「宿便をどっさり出せば痩せるかも!」
ダイエットを成功させたい人なら、一度は思ったことがあるのではないでしょうか。また、毎日快便でも「実は宿便がこびりついているのでは?」と気になっている人もいるでしょう。
宿便は、医学的には「腸の出口に詰まってしまった便」を指します。その原因は便秘が多いとされ、腸に長くとどまって水分が減った便が硬くなって出口を塞いでしまうのです。
この記事では宿便を出せば痩せるのか?宿便を蓄積させないための、便秘の予防について解説していきます。

この記事の執筆者
薬剤師/腸育コンシェルジュ
松本 萌
薬剤師ライターとして、セルフケアに関する記事を執筆している。前職のドラッグストアで健康相談を受ける中で、正しい知識を知らない人が多くいることを痛感。セルフケアの正しい知識を誰にでも分かりやすい言葉で紹介することを心がけている。薬剤師以外にも化粧品成分検定1級、腸育コンシェルジュなどさまざまな健康・美容の資格を取得。
宿便とは?
宿便というと「腸に長年こびりついた便」のイメージがあるかと思いますが、実際の医学的な定義は少し異なります。
日本大腸肛門病学会の用語集で宿便を調べると「fecal impaction(直訳すれば、糞便埋伏)」となっています*1。また、「fecal impaction」を日本外科学会の用語集で調べると「糞便充塞」と訳されています*2。症状としては、思うように排便できなかったり肛門に痛みが出たりするほか、まれに閉塞性大腸炎のような手術が必要な病気を引き起こす可能性もあります。また、便秘が続いている人に起こりやすいというデータも報告されています*3*4。
統一した医学用語はないものの*3、宿便は「思うように出てきてくれない便」と考えて差し支えはないでしょう。また、便秘との関連を示唆する結果*3より、普段から便秘の予防に取り組むことが、宿便の対策にもなる可能性があると言えるでしょう。
宿便は見た目で分かる?
便が腸に長くとどまると、便の水分がどんどん失われていき、便が硬くなります。そのため、便秘の後にはひび割れた便やウサギの糞のような小さな塊状の便が出ることがあります。また、見た目以外でも、トイレでスムーズに排便できずにいきむことが増えて便秘だと気付く場合もあるでしょう*5。
逆に、健康な状態の便は、しっかり形のある少し柔らかい便だと言われています。
*1 一般社団法人日本大腸肛門病学会「用語集 宿便」
*2 一般社団法人日本外科学会「外科用語集」
*3 安達亙ほか. 外来を受診した fecal impaction 症例の臨床像. 日本大腸肛門病学会雑誌. 2022, 75巻7号, p. 327-332
*4 香川哲也ほか. 宿便による広範囲壊死型閉塞性大腸炎の1救命例. 日本消化器外科学会雑誌. 2015, 48巻4号, p. 365-373
*5 尾﨑隼人ほか. Ⅲ.慢性便秘症の治療 各論(便秘症と腸内フローラ). 日本大腸肛門病学会雑誌. 2019, 72巻10号, p. 609-614
宿便を出すと痩せるって本当?
よく「宿便を出すとダイエットになる」と聞きますが、医学的な根拠はありません。
たしかに、腸に溜まっていた便を出すことで、体重が一時的に落ちる場合もあるでしょう。ですが、脂肪が減ったわけではありません。そして、また食事をすれば、その分体重は増加します。
とはいえ、便秘に悩まずにすめば、快適に生活ができます。健康的な生活を目指したい人にとって便秘改善は必須と言えるでしょう。ただし、浣腸や下剤などで無理に便を出そうとすると腸や肛門などに負担を与える可能性があります。この後紹介する方法で、日常的に便秘を防いでいくことをおすすめします。
家庭でできる便秘の予防と宿便の出し方
ここからは、家庭でできる便秘の予防と宿便の出し方を紹介します。程良く量があり、水分を含んだ柔らかい便だと、スムーズに排便しやすくなります。また、腸の蠕動(ぜんどう)運動を活発にして、毎日すっきり排便していきましょう。
水分摂取を心がける
便の状態が固いと感じる場合には、水分摂取量が足りていないかもしれません。特に、普段飲む水分量が1日500mL前後の人は、積極的に飲む量を増やしましょう。
複数の研究を統合、分析した結果、水分摂取量が多い人は排便の回数が増え、便も柔らかくなる傾向にあることが分かっています。また、1日の水分摂取量が500mL以下の場合は排便量が減り、便秘につながることも示唆されています。500mLという数字は、必要最低尿量と同じです*6。
大人の場合、1日2.5Lの水分が尿・汗・便などから出ていくのに対し、食事からとれる水分や体内でつくられる水分は1.3L程です。よって、飲み水としては1日1.2Lの摂取を目標にすると良いとされています*7。
適度な運動やおなかのマッサージをする
日頃から運動不足を実感している人は、適度に運動を取り入れましょう。運動が難しいという人は、優しくおなかのマッサージをするのもおすすめです。
軽い有酸素運動やひねりのあるポーズは腸の運動を促すと言われています。また、週に1度ではなく毎日運動した方が便秘になりにくいという報告もあります。ウォーキングやストレッチなどで良いので、軽めの運動を頻繁に行いましょう*8。
また、腸の形に合わせておなかをさする「のの字」マッサージや、左右の脇腹を揉むマッサージなど、おなかを優しく刺激するのもおすすめです*8。
規則正しい生活をする
規則正しい生活を心がけ、特に朝ご飯をしっかり食べましょう。腸が動くきっかけの1つに、胃・結腸反射があります。これは食べ物が胃に入って胃が動くと、連動して結腸も動き出す仕組みです*9。
腸は睡眠中に休息して起床するとともに動きが活発になります。このタイミングできちんと朝ご飯を食べましょう*10。
また、日本人の男女大学生に対して調査を行った研究では、排便のためにトイレへ行く時間が毎日不規則な人は、規則的な人に比べて、便秘または便秘気味と答えた割合が高かったことが報告されています*11。快便を目指したいなら、毎日トイレへ行く時間も決めておくのがよいでしょう。特に、朝ご飯の後でトイレに行く時間をつくると、腸の動くタイミングと重なるのでおすすめです。
*6 吉良いずみ. 便秘ケアとしての水分摂取のエビデンスに関する統合的文献レビュー. 日本看護技術学会誌. 2013, 12巻2号, p. 33-42
*7 国土交通省「健康のため水を飲もう講座」
*8 高野正太. 慢性便秘症に対する食事療法,運動療法,理学療法. 日本大腸肛門病会誌. 2019, 72, p.621-627
*9 細田誠弥. 生活習慣と排便異常. 順天堂医学. 2004, 50巻4号, p.330-337
*10 柴田近ほか. 胃腸障害を理解するための消化管収縮機能, 日消誌. 2021, 118, p.141-147
*11 山田五月ほか. 大学生における慢性機能性便秘発現に及ぼす性および生活習慣との関連-横断的研究-, 栄養学雑誌. 2009, 67巻4号, p157~167
宿便をためずに便秘を防ぐために意識したい食事
宿便をためずに便秘を防ぐためには「腸内環境を整える食事」が重要です。ここでは、具体的な食品を例にして紹介していきます。
発酵食品
発酵食品は腸内環境を整える善玉菌を含んでいます。発酵食品には動物性と植物性があります*12。
動物性発酵食品 | ヨーグルト、チーズ、塩辛など |
---|---|
植物性発酵食品 | 納豆、漬物、みそ、キムチ、こうじ、甘酒など |
善玉菌の代表とも言える乳酸菌はヨーグルトやチーズ、漬物などに含まれていて、腸内で悪玉菌が増えるのを抑えて腸内環境を整えます*13。
食物繊維を含んだ食品
食物繊維は胃や小腸で消化・吸収されずに大腸まで到達し、腸内で善玉菌のエサとなります。腸内環境を整えるほか、便のかさを増して排便を促します。
食物繊維には水に溶けない不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維があります*14。
不溶性食物繊維 | 便のかさを増やして腸の蠕動(ぜんどう)運動を活発にして排便を促す。 |
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水溶性食物繊維 | 水分を含んでゲル状になり便を柔らかくする。善玉菌のエサにもなる。 |
野菜や果物には、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維両方を含むものもあります。
また、難消化性オリゴ糖も胃や小腸で消化・吸収されずに大腸まで届き、善玉菌のエサになって腸内環境を整えます*15。
適度な量の脂質や香辛料
脂質や香辛料は、腸を刺激して動きを活発にしてくれます*9。適度に取り入れましょう。
特に、エキストラバージンオリーブオイルは、少量を摂取することで便の状態も良くなり量も増えたとの報告があります*16。
ただし、脂質の過剰摂取はカロリー過多になるため、料理の仕上げに少し垂らすくらいがちょうど良いでしょう。また、香辛料もとり過ぎると胃腸に負担がかかり、痛みや下痢などを引き起こす可能性があります。
*12 河野一世ほか. 日本食からみる発酵食品の多様性と日本人の健康―肥満を中心に. 日本調理科学会誌. 2010, 43巻2号, p.131~135
*13 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「乳酸菌」
*14 高橋 陽子. 繊維質と食物繊維. 日本食品科学工学会誌. 2011, 58巻4号, p.186
*15 内藤裕二「すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢 基礎知識から疾患研究、治療まで」羊土社, 2021, p.102-106,316-318
*16 朝倉明美ほか. O-2-G26 エキストラバージン・オリーブオイル摂取による、重症心身障害児への排便効果 日重障誌. 2015, 40(2), p.248
宿便についてよくある質問
最後に、宿便についての質問をまとめました。宿便が気になる人は、ぜひ最後までお読みください。
-
宿便を出したらどのくらい体重が減りますか?
1日の便の平均は100〜200gとされています*17。かなり便が溜まっていたとしても、これよりも少し多い程度かと想定されます。
-
宿便をすぐに出す方法はありますか?
浣腸や下剤を使う方法がありますが、人によっては腹痛を生じることもあります。また、浣腸や下剤で腸内環境が整うわけではないので、食事や生活習慣の改善を通して、便秘の予防を意識するのがおすすめです。
*17 一般社団法人愛知県薬剤師会「6.便でわかる体の調子」
まとめ
宿便は「思うように出てきてくれない便」です。どんどん水分が失われて硬くなり、腸の出口を塞いでしまう可能性があります。かと言って、宿便を一気に出してもダイエットにはならず、体に負担がかかる場合もあります。毎日すっきり排便するために、日頃から食事や生活習慣に気をつけて、便秘を防いでいきましょう。
(参考文献閲覧日:2025年1月9日)
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