胃腸の健康を守る習慣|弱っているときに避けたいことも解説

胃腸の健康を守る習慣|弱っているときに避けたいことも解説

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胃腸は食べたものを消化して栄養を吸収する大切な器官ですが、不調を軽く考えてしまうことも少なくありません。放っておくと深刻な病気につながってしまう可能性もあります。この記事では、胃腸の不調を見直し、改善のヒントとなる続けやすい3つの習慣を紹介します。

※なお、ここで扱うのは、明らかな病気の診断がついていない「胃腸の不調」に限った内容です。気になる症状が続く場合は、まず医療機関を受診することをおすすめします。

この記事の執筆者
管理栄養士
中村 瑞樹

フリーの管理栄養士として、食事指導、行政の健康事業への参画、執筆、セミナー講師、商品監修などを行う。特に健康維持や病気予防を目的とした食事指導に注力し、これまでのべ1,200名以上をサポートした。調理師、琉球料理伝承人などの資格を保有。

目次
  1. 胃と腸が弱っているとどうなる?
  2. 胃腸が弱っている時に避けたいこと
  3. 胃腸の健康を守る習慣
  4. まとめ

胃と腸が弱っているとどうなる?

「最近なんだか胃もたれしやすい」「便秘や下痢を繰り返す」など、胃腸の不調を感じる人は少なくありません。たかが胃もたれ、たかが便秘や下痢と思われがちですが、日々の食事や生活全体の質に影響を及ぼすこともあります。

症状そのものが辛いのはもちろん、「なんとなくの不調」が続くと、心身ともに疲れてしまうこともあります。本人にとっては深刻なものでしょう。ここで胃腸が弱っている時のサインを、改めて整理してみましょう。

胃が弱っている時のサイン

胃が弱っている時には、胃のあたりが重く感じたり痛みを感じたりして、日常生活の中での不快感につながります。原因としては、胃酸の分泌の乱れなどがあげられます*1。ストレスや偏った食生活、食べ過ぎ・早食いといった習慣、加齢による胃の機能低下が、胃の不調の要因になると言われています*2。

腸が弱っている時のサイン

ストレスなどで腸が弱っている時には、便秘や下痢といった症状が見られることがあります*3。その結果、トイレに行ってもすっきりしなかったり、逆に何度もトイレに行きたくなったりして、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。こうした状態が長く続くと、過敏性腸症候群(IBS)と診断される場合もあります*4。背景には、腸内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオシス)が関係していると考えられています*5。

二次的な影響

腸の不調がある程度続くと、抑うつや不安など、メンタルの不調にもつながることがあります*4。また、腸と脳は自律神経系などを介して双方向で関連するとされており、これを「脳腸相関」と呼びます。腸内細菌のバランスがくずれ、腸内環境が乱れると、ストレスを感じる、気分が落ち込む・やる気が出ないといったメンタル面の不調を引き起こすこともあります。さらに、このメンタルの変化がホルモン分泌の変化や自律神経を介して消化管に伝わり、胃腸の不調を長引かせる原因になることもあります*4*5。

*1 厚生労働省事業 東京大学産婦人科学講座・国立成育医療研究センター監修 女性の健康推進室ヘルスケアラボ「胃痛・胃もたれ」
*2 独立行政法人 労働者健康安全機構 茨城産業保健総合支援センター「胃腸のケアは全身のケア」
*3 日本消化器病学会 健康情報誌「消化器のひろば」No.19-7. ストレスで起こる消化器の病気は何ですか?
*4 公益財団法人腸内細菌学会「用語集 脳腸相関」
*5 北條 麻理子ほか.ストレスと消化器疾患.特集第323回順天堂医学会学術集会.2010;56巻6号, p538-540

胃腸が弱っている時に避けたいこと

胃腸の不調は、「なんとなく調子が悪い」「病院に行く程ではないけれど気になる」といった曖昧な状態で現れることも少なくありません。中には健康診断や栄養指導で指摘されて、初めて自身の不調に気付く場合もあります。気付かないうちに悪化したり長引いたりすることもあるため、まずは胃腸の負担になる習慣を減らすことが大切です。ここでは、胃腸が弱っている時に避けたい行動を整理していきましょう。

早食い・暴飲暴食

食べ物を消化するには、口で十分に咀嚼することが重要です。しかし、忙しいと、咀嚼が不十分なまま食事を終えてしまう「早食い」になってしまうこともあります。噛まずに飲み込むことで、本来口で行われるべき消化の工程が胃に回されてしまい、胃に大きな負担がかかるのです。さらに、満腹感を感じる前に食べ終えてしまうことで、食べ過ぎ(暴飲暴食)にもつながり、胃腸の負担をより増やす原因になります。胃腸の不調を感じる時は、普段よりもゆったりと、よく噛んで食べるよう意識しましょう。

脂っこい料理・刺激物の摂取

揚げ物や脂質の多い料理、辛いスパイス、カフェイン、アルコールなどは、とり方やタイミングによっては、胃腸に負担をかける原因となることがあります。 また、脂質、カフェイン、香辛料は過敏性腸症候群との関連も報告されています*6。これらを一切食べてはいけないわけではありませんが、胃腸の調子が優れない時は「ちょっと控えてみようかな」くらいの、無理のない範囲で控えることが大切です。

冷たい飲食物のとり過ぎ

冷たい飲み物をとった場合、胃の動きやふくらみやすさ(柔軟性)が低下することが研究で報告されています*7。また、内視鏡検査では異常がないものの胃の不調を感じる「機能性ディスペプシア」患者においては、冷えによって上腹部不快感や痛みを引き起こす可能性があることも報告されています*8。一時的に胃腸が弱っている場合は、常温や温かいものを選ぶのがおすすめです。

不規則な生活・睡眠不足・ストレス

私たちの胃腸は、自律神経という体のリズムを整える神経によってコントロールされています。そのため、生活リズムの乱れや睡眠不足、強いストレスは、胃腸の動きや消化液の分泌に影響を与えます。ストレスが続くと、先にあげた脳腸相関により、消化器の病気につながる可能性もあります*9。睡眠不足も同様に腸内環境を乱し、免疫力の低下や食欲の変化につながります*10。胃腸が弱っている時こそ、規則正しい生活と睡眠、そしてストレスを溜め過ぎないことが大切です。

*6 日本消化器病学会. 機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版).p38
*7 Fujihira K et al.,The effects of water temperature on gastric motility and energy intake in healthy young men.European Journal of Nutrition,2020,59(2),p.103-109
*8 Rui-Feng Wang et al.,Temperature Can Influence Gastric Accommodation and Sensitivity in Functional Dyspepsia with Epigastric Pain Syndrome.Digestive Diseases and Sciences, 2013,58(9),p.2550-2555.
*9 Peter C Konturek et al., Stress and the gut: pathophysiology, clinical consequences, diagnostic approach and treatment options.J Physiol Pharmacol,2011,62(6):591-9.
*10 Jingyi Sun et al.,Sleep Deprivation and Gut Microbiota Dysbiosis: Current Understandings and Implications.Int J Mol Sci,2023.24(11):9603

胃腸の健康を守る習慣

胃腸は一度調子をくずすと回復に時間がかかることもあるため、日頃から負担を減らして、不調にしないことを心がけましょう。ここでは、日常生活の中で実践できる、胃腸を守る3つのポイントを紹介します。

善玉菌を増やす食習慣(プレバイオティクス)

オリゴ糖は、腸内の善玉菌(特にビフィズス菌)のエサとなり、善玉菌を増やします。 善玉菌により短鎖脂肪酸がつくられ、腸内を弱酸性に保つことで悪玉菌の増殖を抑えたり、腸の蠕動運動を促したりすることが期待できます*11*12。

さらに、難消化性オリゴ糖は糖として取り込まれない性質もあり、毎日の食事に取り入れやすいのが魅力です。オリゴ糖はバナナ、玉ねぎ、ごぼう、はちみつに含まれる他、オリゴ糖シロップなどの甘味料を活用するのもおすすめです*11。

乳酸菌の力を借りる(プロバイオティクス)

乳酸菌の中には、胃酸に強く、生きたまま胃に届く性質をもつものがあります。

乳酸菌の1つ「LG21乳酸菌(Lactobacillus gasseri OLL2716)」は一時的な胃の負担をやわらげる機能が報告されており、機能性表示食品のヨーグルトから手軽に摂取できるので、毎日の食事に取り入れやすいです*13。

ストレスや冷えから胃腸を守る

ストレスや睡眠不足は、自律神経のバランスを乱し、胃腸の動きにも影響する可能性があります。意識的に深呼吸をしたり、軽く体を動かしたり、しっかり眠る時間を確保したりして、ほっとできる時間をつくりましょう。また、冷たい飲み物やエアコンによる体の冷えは、胃腸には大敵です。調子が気になる時は、温かい飲み物や入浴、厚着などで、体を温める工夫をしましょう。

*11 独立行政法人 農畜産業振興機構「プレバイオティクスとフラクトオリゴ糖~シュガーリプレイスメントから免疫改善まで」
*12 Marcel Roberfroid et al., Prebiotic Effects: Metabolic and Health Benefits. British Journal of Nutrition, 2010,104(Suppl 2), S1–S63.
*13 株式会社 明治「明治プロビオヨーグルトLG21」

まとめ

胃腸の不調は、ないにこしたことはありませんが、ちょっとした不調のサインは誰にでも起こり得ます。大切なのは、今の自分の胃腸の状態を把握し、健康に保つための工夫を日常生活の中に取り入れていくことです。オリゴ糖やヨーグルトを取り入れるなどの食生活の見直し、規則正しい生活をするといった方法は、比較的続けやすく、お腹の健康維持にもつながります。

ただし、症状が長引いたり、強くなったりした場合は、迷わず医療機関に相談してください。今日からできる小さな工夫を積み重ねて、胃腸を大切にしていきましょう。

(参考文献閲覧日:2025年8月10日)

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