。今回は腸内細菌の種類や働き、理想的なバランス、食事による改善方法を紹介します。健康的な腸内環境づくりにぜひお役立てください。
*1 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「腸内細菌と健康」
*2 安藤朗. 腸内細菌の種類と定着:その隠された臓器としての機能. 日本内科学会雑誌. 2015, 第104巻, 第1号, p.29-34
*3 公益財団法人 腸内細菌学会「よくある質問 ヒトの腸内にはどのような微生物が棲んでいるのですか?」
*4 公益財団法人 腸内細菌学会「よくある質問 腸管内にすむ善玉菌、悪玉菌、日和見菌とは何ですか?」
*5 佐藤研. 過敏性腸症候群における脳腸相関と腸内細菌叢. 心身医学. 2022, Vol.62, No.1, p.45
腸内環境を整える3つのメリット
ここで、腸内環境を整えることで期待できる健康へのメリットを3つ紹介します。
お腹の調子を整える
前述の通り、増殖した悪玉菌がつくり出す有害物質は、体に悪影響を及ぼします。そのため、腸内環境を整えて悪玉菌の増殖を抑えると、悪玉菌が産生する有害物質も少なくなり、お腹の調子を整えることにつながります。
さらに、善玉菌がつくり出す酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸は、便秘が気になる人にも役立つと考えられています。短鎖脂肪酸には、腸の蠕動運動を促進する作用があることが示唆されています*6。腸に蠕動運動が起こると便がスムーズに押し出され、排便しやすくなることが期待できます。
免疫機能の向上
腸は消化吸収を担うだけでなく、免疫においても重要な役割を果たします。消化管は、口から侵入した病原菌やウイルスなどの異物の脅威に常にさらされている器官です。そのため、腸には数多くの免疫細胞や異物と戦う抗体が集まり、感染症から体を守る「腸管免疫」が整っています*7。
腸内環境が悪くなると腸管免疫の機能は低下すると考えられているため、腸内環境を整えることは感染症の予防の観点でも重要です*1。
ビタミンの産生
一部の腸内細菌は、ビタミンを産生する能力を持っています。腸内細菌がつくり出すのは、ビタミンB2、ビタミンB12、ビオチンなど。腸内環境が悪化すると、腸内細菌のビタミン産生能力も低下するとされています*8。
ビタミンKは体に必要な量の半分程度が腸内細菌によってつくられており、ビタミンKの充足には腸内細菌の働きが大きく関わっているといえるでしょう*8。
*6 坂田隆ほか. 短鎖脂肪酸の生理活性. 日本油化学会誌. 1997, 第46巻 第10号, p.1210
*7 上野川修一. 腸管免疫とプレバイオティクス. 腸内細菌学雑誌, 2002, 16巻1号, p.65-70
*8 上西一弘. 栄養素の通になる 第5版. 女子栄養大学出版部. 2022, p.75-154
腸内環境をセルフチェックしてみよう
自身の腸内環境は、便の状態を観察することで把握できます。腸内環境が整っている時の便の特徴は、次のとおりです*1。
- 色は黄色から黄色がかった褐色
- においがあっても臭くない
- 形状は柔らかいバナナ状
一方で、便の色が黒っぽく、悪臭を感じる時は悪玉菌が優勢になり、腸内環境が悪くなっている可能性があります*1。「腸内環境が乱れているかも?」と思った人は、次で紹介する「腸内環境を整える方法を実践してみましょう。
腸内環境を整える方法
腸内環境を整えるためには、まず食生活の見直しが必須です。腸内環境を整えるための食生活を知り、毎日の健康に役立ててください。
食べ物で善玉菌を取り込む
腸内環境を整えるには、善玉菌のビフィズス菌や乳酸菌を含む食べ物を摂取することがおすすめです。ビフィズス菌や乳酸菌は「プロバイオティクス」と呼ばれ、生きたまま腸に到達して増殖し、腸内フローラのバランスを改善させると考えられています*9。
ビフィズス菌や乳酸菌は、ヨーグルト、乳酸菌飲料、納豆、漬物などの身近な食べ物に含まれています。ビフィズス菌や乳酸菌は腸内にすみ続けることができないため、これらの食べ物を毎日継続して摂取することが大切です*1。朝食にヨーグルトや納豆を食べる、夕食に漬物を添えるなど、プロバイオティクスの摂取を習慣にしてはいかがでしょうか。

プロバイオティクスとは?作用やプレバイオティクスとの違いも解説
善玉菌を育てるのに有効なプロバイオティクス。腸内フローラを整えるのに役立つと言われていますが、プロバイオティクスとは何のことなのでしょうか?この記事ではプロバイオティクスの種類とその働き、プレバイオティクスとの違いについて紹介します。
善玉菌を増やす食べ物を摂取する
食べ物の中には、善玉菌のエサとなる成分を含むものがあります。この成分は「プレバイオティクス」と呼ばれ、オリゴ糖や食物繊維が知られています*10。
いくつかの種類があるオリゴ糖のうち、腸内環境を整えるには牛乳やヨーグルトなどに含まれるガラクトオリゴ糖、玉ねぎやごぼう、バナナなどに含まれるフラクトオリゴ糖を摂取するのがおすすめです*11*12。
食物繊維は水溶性と不溶性の2種類に分類されますが、善玉菌の増殖をサポートするのは水溶性食物繊維とされています。また不溶性食物繊維も、便の量を増やして腸を刺激し、腸の運動を活発にするため便秘が気になる人に役立つことが期待できます。食物繊維は野菜や果物、豆類、海藻類などに含まれているので、これらの食材を幅広く摂取すると良いでしょう*1*13。

プレバイオティクスとは?健康効果や食品例、効果的なとり方を解説
善玉菌を増やし、腸内環境を整えながら健康をサポートするプレバイオティクス。善玉菌のエサとなり、腸内環境を整えるのに有効と考えられています。今回はプレバイオティクスの効果や食品例について解説します。
*9 公益財団法人 腸内細菌学会「用語集 プロバイオティクス」
*10 公益財団法人 腸内細菌学会「用語集 プレバイオティクス」
*11 公益財団法人 腸内細菌学会「用語集 ガラクトオリゴ糖」
*12 公益財団法人 腸内細菌学会「用語集 フラクトオリゴ糖」
*13 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「便秘と食習慣」
まとめ
今回は、腸内環境を整えるメリットや腸内環境を整える方法について紹介しました。腸内環境を整えることは、便秘や下痢に悩む人はもちろん、毎日を健康的に過ごしたい人にも大切です。毎日の食事にプロバイオティクスやプレバイオティクスを取り入れて、健やかな腸内環境を育みましょう。
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