カマンベールチーズと認知機能

Camembert & Cognitive Function

世界初 カマンベールチーズの
摂取が
認知機能との
関連性が報告されている
BDNFを増加させることを
ヒト介入研究※1において
確認しました!

  • ※1
    2016年から2018年に桜美林大学、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター、株式会社 明治の共同研究グループにて実施。
    Suzuki T, et al: J Am Med Dir Assoc, 20 (12):1509-1514.e1502 (2019).

Research Method

研究方法

対象者
東京都に居住する70歳以上の高齢女性689人のうち、
MCI(軽度認知障害)と判断された※2高齢女性71人。
介入
対象者を無作為に2群に分け、1つの群は白カビ発酵したカマンベールチーズ、
もう一つの群は対照チーズ(カビ発酵していないプロセスチーズ)を
それぞれ1日2ピースずつ※3を3ヶ月間摂取して頂き、血中BDNF濃度を測定した。
その後、3ヶ月間のウォッシュアウト(試験用チーズを一切摂取しない期間)を経て、
摂取する食品を群間で入れ替え同様のことを実施した。
  • ※2
    自覚的なもの忘れの訴えがあり、認知機能を確認するテスト(MMSE)の
    結果が23~26点の方を軽度認知機能障害と判断。
  • ※3
    1ピース=16.7g、1日2ピース=33.4g。

Result

結 果

カマンベールチーズ摂取群は、対照チーズ摂取群と比較して、血中BDNF濃度が有意に高い値を示しました。

本研究の結果から、MCI(軽度認知障害)の高齢者において、カマンベールチーズ摂取によってBDNFが上昇することが示唆されました。

About BDNF

認知機能との関連が報告されている
「BDNF」とは?

BDNFは、男性および女性ともに加齢とともに減少していく(※4)。

認知機能検査スコアとBDNFの相関性

認知機能を評価するテスト(MMSE)のスコアと血中BDNF濃度との間で正の相関があることが報告されています(※5)。

BDNFは、神経細胞の発生・成長・維持・再生を促進させる脳由来の神経栄養因子です。BDNFは記憶の中枢である脳の「海馬」に多く発現するほか、血液中にも存在しています。血中BDNFの濃度は65歳以上になると加齢にともなって低下します※4。また、血中BDNF濃度が高いと記憶力や学習能力などの認知機能評価スコア(MMSE)が高いなど、この両者の間には正の相関関係があることがわかっています※5

この、“脳の栄養分”ともいわれるBDNFは、加齢により減少しますが、適度な運動により増加し、また記憶や学習などのパフォーマンスを高めることがわかっています※6。一方、食品がBDNFに及ぼす影響に関する研究はこれまであまりありませんでしたが、このたび、乳製品のカマンベールチーズを摂取することで血中BDNF濃度が増加したことを示す、ヒトを対象とした初の研究成果を報告しました。

  • ※4
    Shimada H, et al: Front Aging Neurosci, 6:69 (2014).
  • ※5
    Laske C, et al: J Neural Transm (Vienna), 113 (9):1217-1224(2006).
  • ※6
    Szuhany KL, et al: J Psychiatr Res, 60:56-64 (2015).

Interview

本試験の意義や
今後の展望について

ヒトを対象とした
ランダム化
比較試験の
難しさと意義

桜美林大学
大学院教授
同老年学総合研究所 所長
鈴木隆雄 先生

身近な食品に
よって見出された
新たな光明

東京都健康長寿
医療センター研究所
自立促進と精神
保健研究チーム 研究部長
金憲経 先生

今回の臨床試験は、エビデンスレベル(科学的な信頼性)が非常に高い「ランダム化比較試験(RCT)」という方法で実施しました。ランダム化比較試験とは、ある試験的操作(介入・治療など。今回はチーズの摂取)を行う以外は条件が公平になるように、対象の集団(今回は軽度認知障害(MCI)の高齢女性)をランダム(無作為)に複数の群に分けて、試験的操作の影響を評価し、明らかにする比較試験のことです。

ヒトを対象として食品摂取の影響を調べるランダム化比較試験は、事前に期待する結果を得ることが非常に難しい研究方法です。例えば、運動の影響を調べる場合は、運動をしたかどうかをはっきり区別することができます。しかし食品の場合、食生活全般をコントロールするのは難しい上、本人が意図せず、試験結果に影響する別の食品や栄養成分を摂ってしまう可能性などがあります。そうした困難は当初から予想されましたが、私たちは今回「一般の生活者」を対象に試験を行うことにしました。特別な条件下ではなく、あくまで一般的な状況で結果が出れば、それは多くの人に共通する成果となるだろうと考えたからです。

今回の試験では、都内在住の高齢女性に1人あたり2時間以上かけて認知機能を調査させていただき、対象者の選出にあたり多くの皆さんのご協力をいただき、試験を順調に実施することができました。ご協力いただいた皆さんに心より感謝しています。

食品の摂取で認知機能検査の結果(MMSE)が変動するには少なくとも1年以上の調査期間が必要と考えられたため、今回の試験ではそれよりも早く変化する血中マーカーとしてBDNF濃度に着目しました。そこで、カマンベールチーズ摂取による血中BDNF濃度の変化を確認することを主な目的(主要評価項目)としました。その結果、血中BDNF濃度はカマンベールチーズ摂取群で、対照チーズ摂取群よりも有意に増加しました。なお、今回の試験で、探索的評価項目(副次評価項目)としたMMSEの両群の平均値は期待された変動を示さず、MMSEで評価するには3カ月という摂取期間はやはり短かったと考えています。

結果的に、本試験によってカマンベールチーズ摂取が血中BDNFの濃度を高めたことが確認され、認知機能の低下抑制につながる可能性が示唆されました。ヒトを対象としたエビデンスレベルの高い試験で、食品によってBDNF濃度上昇が報告された例はおそらくこれが初めてではないかと思います。今後、これに続いてさまざまな食品と認知機能の関連を調べる研究が活性化するのではと期待しています。

我々の試験により、身近な食品の一つであるカマンベールチーズ摂取で血中BDNF濃度を増やせる可能性が示されました。従来、運動することによって血中BDNFは増えることが検証されていました。しかし、既に認知機能が低下している方は十分に体を動かせないケースも多かったのです。幸いにもそのような方でもカマンベールチーズで血中BDNF濃度が増加するなら、大きな希望が得られるでしょう。

また手に入りやすい食品に認知機能の低下抑制効果があれば、低下が起こり始めるといわれる40~50代の方が将来の不安を軽減することにもつながるかもしれません。実は私も当初は「チーズの白カビの有無が結果に影響するのだろうか」と半信半疑でした。しかし、運動をするなどBDNFが増加するような条件を取り除いた今回の試験でも、血中BDNF濃度に有意な差が見られたのです。こうした厳しいコンディションで確認された結果であるからこそ、老年病に関して国際的な影響力がある学術雑誌「JAMDA」(Journal of the American Medical Directors Association)にも掲載された※1のだと思います。

今回の試験では、介入後の血中BDNF濃度はカマンベールチーズ摂取により有意に増加しましたが、記憶力や学習能力などの認知機能評価スコア(MMSE)分布に期待された変動は認められませんでした。これは試験期間が短かったことが理由と考えており、より長期の試験を実施すれば、認知機能改善作用も確認できるのではないかと考えています。

東京都健康長寿医療センター研究所と桜美林大学は、高齢者の食習慣と認知機能の関連性について更なる調査を進めているところです。我々の研究が、多くの方の認知機能の低下抑制に役立てられることを願っています。

※1
Suzuki T, et al: J Am Med Dir Assoc, 20 (12):1509-1514.e1502 (2019).

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