TRAINING02成長期に必要な
トレーニング
〜「敏しょう性」〜

ジュニアスポーツ選手に
必要なトレーニングは?

「子どもは大人のミニチュアではない」という言葉が示すように、子どもから大人になる過程で、私たちのからだにはさまざまな変化が生じることが分かったと思います。では、運動能力は、どのような過程を経て発達するのでしょうか。
この疑問に対しては、一般的にはスキャモンの発育発達曲線を用いて説明がなされています(図1)。スキャモンの発育発達曲線とは、からだのさまざまな器官を一般型、神経型、生殖型、リンパ型という4つのパターンに分類し、これらの発達の様相を20歳の値を100%として曲線で示したものです。ここで注目して欲しいのが「神経型」。神経型とは脳や神経の働きを示しており、10歳頃までに大人と同じくらいまで発達していることが分かります。これをスポーツ選手に置き換えると、素早い身のこなしや反射神経といった能力が、10歳頃までに完成するということを意味しているのです。このことから、9歳から12歳ごろを「ゴールデン・エイジ」と呼び、スポーツ選手としての基礎を築くためにとても重要な時期だともいわれているのです。

スキャモンの発育発達曲線

敏しょう性はどのように
発達するの?

一般的に敏しょう性には神経系の働きが関与しているといわれています。よって、10歳頃までに敏しょう性の伸びのピークを迎えるといわれていますが、実際はどうなのでしょうか。

敏しょう性を示す反復横跳びを例にして、ジュニアスポーツ選手(図2)、一般の児童・生徒(図3)の結果をまとめたグラフで確認することにしましょう。青色の線は反復横跳びの記録、赤色の線はその記録が年間でどれくらい伸びているのかを示しています。これらのグラフをみると、ジュニアスポーツ選手では、約9歳と約12歳に記録が大きく伸びていることが分かります。約12歳の記録の伸びは、成長期にともなう運動能力の向上を反映しており、他の運動能力でも比較的認められていますが、約9歳の記録の伸びは、敏しょう性と深い関係のある神経系の働きがこの時期に著しく伸びていることを示しています。このことは、10歳頃までに神経型が成人と同程度まで発達するというスキャモンの発育発達曲線の結果と一致することが分かります。また、ジュニアスポーツ選手と一般の児童・生徒の結果を比べると、記録の伸びる程度がジュニアスポーツ選手の方が大きいことも分かります。

このように、成長期にあるスポーツ選手は、敏しょう性のトレーニングを実施するには最適な時期であり、トレーニングによる刺激を加えれば加えるほど、その伸びも大きくなるのです。

ジュニアスポーツ選手の反復横飛びの結果
一般児童・生徒の反復横飛びの結果

敏しょう性を養う
トレーニングの実際

  • 1ラダーを用いたトレーニング

    敏しょう性を養うトレーニングでよく用いられる器具の一つに「ラダー」があります。はしご状のマスが連なっており、素早く脚を動かしながらステップすることで敏しょう性を養うトレーニングを行うことができます。ただ、マスに正確に脚をステップすることばかりに注意を払うと、視線が常に下がり正しい姿勢を保つことができません。できるだけ視線を前に向け、背筋をしっかり伸ばしながらステップを踏む必要があります。また、ラダーがなければ、グラウンドやフロアーにラインを引いたりするなど工夫すれば、同様のトレーングを行うことができます。

    • 1クイックラン

      1マスにつき片足ずつステップしながら、できるだけ速く前進します。

    • 2開閉ジャンプ

      1マスごとに足を開閉させながら、できるだけ速く前進します。

  • 2コーンを用いたトレーニング

    小さなコーンを使っても、敏しょう性を養うトレーニングを行うことができます。コーンを用いる場合、自分でいろいろな場所に置くことができますので、無数のバリエーションを考え出すことができるといった利点があります。

    • 14コーナー・ステップ

      1辺が1〜3mになるように、4スミにコーンを置きます。このコーンをサイドステップ→前方へのダッシュ→サイドステップ→バックステップの順番で、できるだけ速くまわります。この動作を行う場合においても、常に視線を前に向け背筋を伸ばしておくことが大切です。

    • 2ジグザグ・ラン

      1〜2m間隔に、ジグザグにコーンを置きます。コーンにタッチしながらできるだけ速くダッシュします。
      このトレーニングのように動作の切り返しを含む場合、体幹部にしっかりと力を入れて、からだが流れないようにすることが大事です。

参考文献

  • 文部科学省(2009)「平成19年度体力・運動能力調査」の概要.
  • Scammon R. E. (1927) The first seriatim study of human growth. Am J Phys Anthropol, 3, 329-336.
  • 日本SAQ協会(1999)スピード養成SAQトレーニング.大修館書店.
  • 渡辺英次,三島隆章,岩舘千歩,関一誠(2010)ジュニアスポーツ選手における身体的発育発達の特徴に関する考察-Polynomialによる解析-.教育医学,55,251-264.