糖化は近年注目される老化現象の1つで、過剰に摂取した糖質が体内でたんぱく質と結びつき、老化物質であるAGEs(糖化最終生成物)を生成します。酸化は聞いたことがあるけれど、糖化については分からないという人が多いのではないでしょうか。
AGEsはさまざまな病気のリスクを高め、その蓄積量は加齢とともに増えることが知られています。また、AGEsは一度蓄積されると排泄するのが難しいため、日頃から糖化を防ぐことが重要です。
本記事では糖化が起こるメカニズムと体への影響、糖化から身を守る対策法を解説します。

この記事の執筆者
薬剤師/医療ライター
高山 ゆり子
薬学部を卒業後、薬剤師として調剤薬局に勤務。現在は薬局勤務のかたわら、医療ライターとしても活動。医療・健康分野で執筆を通して正確な知識と情報を届けることを心がけている。YMAA認証マーク取得。
老化を促進する「糖化」とは?
糖化は過剰に摂取した糖質が体内でたんぱく質と結びついて糖化たんぱくになり、老化を促進させるAGEs(糖化最終生成物)をつくり出す反応です*1。この反応は発表した科学者の名前から「メイラード反応」とも呼ばれます*2。
体内で糖化が進むと過剰になったAGEsはさまざまな臓器に蓄積し、動脈硬化など老化が原因で起こる病気のリスクを高めます。糖化には糖質以外に、アルコールや脂質も関与していることが分かっています*2。
糖化と酸化の違い
糖化は体内のたんぱく質と糖質が反応して生成された老化物質AGEs(糖化最終生成物)が、皮膚や血管などを劣化させる現象を指します。対して、酸化は酸化反応により生じた活性酸素が細胞を傷付ける現象を指します*2*3。どちらも老化現象に深く関わる反応です。
活性酸素は体内で酸素が消費される時に生成され、病原菌の殺菌を行うなど重要な働きを担っています。しかし、過剰に発生するとその強力な酸化作用により細胞を傷付け、さまざまな疾患の原因になってしまうのです*3。
糖化と酸化はそれぞれの特徴から、糖化を「体の焦げ」、酸化を「体の錆び」と表現することがあります。
*1 牧田善二. 「老けたくないなら「AGE」を減らしなさい カラダが糖化しない賢い生活術」ソフトバンク新書, 2012, p.12-13
*2 八木雅之ほか. 糖化ストレスと抗糖化作用の評価. オレオサイエンス. 2018. 第18巻第2号, p.18-19
*3 樋口雅司ほか. 生体における酸化ストレス制御に係わる抗酸化因子─未利用資源小麦ふすまの有用性に関する研究─. 明治大学農学部研究報告. 2012. 第62巻第1号, p.12
糖化によって起こる症状
糖化によって生成されるAGEs(糖化最終生成物)は過剰になると体内のさまざまな臓器に蓄積され、老化現象を引き起こします。ここでは糖化に関連して起こる症状について解説します。
肌への影響
糖化により、皮膚のコラーゲンやエラスチンが変性し、皮膚のハリが低下します。また、皮膚の真皮層でAGEs(糖化最終生成物)が蓄積すると、皮膚の黄ばみの原因になるという報告もあります*4。
また、培養細胞にAGEsを添加するとメラニンが著しく増えるとの研究結果も報告されており、糖化がシミの形成に関与していることを示唆しています*4。
血管への影響
AGEs(糖化最終生成物)の蓄積が動脈硬化と深く関与していることが報告されています。
太い血管の動脈硬化は血管壁にプラークという粥状物質が付着して血管内が狭くなり、狭心症や一過性脳虚血発作が起こります*5。さらにプラークが壊れて広がり、血栓を生じると、心筋梗塞、脳梗塞に至ってしまうのです*5。
では血管と糖化はどのような関係があるのでしょうか。
AGEsは血管内皮細胞において活性酸素を増加させることで、冠動脈でのプラークの形成を誘導し、不安定にします。さらに一酸化窒素の産生を抑制することで血管の弛緩を弱めるため、不安定狭心症や急性心筋梗塞の原因になる可能性が動物実験で示唆されています*6。
アルツハイマー病を進行させる可能性
アルツハイマー病ではアミロイドβというたんぱく質が脳内に蓄積することが知られていますが、アミロイドβは糖化すると脳に沈着しやすくなり、アルツハイマー病を進行させることが示唆されています*7。
糖尿病にかかっている人は認知症の発症リスクが高いことから、アルツハイマー病の発症や進行に糖化が関与している可能性が示唆されています*7。
*4 米井嘉一ほか. 皮膚老化概論:酸化ストレスと糖化ストレス. 粧技誌. 2019. 第53巻第2号, p.83-90
*5 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「動脈硬化」
*6 田口顕正ほか. AGEs-RAGE系と血管障害. 血管. 2016, Vol.39 No.3, p.109
*7 八木雅之ほか. 糖化ストレスとアンチエイジング:12.糖化ストレスと認知症. Glycative Stress Research. 2019, 6 (2), p.087-091
糖化しやすい人の特徴
血糖値が急激に上昇すると、体内でAGEs(糖化最終生成物)が増えて糖化が進みやすくなります。糖化しやすい人の特徴を紹介します。
糖質を過剰摂取している人
糖質のとり過ぎは食後の血糖値を急激に上げ、糖化を進めてしまう原因の1つです。
食後は誰でも一時的に血糖値は上昇しますが、急激に上がると、糖化を促進させてAGEs(糖化最終生成物)を蓄積させてしまうのです*8。そのため大食いの人や、炭水化物・甘いものを食べ過ぎる人は糖化が進みやすいと言えます。
運動不足の人
運動不足も、糖化を促進する原因になってしまいます。高齢者を対象にした研究では、継続的な歩行運動は筋肉量を保ち、糖化を減らすことが示されたという報告があります*9。筋肉は糖からエネルギーをつくり出す重要な器官なので、歩行運動で筋肉が良好な状態に保たれたことによると考察されています*9。
お酒を飲み過ぎる人
アルコールは体内で代謝されてアルデヒドを生じますが、このアルデヒドは体内のたんぱく質や脂質と糖化反応を起こしやすくするという報告があります*10。飲酒の量や頻度が増えると血液中のアルデヒド濃度は高まり、糖化が起こりやすくなるため、注意が必要です。
*8 米井嘉一. 糖化ストレスと炎症・疼痛. Comprehensive Medicine. 2020, Vol.19 No.1, p.11-20
*9 川本拓也ほか. 高齢者における歩行運動継続プログラムが糖化ストレス指標に及ぼす影響. Glycative Stress Research. 2017, 4 (3) , p.144-157
*10 米井嘉一ほか. 糖化ストレス:分子レベルの影響とその防御機構. Glycative Stress Research 2023, 10 (4): 145-158. p.2
糖化から身をまもる対策(抗糖化)
糖化を防ぐには食後高血糖(血糖スパイク)を抑制し、糖化反応を抑えることが重要です。糖化反応を抑える方法を紹介します。
血糖値の上がりにくい食品・食べ方を選ぶ
吸収スピードが穏やかな糖質を使用した食品を選ぶと、食後血糖値の急激な上昇を防いで糖化反応を抑えることが期待できます。
炭水化物を含む食品にはそれぞれ糖質の吸収度合いに違いがあり、それを数値化したものがGI値(グリセミック・インデックス)です。GI値が低ければ糖質はゆっくりと吸収され、血糖値の上がり方も緩やかになります。
GI値は国際的な基準と日本での白米をベースにした基準の2種類があります。グルコースを基準の100として以下のように分類しています*11*12。
国際的な基準
- 高GI食品:70以上
- 中程度GI食品:69〜56
- 低GI食品:55以下
日本の基準(白米を基準とした数値)
- 高GI食品:83以上
- 中程度GI食品:82~65
- 低GI食品:64以下
GI値食品例
高GI食品:白パン、白米、スナック菓子など
中GI食品:オートミール、ライ麦パン、さつまいもなど
低GI食品:玄米、全粒粉パン、パスタ、そば、りんご、葉物野菜、きのこ類、バター、肉類、魚介類など
また糖質と一緒に野菜やクエン酸などを多く含む果物を一緒に食べる、糖質よりも先に野菜や肉、魚などを食べると糖質の吸収が緩やかになり、食後の急激な血糖値の上昇を防ぐことができます*2。
朝食をとる
朝食を食べないと昼食後の血糖が上がりやすくなり、さらに昼食後の高血糖が持続したという研究結果があります*13。朝食をきちんと食べることが、糖化の抑制にもつながる可能性があります。さらに朝食の内容は、白米に比べて、牛丼の方が、昼食後の血糖値を抑制するという結果が報告されており、牛丼に含まれるたんぱく質、脂質、食物繊維の作用が示唆されています*13。
AGEs(糖化最終生成物)の分解に役立つ食品をとる
AGEs(糖化最終生成物)は蓄積されると分解や排泄は難しいとされていますが、一部の植物成分が分解や排泄を促す可能性があると報告されています。AGEsの分解に関与することが知られているPTB(N-フェナンシルチアゾリウム臭化物)と言う化学物質がAGEsの分解に関与するとされています*2。ユズ果皮やザクロ果汁抽出物などの天然物も、PTBと同様の作用をもつことが報告されています*2。
*11 市川陽子. 食事のGlycemic Indexと生活習慣病一次予防. 日本調理科学会誌. 2011, Vol.44, No.4, P259-262
*12 北海道科学大学 ほくかだい辞典「GI値とは?食品のGI値や体に与える影響をわかりやすく解説」
*13 林詩央里ほか. 昼食後血糖に及ぼす朝食の影響. Glycative Stress Research. 2017, 4 (2), p.124-131
まとめ
糖化について紹介しました。糖化は過剰に摂取した糖質が体内のたんぱく質と結びつき、老化促進物質であるAGEs(糖化最終生成物)を生み出すことです。AGEsは一度蓄積すると排泄しづらく、肌の劣化や動脈硬化、アルツハイマー病などさまざまな病気のリスクが高まることが指摘されています。AGEsを蓄積させないためには、血糖値を急激に上昇させないことが大切です。日頃から糖質のとり過ぎに気を付ける他、食物繊維やたんぱく質から食べ始めて最後は炭水化物を食べるなど食べ方を工夫し、糖化から自分自身を守るようにしましょう。
(参考文献閲覧日:2025年2月20日)
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