毎日のヨーグルトで変わる「睡眠力」

知る 2020.06.11

人は、人生の約3分の1の時間を睡眠に費やしています。
睡眠は身体および脳の疲労回復を助けてくれるだけでなく、免疫力を高めたり、健やかな心身を維持したりするために必要不可欠な活動です。

しかし、現代の日本では仕事の忙しさやストレスなどが原因で、多くの人が睡眠不足や不眠に陥っています。日本人の5人に1人は睡眠に問題を抱えているという調査報告もあるほどです。

睡眠で悩んでいる方におすすめの習慣として「毎日ヨーグルトを食べること」をあげているのが、睡眠・呼吸メディカルケアクリニック「RESM(リズム)新横浜」の院長である白濱龍太郎先生。
ここでは質の高い睡眠をとる力を「睡眠力」と定義し、睡眠の重要性と、なぜヨーグルトを食べることが「睡眠力」を高めることにつながるのかを伺いました。

睡眠不足のリスク 〜カラダを守るために大切な活動〜

睡眠不足には、「睡眠時間」の不足、そして「睡眠の質」の低下という2つの側面があります。

現代社会では、仕事やプライベートが忙しく、睡眠時間を削っている人が多いと言われています。ただし、睡眠時間が短いことだけが睡眠不足の原因とはいえません。
たとえば、睡眠中に無呼吸といびきを繰り返す「睡眠時無呼吸症候群」の人は、8時間寝ていても睡眠の質が低く、交通事故を起こす危険があります。たとえ睡眠時間が長くても、睡眠の質が低ければ、睡眠不足からさまざまなリスクを引き起こす可能性があるのです。

睡眠不足を解消するには、ある程度適切な睡眠時間が担保されていること、そして上質な睡眠をとることの両方が必要不可欠です。

睡眠不足は生活習慣病のリスクを招く

睡眠不足は高血圧や糖尿病などの生活習慣病を引き起こすリスクがあります。
睡眠と血圧には深い関係があり、そこには自律神経が大きく関わっています。自律神経とは、以下の2種類です。

  • 交感神経…日中や活動している最中に活発になる神経
  • 副交感神経…リラックスしているときや睡眠中などに優位になる神経

健康な人の場合、交感神経が活発になる日中に血圧が高くなり、副交感神経が優位になる夕方以降は血圧が低くなります。
しかし、なんからの理由で睡眠不足が続くと、夜になっても交感神経が働いたままになります。その結果、睡眠中に休息するはずの血管が休みなく働き続けることになり、深夜になっても血圧が下がらず、慢性的な高血圧を引き起こす可能性があるのです。

血圧が高い状態が続くと、動脈が硬くなったりもろくなったりする「動脈硬化」が起こりやすくなります。さらに、動脈硬化は心筋梗塞や脳梗塞、脳出血といった心臓や脳の病気を発症させるリスクもあります。

また、近年の研究では、睡眠不足によってインスリンの分泌量が減り、糖尿病が引き起こされるという結果が数多く報告されています。

このように、睡眠不足は私たちの健康を脅かし、大きな病気にかかりやすくなるリスクを招くのです。

睡眠は免疫力を高める

体の修復や再生機能、免疫力を高めてくれる成長ホルモンの分泌は、夜、寝ている間にもっとも盛んに行われます。
そのため、睡眠不足になると免疫力が下がり、ウイルスや細菌への抵抗力が落ちてしまいます。「睡眠時間が7時間未満の人は、8時間以上寝ている人に比べて約3倍(2.94倍)も風邪をひきやすい」というアメリカの研究もあるほどです。

また、よい睡眠はがんの予防にもつながります。実は健康な人であっても、毎日多くのがん細胞が生まれています。しかし、免疫力が高ければ、血液の成分のなかにある多くの免疫細胞ががん細胞を撃退してくれます。また、休息時に働く「副交感神経」が優位になっているときに免疫細胞はもっとも活性化するため、副交感神経が優位になる睡眠中は免疫細胞が活性化する時間ともいえます。

感染症や病気を予防するためにも、毎日しっかりと質のよい睡眠をとり、免疫力を高めることが大切です。

「睡眠力」を高めよう 〜よりよい睡眠をとるために〜

理想的な睡眠時間には個人差がある

理想的な睡眠時間は年齢によって異なり、年齢とともに必要な睡眠時間は短くなっていきます。赤ちゃんや未就学児は10〜15時間、小学生〜10代の間は7〜8時間、20代〜50代は6〜7時間、60代以上は6時間くらいが理想的な睡眠時間となります。

ただし、ショートスリーパー、ロングスリーパーという言葉があるように、必要な睡眠時間には遺伝子レベルで個人差があります。自分にとっての理想的な睡眠時間を知りたいなら、数週間程度、日によって睡眠時間を変えてみることをおすすめします。今日は7時間、明日は8時間などいろいろと試して、自分は何時間寝たら調子がよいのかを確かめてみましょう。

睡眠力を高めるためにできること

  • 寝る前にパソコンやスマートフォンを見ない

    人間の体は、朝に太陽の光を浴びることで「メラトニン」という睡眠ホルモンを規則正しいものにし、体内時計のリズムを保っています。しかし、夜遅くまでパソコンやスマートフォンなどからブルーライトを浴びていると、脳が「朝だ」と勘違いし、メラトニンの分泌が抑えられて睡眠を乱す原因となります。
    目安として、寝る1〜2時間前までにブルーライトから離れるのが理想的です。

  • 夕方に肩甲骨まわりをストレッチする

    眠気は、脳や腸といった体の内部の温度「深部体温」が高い状態から下がってきたときに訪れます。 深部体温は朝目覚める頃から上がりはじめます。そして、夕方にピークを迎えると、夜にかけてだんだん下がっていきます。

    本来人間の体は自然にこの生体リズムを保っています。しかし、睡眠に問題がある人は体温のリズムが崩れている可能性が高く、深部体温の高低差が自然とつかない場合が多いです。だからこそ、意識的に深部体温を上げる必要があります。

    深部体温を上げる方法としておすすめなのが、夕方に肩甲骨まわりをストレッチすることです。肩甲骨周りには深部体温を上げてくれる褐色脂肪細胞が多く存在するため、この部分をストレッチして刺激することで、効率的に深部体温を上げることができます。肩甲骨のストレッチはオフィスで座りながらでもできますので、5分程度のストレッチをぜひ習慣化してみてください。

  • 夕食に辛いものを食べる

    体温のコントロールには、食事も大切です。
    体温を下げて眠気を誘いたいなら、夕食にあえて唐辛子やキムチといったカプサイシンを含む食べ物を摂るのがおすすめです。カプサイシンを含む食材を摂取すると、体温が上がり、その後体温が一気に下がるので心地よい眠気を誘います。

ヨーグルトが「睡眠力」を高める理由

上記でご紹介した方法のほか、「毎日ヨーグルトを食べること」も睡眠力を高める方法のひとつです。ここでは、ヨーグルトがなぜ睡眠力を高めるのか、その理由をご説明します。

睡眠ホルモンの分泌を促す

質のよい睡眠には、眠りを誘うホルモンである「メラトニン」が必要不可欠です。しかし、メラトニンは年齢とともに分泌量が減っていくうえ、ブルーライトの影響でメラトニンがますます分泌されにくくなっている人が増えています。メラトニンの分泌を促すには、腸内環境を整えることが重要です。メラトニンの材料となる「セロトニン」というホルモンの95%は腸でつくられています。腸内環境を整えることでメラトニンの生成量が増えると、睡眠力が上がる効果も期待できます。

腸内環境を整える手軽な方法としておすすめしたいのが、ヨーグルトの摂取です。ヨーグルトには乳酸菌やビフィズス菌といった「善玉菌」が多く含まれており、ヨーグルトを食べるだけで腸内の善玉菌を増やすことができるからです。また、ヨーグルトに含まれる「トリプトファン」という成分は、摂取してから15〜16時間、メラトニンに変化します。そのため、夜の22〜23時に寝たいなら、朝の7時頃にヨーグルトを食べるのがおすすめです。

毎日のヨーグルトで身体を健やかに

よりよい睡眠をとるため、ヨーグルトの効果的な食べ方をご紹介します。

朝と夜に100gずつ食べる

腸内環境を改善するには、日約200gのヨーグルトを摂取するのが理想的です。メラトニンの観点から考えるなら、朝と夜で100gずつ食べるのがよいでしょう。

ヨーグルトと一緒に食べると睡眠力のアップが期待できる食べ物

ヨーグルトと一緒に食べると睡眠力のアップが期待できる食べ物として、リラックスをもたらす成分として知られる「GABA」を含む食品があげられます。
GABAとはアミノ酸の一種で、チョコレートやトマト、納豆、じゃがいもなどに多く含まれます。ヨーグルトとの相性を考えるなら、果物のなかでGABAの含有量が最も多いメロンがおすすめです。
また、ヨーグルトに含まれるトリプトファンは、バナナやキウイ、チェリーといった果物にも含まれるため、朝ヨーグルトと一緒に食べることをおすすめします。

まとめ

ヨーグルトと睡眠というと意外な組み合わせだと感じるかもしれません。しかし、腸内環境と睡眠には深い関係があり、腸内環境を整えてくれるヨーグルトの摂取は、睡眠力を上げる方法として理にかなっています。

感染症や病気から身を守るためにも、睡眠で免疫力を高めることは現代人にとって必要不可欠です。ぜひ毎日のヨーグルトを習慣化し、睡眠力のアップを目指していきましょう。

【監修】白濱龍太郎

医学博士、社会医学系指導医・専門医、日本睡眠学会専門医、日本内科学会認定医、日本医師会認定産業医。 海外の研究事情にも詳しく、1万人を治療してきた睡眠の名医。 筑波大学医学群医学類卒業。東京医科歯科大学大学院歯学総合研究科統合呼吸器病学終了。東京医科歯科大学呼吸器内科・快眠センター、公立総合病院睡眠センター長ほかを経て2015年にRESM新横浜/睡眠・呼吸メディカルケアクリニック(日本睡眠学会認定A型施設)。経済産業省海外支援プログラムに参加し、海外の医師たちへの睡眠時無呼吸症候群の教育を行うとともに、順天堂大学医学部公衆衛生学非常勤講師として睡眠予防医学の観点から臨床研究発表、講演も行っている。現在、国内企業と組み、ビジネスパーソンのパフォーマンス向上のためのオーダーメイド睡眠改善プログラムを開発中。さまざまな挑戦を続けている。

このページをシェアする

  • twitter
  • facebook
  • line
  • はてなブログ
ページの先頭へ移動