脳腸相関とは?腸に関わる臓器とケアする習慣を解説

脳腸相関とは?腸に関わる臓器とケアする習慣を解説

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脳と腸がお互いに影響を受け合い、体のさまざまな働きに関わっていることを指す「脳腸相関」という概念があります。脳と腸は全く関係がないように思えますが、脳と腸の両方が良好な状態になることで、それぞれの機能が適切に働きます。

最近では「腸活」と言われるように、腸のケアに力を入れる人も増えてきましたが、さらに脳との関係性を理解すれば、より良い健康づくりのサポートになります。今回は、脳腸相関の基本や腸と関わりが深いほかの臓器、脳と腸がケアできる生活習慣を紹介します。

この記事の執筆者
管理栄養士
佐野 未来

管理栄養士として給食委託会社で調理・発注などの経験を経て、大学病院で大量調理業務や栄養指導、病棟における栄養管理業務を行う。現在は独立し、個人向けに栄養指導や食に関する執筆、学校給食での調理など幅広く活動している。管理栄養士以外にも、栄養士や食生活アドバイザーなどの資格も保有する。

目次
  1. 脳腸相関とは
  2. 腸と関わりが大きい臓器
  3. 腸と脳をケアする習慣
  4. まとめ

脳腸相関とは

脳腸相関とは、脳と腸が自律神経系やホルモンなどを介し、密接な影響を与え合う関係性のことです*1。どちらか片方の臓器がうまく働かないと、もう片方の臓器にも少なからず影響を与えます。

たとえば、おなかの不調があらわれるとその情報が脳に伝わり、腹痛を起こしたり、抑うつや不安感などを引き起こします。逆に、脳にストレスが加わると、胃や腸といった消化管の動きが悪くなるなど、さまざまな症状が並行して見られるのです*1。

また、研究が進むにつれて中枢神経系と腸内常在菌が深く関わっていることも注目されており、脳・腸・腸内細菌の関係性を示す「脳-腸-腸内細菌軸」という考え方も広まってきています*1。

腸内環境を適切に整えておけば、腸と関わりの深い脳のケアにもつながります。体の司令塔ともいえる脳と、消化・吸収や免疫機能を司る腸をダブルでケアして、健康的な体づくりに取り組みましょう。

*1 公益財団法人腸内細菌学会「用語集 脳腸相関」

腸と関わりが大きい臓器

腸は脳だけでなく、ほかの臓器とも深い関わりがあります。特に、腸とつながっている胃や、多くの代謝を担う肝臓との関係が強いため、腸活をすることでこれらの臓器の働きをスムーズにする効果も期待できるのです。

ここでは、腸と胃・肝臓との関わりについて解説します。

胃と腸の関わり

口から胃、腸、肛門までは1本の管でつながっており、消化管と言います。消化管は全長8~9mにも及ぶ大きな組織で、口から入ってきた食べ物を消化・吸収するための重要な器官です*2。特に、隣り合わせの胃と腸は、密接な関係があります。

胃に食べ物が入ってくると脊髄に信号が送られ、さらに脳にも信号が伝わります。信号を受け取った脳は、脊髄を通して腸に排便の信号を送るという流れがあり、これを「胃・結腸反射」と呼びます*2。

食べ物の消化・吸収には胃・腸・脳が一緒に働くことが必要なので、それぞれの臓器を良好な状態でキープしておくことが望ましいです。そのため、脳腸相関の関係性を理解し、日々ケアしておくことが重要といえます。

肝臓と腸の関わり

肝臓と腸は、肝細胞でつくられた後に胆のうから十二指腸に分泌される胆汁を循環させる「腸肝循環」と呼ばれるサイクルで連携しています*3。腸肝循環はビタミンやホルモンなどを効率的に利用したり、薬の成分を適切に代謝したりするためにも重要な機構とされています*6。

胆汁は胆汁酸や胆汁色素を主成分とする消化液の一種で、食べ物に含まれる脂肪酸の消化・吸収を促すものです*3。胆汁の主成分である胆汁酸は腸管内で再吸収され、全体の約95%が再び肝臓に戻ります*4。

胆汁酸の代謝には、腸内細菌も大きく関わっています。そのため、腸内フローラが乱れると腸肝循環のサイクルがくずれるおそれもあるのです*4*5。

体内の代謝サイクルを維持する上で必要不可欠ですから、腸内細菌のバランスを整えておくことが大切です。

*2 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「健康長寿と腸と排泄の関連について」
*3 公益財団法人難病医学研究財団 難病情報センター「用語:胆汁 (たんじゅう)」
*4 小西孝宜ほか. 腸肝循環:胆汁酸サイクルを中心に. 外科と代謝・栄養. 2013, 47巻1号, p.41-43
*5 一般社団法人日本離床学会「【見逃せない腸肝循環】腸と肝機能に関するQ&A」
*6 公益社団法人日本薬学会「腸肝循環」

腸と脳をケアする習慣

腸と脳はお互いに影響を与え合っていますが、ほかにも胃や肝臓といった重要な臓器とも密接につながっていることがわかりました。普段の生活で腸や脳をケアする習慣をつければ、これらの臓器の働きをよりスムーズにすることも期待できます。

ここでは、腸と脳をケアするためのポイントを解説します。

ストレス発散の機会をつくる

日々の生活で蓄積したストレスは、定期的に発散するように心がけましょう。

脳がストレスを感じると、脳の視床下部からストレスに関連するホルモンが分泌され、大腸の機能障害を進行させてしまいます*7。腸の機能がうまく働かないと、おなかの調子が悪くなって便秘や下痢が起こったり、腸の不調が脳に伝わって不安感が増したりといった悪循環に陥る可能性も否定できません。

ストレス発散の方法は人それぞれです。没頭できる趣味を見つける、旅行をして非日常感を味わう、ただ何もせずにのんびりと過ごすなど、自分に合った方法で発散してください。

適度な運動を取り入れる

腸と脳を同時にケアするには、適度な運動も効果的です。

運動を取り入れると、脳で記憶を司るとされる海馬の委縮を抑える効果も報告されています*8*9。また、運動すると腸内の善玉菌が増えると同時に、腸内細菌叢の多様性が向上するという報告もあります*10。

腸内フローラが整うと、免疫機能やさまざまな臓器の機能がスムーズになる可能性も示唆されているため、体全体をケアするのに運動は有効といえるでしょう*10。

ただし、運動習慣がない人は、急に激しい運動を始めるとけがのもとになります。ウォーキングのような軽い運動から始めたり、ストレッチをして体をほぐしたりするなど、無理のない範囲で始めると長く続けられるのでおすすめです。

便秘の予防を目指す

便秘に悩んでいるなら、食物繊維を十分にとり、便のかさを増やして適度な水分を含んだ便になるように心がけましょう。便の状態が良ければ、腸内に便がとどまる時間も減り、便秘予防につながります*2。

腸内細菌のバランスがくずれて悪玉菌が増えることで、腸内で悪臭やガスが発生するだけでなく、免疫力が低下する可能性もあります*2。便秘を予防して腸内環境の改善を目指すなら、前述のように適度な運動をする以外に、腸内フローラを整える食習慣を取り入れても良いでしょう。

オリゴ糖など腸内フローラを整える食品をとる

腸内フローラを整えるには、腸内細菌のエサとなる食品を取り入れるのが近道です。

多くのオリゴ糖は、善玉菌の代表格であるビフィズス菌の増殖を促し、腸内フローラの正常化に役立ちます。フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖などは胃や小腸で消化・吸収されることなく大腸に届き、砂糖と比較してカロリーや血糖値にも影響が出にくいので気軽に使えるのがメリットです*11。

ただし、オリゴ糖の一種であるイソマルトオリゴ糖は小腸である程度消化・吸収されます*11。オリゴ糖製品を選ぶ時は、どんなオリゴ糖を主成分にしているかを確認してから購入しましょう。

オリゴ糖は砂糖よりも甘みが控えめなものが多く、素材の味に影響を与えにくい甘味料です。そのため、さまざまな料理や飲み物、フルーツなどに加えてもおいしく食べられます。

オリゴ糖を取り入れる以外にも、主食・主菜・副菜とバランスの良い食事を意識して、さまざまな栄養をまんべんなく摂取することも大切です。食習慣は腸内環境に大きく影響を与えるものなので、一度見直してみるのも良いでしょう。

*7 眞野あすかほか. 脳―腸―腸内細菌軸と過敏性腸症候群. 日医大医会誌. 2023; 19(1), p.53
*8 厚生労働省 健康日本21アクション支援システム「「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:身体活動による疾患等の発症予防・改善のメカニズム」
*9 一般社団法人 日本生物物理学会「生物物理について 海馬」
*10 女子栄養大学 時間栄養学からみた食と健康「第11回 運動と体内時計、運動による腸内細菌叢の改善効果」
*11 独立行政法人 農畜産業振興機構「砂糖以外の甘味料について」

まとめ

今回は、脳腸相関について解説しました。脳と腸は密接な関係があり、両方をケアすることは体のさまざまな機能をスムーズに働かせるサポートになります。手軽に始められるのが腸活で、オリゴ糖など腸内環境の改善が期待できる食品を取り入れたり、運動を始めたりするのもおすすめです。健康的な毎日を送るためにも、ぜひ参考にしてみてください。

(参考文献閲覧日:2025年7月28日)

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