日本人の食卓に欠かせない発酵調味料である味噌。その栄養価や健康効果に注目が集まっています。
今回は、味噌に含まれる栄養素と期待される健康効果、さらには気になる味噌の塩分を減らす方法や簡単に使う方法も紹介しています。ぜひ味噌を毎日の食事に取り入れてくださいね。

この記事の執筆者
管理栄養士
中村 瑞樹
フリーの管理栄養士として、個人向けの栄養指導、料理教室の講師、講演、レシピ制作、執筆などを行う。特にダイエットのための食事指導を得意とし、今までのべ1,200名以上に指導してきた。調理師、琉球料理伝承人などの資格を保有。
味噌の主な栄養素と期待される効能
古くから日本の食生活を支えてきた発酵食品である味噌には、たんぱく質や食物繊維といった基本的な栄養素に加え、味噌を作る過程で添加・増加する乳酸菌など、体に嬉しい成分が含まれています*1。ここでは、味噌に含まれる代表的な栄養素と、それぞれに期待される健康効果について紹介します。
たんぱく質
味噌には、大豆由来のたんぱく質が含まれています*1。たんぱく質は、筋肉や臓器、皮膚など体を構成する重要な材料であり、健康な体づくりに欠かせません。
毎日の食事に味噌を取り入れることでたんぱく質を補給でき、骨格や筋肉の維持、基礎代謝のサポートにもつながります*2。
食物繊維
味噌には食物繊維も含まれており、腸内環境を整える働きが期待できます*1。食物繊維は善玉菌のエサとなり、腸内のバランスを改善するだけでなく、便通を促進し、生活習慣病の予防も期待できます*3。
日々の食事に味噌を取り入れることで、自然に食物繊維を補い、腸から健康を支えてくれるでしょう。
乳酸菌
味噌に含まれる乳酸菌は、腸内を酸性化し悪玉菌の増殖を抑え、腸内環境を改善する働きがあります。また腸内細菌のバランスを保つことによる便秘の改善、コレステロール値や中性脂肪値の低下、血圧降下作用、免疫の維持に役立つことが報告されています*4。
花粉症やアトピー性皮膚炎などアレルギー症状の緩和にもつながるのではないかと言われています。免疫細胞のバランスの正常化、炎症性サイトカイン(免疫系細胞から分泌されるたんぱく質)の抑制、腸管バリア機能の増強などが要因と考えられています*4。そのほかにも乳酸菌が腸内に届くことで健康に役立つ作用を発揮する、プロバイオティクスとしての機能が期待できます*5。
*1 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年・ 第2章(データ)」
*2 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「三大栄養素のたんぱく質の働きと1日の摂取量」
*3 厚生労働省 健康日本21アクション支援システム「食物繊維の必要性と健康」
*4 上西寛司ほか. 乳酸菌の生理機能とその要因. 日本調理科学会誌. 2013, 第46巻 第2号, p.129-133
*5 公益財団法人腸内細菌学会「用語集 プロバイオティクス」
味噌の種類と特徴
味噌は、日本の食文化を代表する発酵調味料の1つです。主に大豆と麹、塩からつくられますが、使用する麹の種類や製法によって、風味や色、栄養価に違いがあります*6。ここでは代表的な4種類の味噌について、その特徴を解説します。
米味噌:オールマイティ型で使いやすい
米麹・大豆・塩を原料につくられる味噌で、現在生産される約8割が米味噌です*7。日本でもっとも広く親しまれている味噌で、地域によってさまざまなバリエーションが存在します。
甘口から辛口まで幅広い特徴があり、味噌汁はもちろん、煮物や味噌だれ、漬物づくりにも向いています。料理初心者にも扱いやすく、日常使いにぴったりのオールマイティな味噌です。
麦味噌:香ばしく優しい味わい
麦味噌は、麦麹・大豆・塩が主な原料で、主に九州地方や四国・中国地方でよく見られます*7。麦特有の芳ばしい香りと甘みが特徴です。
米味噌や豆味噌と比較して色が淡く、軽やかな風味なので、暑い季節の味噌汁や、さっぱりとした和え物、冷や汁などにおすすめです。香りをいかして、炒め物やドレッシングにも応用できます。
豆味噌:濃厚なコクを楽しむ
大豆と塩を原料につくられる味噌です。大豆に麹をつけた豆麹が発酵に使われます*7。発酵期間が長く、深いコクと旨みが特徴です。また、加熱により生まれる香気成分が、独特のおいしさを出すことも科学的に分かっています*8。
しっかりとした旨味があるため、味噌煮込みうどん、味噌カツ、濃いめの味つけの煮物などにおすすめです。
調合味噌:バランス重視で幅広い料理に
米味噌・麦味噌・豆味噌を2種類以上ブレンドした味噌です*7。それぞれの特徴をいかしながら、味・香り・色のバランスを整えたものが多く、クセが少なく食べやすいのが魅力です。味噌汁を始め、煮物や鍋料理、炒め物など、お好みに合わせて幅広く使えます。
*6 北川学. 変化し続ける味噌―これまでの変遷とこれからの展望―. 日本醸造協会誌, 2021, 第116巻4号, p.211-219
*7 北川学. 発酵調味料“味噌”を知る. 生物工学会誌, 2019, 第97巻第4号, p.207-210
*8 井上裕ほか. 豆味噌の加熱香気がこくに与える影響. 日本醸造協会誌, 2018, 第113巻 第1号, p.9-17
味噌の栄養を効率的にとる食べ方と注意点
味噌に含まれる栄養素には、さまざまな健康へのメリットが期待できますが、保存食なので塩分量が高く、塩分のとり過ぎに注意が必要です。ここでは、味噌の栄養を無駄なく取り入れるためのポイントと注意点を解説します。
加熱し過ぎない
味噌に含まれる乳酸菌は75℃以上で加熱を続けると死滅してしまいます*9。乳酸菌の働きをいかすためには火を通し過ぎないようにしましょう。味噌汁などは、火を止めてから味噌を溶かすようにすると、乳酸菌の死滅を防げるでしょう。
さらに、味噌の香り成分も加熱によって大きく損なわれることが分かっています。研究では、味噌の甘みとさわやかさを感じさせる香気成分が加熱により大幅に減少し、逆に不快なにおいをもつ成分が生成されることが報告されています*10。
加熱の工夫をすることで、味噌の栄養と風味の両方をより効果的に楽しむことができます。
シンバイオティクスを意識する
シンバイオティクスとは、善玉菌とそのエサを組み合わせてとることです。同時にとることによって、腸内で善玉菌の増殖が促進されます*11。
味噌には善玉菌である乳酸菌と、エサとなる食物繊維が入っていますから、味噌だけでもシンバイオティクスなのですが、さらにシンバイオティクスを意識した食べ合わせをしてみましょう。
ごぼう、玉ねぎ、バナナ、海藻類・きのこ類は、乳酸菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を含んでいます。味噌だれを使った温野菜サラダ、わかめときのこたっぷり味噌汁など、自分にあった組み合わせを楽しみましょう。
塩分のとり過ぎに注意する
厚生労働省が定める18歳以上の1日の食塩摂取目標量は、男性7.5g未満、女性6.5g未満とされていますが*12、日本人の平均摂取量は目標量より多い傾向にあります*13。
一般的に味噌汁1杯には約1.5g程度の食塩が含まれています*14。ほかのメニューからの塩分摂取量も考慮すると、味噌汁は1日1〜2杯程度を目安にすると良いでしょう。
また、塩分量を抑えるには、具だくさんにして汁の量を控えめにしたり、だしをしっかり効かせることで薄味でも美味しく食べられるようになります。
具材には、ホウレンソウやニンジン、サツマイモなど、カリウムを含む野菜を使うのもおすすめです。カリウムは体内からナトリウム、つまり塩分の排出を促す作用があります*14。味噌汁だけを控えるのではなく全体の食事バランスを意識しながら、味噌を上手に取り入れていきましょう。
無理なく続けられる方法を見つける
健康のために味噌を食事に取り入れるなら、何よりも「習慣化」することが大切です。
味噌を選ぶ際には、原材料が「米(または麦)、大豆、食塩」と記載された無添加の味噌を選ぶのがおすすめですが、続けるためにはライフスタイルに合った商品を選ぶこともポイントです。
たとえば、だし入り味噌なら、だしを取る手間がなく、お湯に溶かすだけで手軽に味噌汁がつくれます。また、パック入りの味噌では使いきれないという人には、粉末味噌や液状味噌、フリーズドライ味噌といった便利な商品もあります。
毎日無理なく取り入れるためには、こうした使いやすい形をうまく活用するのも1つの方法です。負担にならず、自分に合った方法で、味噌を日々の食事に無理なく取り入れていきましょう。
*9 一般社団法人 日本乳業協会「乳と乳製品のQ&A」
*10 菅原悦子ほか. 加熱による味噌汁の香気成分の変化. 日本家政学会誌, 2009, vol.60, no.5, p.453-459
*11 公益財団法人腸内細菌学会「用語集 シンバイオティクス」
*12 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020 年版)ナトリウムの食事摂取基準, p.306
*13 厚生労働省 「令和4年 国民健康・栄養調査結果の概要」p.14
*14 厚生労働省「ナトカリ手帳(第3版)」p.10-14
まとめ
今回は、味噌に含まれる主な栄養素と期待される効能、そして上手な取り入れ方について紹介しました。味噌にはたんぱく質、食物繊維、乳酸菌が含まれているので、体づくりや腸内環境の改善、免疫バランスのサポートに役立ちます。
味噌の塩分の高さを気にする人もいますが、だしの味をきかせて薄味でも美味しく食べられるようにしたり、具だくさんにして汁気を減らすと、塩分を控えめにできます。具は、食物繊維やオリゴ糖、カリウムを含む野菜やキノコがおすすめです。
ぜひ今回の内容を参考に、味噌を上手に活用しながら、健康的な食生活を楽しんでいきましょう。
(参考文献閲覧日:2025年4月19日)
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