医学用語ではない俗称ですが、腸内細菌を善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分けて考えることがあります。善玉菌や悪玉菌は知っているけれど、日和見菌については良く知らないという人も多いのではないでしょうか。日和見菌は善玉菌でも悪玉菌でもない腸内細菌の総称で、その働きは腸内細菌のバランスによって変わります。
腸内細菌のバランスは健康状態に影響するため、日和見菌が体にとって良い働きをするよう、腸内環境を整える必要があります。
本記事では善玉菌・悪玉菌・日和見菌の働きや相互の関係性、腸内細菌のバランスを整える方法について解説します。

この記事の執筆者
薬剤師/医療ライター
高山 ゆり子
薬学部を卒業後、薬剤師として調剤薬局に勤務。現在は薬局勤務のかたわら、医療ライターとしても活動。医療・健康分野で執筆を通して正確な知識と情報を届けることを心がけている。YMAA認証マーク取得。
日和見菌は腸内細菌の1つ!腸内細菌の種類と働き
善玉菌にも悪玉菌にも分類されない腸内細菌を日和見菌と呼びます*1。
善玉菌は体にとって有益な働きをする腸内細菌で、免疫力を高めたり、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促したり、ビタミンを生成します。また、乳酸や酢酸をつくり出し腸内を酸性に保つことで、悪玉菌の増殖を抑えます。代表的な善玉菌はビフィズス菌や乳酸菌などです*1。
一方、悪玉菌は体にとって有害な働きをする腸内細菌です。アンモニアや硫化水素、インドールなどの有害物質をつくり出し、免疫力を低下させます。代表的な悪玉菌はウェルシュ菌やブドウ球菌などです*1。
善玉菌と悪玉菌のバランスはさまざまな要因で変化し続けますが、日和見菌は善玉菌と悪玉菌のうち優勢な方と同じような働きをします。つまり善玉菌が多ければ体にとって有益に働き、悪玉菌が多ければ有害となるのです。代表的な日和見菌はバクテロイデス、大腸菌(無毒株)、連鎖球菌などです*1。
腸には約1,000種類の腸内細菌が存在し、これらは菌種ごとに集団をつくって腸壁に存在しています。この集団がお花畑(フローラ)や草むら(叢)のように見えることから、腸内細菌の集団を「腸内フローラ」または「腸内細菌叢」と呼びます*2。
分類 | 働き・特徴 | 代表的な菌 |
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善玉菌(有用菌) |
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悪玉菌(有害菌) |
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日和見菌 |
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腸内フローラ(腸内細菌叢)とは?乱れる原因と対策を解説
腸内細菌の集まりである「腸内フローラ」のバランスが取れていると、免疫機能が高まるなど私たちの健康を支えてくれます。一方、乱れた腸内フローラでは、体や脳の疾患のリスクを高めてしまう可能性もあります。この記事を読んで、腸内フローラを整えて健康的な毎日を目指しましょう。
*1 内藤裕二ほか.「腸すごい! 医学部教授が教える最高の強化法大全 健康な心も体もすべては腸しだい! 人生を変える腸内細菌の育て方完全ガイド」文響社, 2022, p.36-37
*2 安藤朗. 腸内細菌の種類と定着: その隠された臓器としての機能, 日本内科学会雑誌. 2015, 104巻1号, p.29-34
理想的な腸内細菌(腸内フローラ)のバランス
善玉菌が多くなれば、日和見菌は善玉菌と同じように、体にとって有益な働きを行います*3。しかし悪玉菌の割合が善玉菌より増えると日和見菌は悪玉菌の味方になり、健康を損ねる原因となってしまうのです。
日和見菌が善玉菌の味方になるように腸内細菌のバランスを保つことは、健康な体づくりには欠かせないと言えます。
*3 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「腸内細菌叢(腸内フローラ)とは」
腸内細菌(腸内フローラ)のバランスが崩れるとどうなる?
腸内細菌のバランスが崩れると悪玉菌が増え、体にさまざまな影響を及ぼします。腸内細菌との関連が示唆されている事例を紹介します。
腸の健康との関連
善玉菌によってつくられる短鎖脂肪酸は腸の蠕動運動を促すことが動物実験で示唆されています*4。また、感染性腸炎後に過敏性腸症候群を発症した人の腸内細菌組成が、健常者と異なっているとの報告も出ています*5。
肌が荒れる
悪玉菌がつくり出すフェノールやパラクレゾールは肌荒れの原因になる可能性があります。
フェノール産生菌、フェノール非産生菌それぞれを定着させたマウスで比較した実験では、フェノール産生菌を定着させたマウスは角質細胞面積が有意に小さく、表皮細胞の分化に変調をきたしていたとの結果が出ています*6。また、健常女性にプレバイオティクスを摂取させたところ、血中パラクレゾール量減少および皮膚性状改善が見られたとの報告も出ています*6。
ストレスとの関連
ストレスにより、腸内細菌叢が変化することが示唆されています*5*7。また、逆に腸内細菌がストレス反応に影響を及ぼすことを、動物実験で確認したという報告も出ています*7。
*4 坂田隆ほか. 短鎖脂肪酸の生理活性. 日本油化学会誌. 1997, 第46巻第10号, p.1205-1212
*5 福土審. 過敏性腸症候群と腸内細菌叢 gut microbiota. 腸内細菌学雑誌. 2018, 32巻1号, p.2
*6 飯塚量子. 腸内細菌が皮膚生理に及ぼす影響. 腸内細菌学雑誌. 2011, 25巻2号, p.105
*7 須藤信行. ストレスと腸内フローラ. 腸内細菌学雑誌. 2005, 19巻1号, p.25-29
腸内細菌(腸内フローラ)のバランスが崩れる原因
腸内細菌のバランスは食生活や加齢、ストレスなどさまざまな要因で変化しています*8。ここでは腸内細菌のバランスが崩れる3つの原因について解説します。
食生活の乱れ
栄養バランスが偏った食事は腸内細菌のバランスを崩す原因の1つです。特に動物性たんぱく質や脂質の多い食事には注意が必要です。赤身肉や乳製品などの動物性たんぱく質には無機硫黄や硫酸化アミノ酸が含まれます。悪玉菌は無機硫黄や硫酸化アミノ酸をエサとして、硫化水素を発生し、ビフィズス菌の量を減少させることが報告されています*9。たんぱく質は動物性に偏らず、植物性のものも取り入れることがおすすめです。
一方、動物実験においては、魚油は善玉菌を増やすことが報告されています*10 。
加齢
腸内細菌のバランスは加齢によっても崩れることが知られています。
胎児の間は無菌ですが、生まれてすぐに細菌の洗礼を受け、何回かの変化を経て、離乳期には腸内フローラが安定します。しかし、中高年以降では、ビフィズス菌の減少とウェルシュ菌の増加が顕著になります。ウェルシュ菌がつくり出す有害物質は発がん物質を含み、増え過ぎると肝臓で処理しきれなくなり、体に影響を与えてしまうのです*2。
ストレス
ストレスは腸内環境を悪化させる可能性があります 。近年の研究ではマウスにおいて、心理的ストレスにより、腸内細菌のバランスを調整するαディフェンシンの分泌量が減少することが分かりました*11。
*8 桑田有. ヒトの腸内細菌叢. 心身健康科学. 2012, 8巻1号, p.9, 11-12
*9 山口元輝ほか. 腸内細菌叢に影響を与える食事因子. 日本農芸化学会. 2022, 化学と生物 60巻4号,p.157
*10 雑賀あずさほか. 食用油を介した「食事-腸内細菌-宿主」ネットワークによる免疫制御. 腸内細菌学雑誌. 2018, 32巻4号, p.167-174
*11 Suzuki, K. et al., Decrease of α-defensin impairs intestinal metabolite homeostasis via dysbiosis in mouse chronic social defeat stress model. Scientific Reports. 11, 9915 (2021)
腸内細菌(腸内フローラ)のバランスを整える方法
腸内細菌のバランスを整えるには善玉菌を増やし、日和見菌を善玉菌の味方に付ける必要があります。腸内細菌のバランスを整える方法を3つ紹介します。
善玉菌を増やす食品をとる
善玉菌を増やす食品にはプロバイオティクスを含む食品とプレバイオティクスを含む食品があります。
プロバイオティクスはビフィズス菌や乳酸菌に代表される善玉菌そのものであり、腸に生きたまま届きます*12。
プレバイオティクスは、善玉菌のエサとなる成分です*13。代表的なものは食物繊維やオリゴ糖です*14。
プロバイオティクスを含む食品例 |
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プレバイオティクスを含む食品例 |
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*15
食事から十分にとれない時は、サプリメントで補うのもおすすめです。
生活習慣を改善する
適度な運動や十分な睡眠は腸内細菌のバランスを整えるのに役立つことが期待されます。アスリートは、そうではない人に比べて、腸内フローラの多様化が見られたとの結果が報告されています*16。また、睡眠時間が短くなると、糞便中のヒトディフェンシン5や短鎖脂肪酸の量が低下したとの報告も出ています*17。適正な睡眠時間は個人差がありますが、厚生労働省は、成人は6時間以上の睡眠を目安とすることを推奨しています*18 。
ストレス管理をする
ストレスは腸内細菌のバランスに影響する可能性があります*19。そのため、日頃からストレス管理を行うことは大切です。反対に、腸内細菌がストレス反応を抑えたという動物実験の結果の報告もあります*19 。自分に合った方法でストレスに対処して、ケアしましょう。

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プレバイオティクスとは?健康効果や食品例、効果的なとり方を解説
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*12 公益財団法人腸内細菌学会「用語集 プロバイオティクス」
*13 公益財団法人腸内細菌学会「用語集 プレバイオティクス」
*14 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」
*15 中嶋洋子, 蒲原聖可 監修「食べ物栄養事典」主婦の友社, 2009,「オリゴ糖を多く含む食品」p.28
*16 森田英利. 運動と腸内細菌叢. 腸内細菌学雑誌. 2020, 34巻1号, p.13-18
*17 Shimizu, Yu. et al., Shorter sleep time relates to lower human defensin 5 secretion and compositional disturbance of the intestinal microbiota accompanied by decreased short-chain fatty acid production. Gut Microbes. 2023, Vol. 15, Issue 1
*18 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」
*19 藤田紘一郎. こころとからだの免疫学 ー腸内細菌の働きを中心にー. 心身健康科学. 2012, 8巻2号 p.69-73
まとめ
日和見菌の働きと特徴、腸内細菌(腸内フローラ)のバランスについて紹介しました。日和見菌は腸内環境によって働きが変わるため、日和見菌を善玉菌の味方に付けることは健康増進の大きなポイントと言えるでしょう。腸内細菌(腸内フローラ)のバランスを整えるには睡眠・運動・ストレスなどの生活習慣を見直すほか、善玉菌を増やすために役立つ食品を取り入れることが必要です。ご自身にあった腸内環境を整える方法を見つけて、ぜひ実践してみてください。
(参考文献閲覧日:2025年1月21日)
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