糖質制限とは、食事における糖質摂取量を調整し、抑える方法です。短期間で体重が減少する場合もあるため、ダイエット目的で取り組む人も多いでしょう。しかし、糖質制限を行う際には、健康に与える影響や注意点も考慮する必要があります。
本記事では、糖質制限の基本的な方法や注意点を解説します。あわせて、糖質を意識した食事選びの参考として、糖質が少ない食品の可食部100g当たりの糖質量をいくつか紹介します。

この記事の執筆者
管理栄養士
横川 仁美
管理栄養士の資格を取得後、保健指導や重症化予防を中心に2500人以上へのアドバイスを行ってきた。現在は、管理栄養士、食専門ライター、料理研究家として、執筆、商品監修、レシピ開発などを行っている。健康食育シニアマスターの資格を持つ。
そもそも糖質とは
糖質は、炭水化物から食物繊維を差し引いた成分で、ごはん・パン・麺類などに多く含まれています。私たちの体にとって重要なエネルギー源となり、日々の活動を支えるために欠かせない栄養素です*1*2。
*1 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書 炭水化物」 p.129
*2 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年・ 第2章(データ)」
糖質制限とは
糖質制限とは、その名の通り、食事で摂取する糖質の量を調整し、抑えることです。1920年代には糖尿病治療の手段として取り入れられていましたが、近年では健康管理やダイエットの方法としても注目を集めています*3*4。
*3 江頭富士子. 糖代謝異常における低炭水化物食. 日大医誌. 2019, 78 (4), p.243–246
*4 独立行政法人農畜産業振興機構「糖質制限よりもスローカロリーの実践」
糖質摂取量が体に与える影響とは
糖質を摂取すると血糖値が上昇し、それに応じてインスリンが分泌されます。インスリンは血液中の糖を細胞に取り込み、エネルギー源として利用できるようにする働きを持っています。しかし、余った糖はインスリンの作用によって中性脂肪に変換され、体内に蓄積されます*5。
特に、糖質を過剰に摂取すると、血糖値の急激な上昇を引き起こします。食後血糖値が高い状態が続くと、糖尿病の発症や動脈硬化を進行させる危険因子となることもあります。また、放置しておくと血管障害が進み脳卒中や心筋梗塞などを引き起こす恐れがあるとされています*6。
そのため、糖質の摂取量を適切に調整することが、健康を維持する上で重要です。
*5 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「インスリン」
*6 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「食後高血糖」
糖質の1日の適正摂取量
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、糖質の摂取量について明確な基準は示されていませんが、炭水化物の摂取量の目安が示されています。1日のエネルギー摂取量のうち、炭水化物からの摂取割合は50~65%が推奨されています。炭水化物は1gあたり4kcalのエネルギーを持っています*7。たとえば、30~49歳の男性では1日の必要エネルギーが2,750kcalなので、炭水化物の摂取量は約340~450gが目安と計算されます*7*8。
実際に、30~49歳の男性が炭水化物から得るエネルギーの目標量を計算すると、以下のようになります。
2,750 kcal × 50~65% = 1,375~1,788kcal
炭水化物1gあたり4kcalのエネルギーを基に換算すると、摂取量は約344~447g/日となります。
<日本人の推定エネルギー必要量(kcal/日)*8>
男性(kcal/日) | 女性(kcal/日) | |
---|---|---|
18~29(歳) | 2,600 | 1,950 |
30~49(歳) | 2,750 | 2,050 |
50~64(歳) | 2,650 | 1,950 |
65~74(歳) | 2,350 | 1,850 |
75以上(歳) | 2,250 | 1,750 |
※エネルギー必要量は、個々の体格や活動量によって異なります。ここでは身体活動レベルを「ふつう」で抜粋。
*7 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書 炭水化物」 p.129, p.143
*8 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書 エネルギー」 p.78
糖質制限中の糖質量
糖質制限には明確な基準がなく、1日当たりの糖質摂取量を50g以下に抑える方法や、130g程度に制限する方法があります*9*10。最近では、1食当たり20g~40g程度、デザートは10g以下とし、1日の合計量を70g~130g以内に抑える方法も提唱されています*10。
*9 中屋豊「図解入門 よくわかる栄養学の基本としくみ[第2版]」秀和システム, 2023, p.68
*10 一般社団法人 食・楽・健康協会「ロカボとは」
糖質制限中の食品の選び方
糖質制限は、しばしば「炭水化物抜きダイエット」と誤解されがちですが、実際には炭水化物を完全に排除するものではなく、摂取する糖質量を適切にコントロールすることが目的です*10。炭水化物は糖質だけでなく、腸内環境を整え、血糖値の急激な上昇を抑える食物繊維も含まれています*11。そのため、1日の糖質摂取量を130g程度に抑える方法では、適度に穀物やいも類も取り入れることが可能です。無理に何かを制限する食事は続きにくいため、上手にコントロールすることが推奨されています*10。
*11 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」
糖質を控えた食事の参考に!糖質が少ない食べ物&飲み物別糖質量一覧
糖質を意識した食事選びの参考として、各分類の中から糖質が比較的少ない食品をピックアップし、可食部100g当たりの糖質量を紹介します*2。これらは、あくまで目安としてご覧ください。
<穀類>
食材名 | 糖質量(g) | 食物繊維総量(g) |
---|---|---|
精白米(おかゆ) | (16.2) | (0.1) |
うどん(ゆで) | 21.4 | 1.3 |
おおむぎ(ごはん) | 24.6* | 4.2 |
そば(ゆで) | (27.0) | 2.9 |
<いも及びでん粉類>
食品名 | 糖質量(g) | 食物繊維総量(g) |
---|---|---|
板こんにゃく(精粉こんにゃく) | 0.1* | 2.2 |
しらたき | 0.1* | 2.9 |
さといも(水煮) | 11.1 | 2.4 |
ながいも(生) | 13.8* | 1.0 |
<野菜類>
食品名 | 糖質量(g) | 食物繊維総量(g) |
---|---|---|
ほうれん草(通年平均・生) | 0.3 | 2.8 |
レタス(土耕栽培・生) | 1.7 | 1.1 |
きゅうり(生) | 2.0 | 1.1 |
ブロッコリー(生) | 2.4 | 5.1 |
<果物類>
食材名 | 糖質量(g) | 食物繊維総量(g) |
---|---|---|
アボカド(生) | 4.8* | 5.6 |
レモン(全果・生) | 5.0* | 4.9 |
いちご(生) | (6.1) | 1.4 |
<肉及び魚・卵類>
食材名 | 糖質量(g) | 食物繊維総量(g) |
---|---|---|
鶏肉(各部位・生) | (おおよそ0~0.1) | (0) |
豚肉(各部位・生) | (おおよそ0~0.3) | (0) |
牛肉(各部位・生) | (おおよそ0~0.6) | (0) |
魚(各種・生) | (おおよそ0~0.7) | (0) |
鶏卵(全卵・生) | 0.3 | 0 |
<乳類>
食材名 | 糖質量(g) | 食物繊維総量(g) |
---|---|---|
プロセスチーズ | 0.1 | (0) |
ヨーグルト(無糖) | 3.9 | (0) |
<種実類>
食材名 | 糖質量(g) | 食物繊維総量(g) |
---|---|---|
くるみ(いり) | 2.8 | 7.5 |
マカダミアナッツ(いり・味付け) | (4.8) | 6.2 |
<嗜好飲料>
飲み物類:
食品名 | 糖質量(g) | 食物繊維総量(g) |
---|---|---|
麦茶(浸出液) | 0.3* | - |
コーヒー | 0.8* | ₋ |
アルコール類:
食品名 | 糖質量(g) | 食物繊維総量(g) |
---|---|---|
ウイスキー(蒸留酒類) | 0* | (0) |
焼酎(単式蒸留) | 0* | (0) |
赤ワイン | (0.2) | ₋ |
【出典】文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年・ 第2章(データ)」から抜粋。
※ここでの糖質は、日本食品標準成分表による「利用可能炭水化物(単糖当量)」の値を参照(*が付いている項目は、差し引き法による利用可能炭水化物の値)。
※()は、推定値を示す。
糖質摂取量を調整する際のポイント
糖質摂取量の調整には、次のような工夫が役立ちます。
血糖値が上がりにくい糖質を選ぶ
糖質には、消化吸収が速く血糖値を急激に上げるものと、血糖値の上昇が緩やかなものがあります。たとえば、清涼飲料水に含まれる異性化糖は吸収が早く、食後は短時間で血糖値が上がります*4。一方、フラクトオリゴ糖などの難消化性オリゴ糖は、胃や小腸で消化・吸収されず大腸まで届くため、食後の血糖値が上昇しにくくなります*12。
糖質の少ない間食を活用する
食事後にお腹が空くこともありますが、間食を上手に取り入れることが大切です。糖質の少ない間食を選ぶことで、糖質制限中でも空腹を我慢せずに過ごせます。さらに、たんぱく質を含む食材を選べば、間食でたんぱく質も補えるため、体を鍛えている人にもぴったりです。
おすすめの間食例)チーズ、茹でたまご、プレーンヨーグルト、ナッツ類など*2
市販の糖質コントロール商品を活用する
最近では、糖質オフのごはんやパン、レトルト食品、調味料などがスーパーやオンラインで手に入ります。これらを取り入れながら、バランスを考えた食事を心がけると良いでしょう。
食べる順番を変える
食物繊維を含む野菜から食べることで、血糖値の上昇が緩やかになります*11*4。また、食事中に食酢を含む飲料を摂取すると、食後の血糖値の上昇が抑えられたとの報告があります*13。
ゆっくり食事をする
食べる順番に加えて、食事のペースも意識しましょう。脳内にある満腹中枢が血糖の上昇を感知し、満腹感を感じるまでには約15分かかると言われています。早食いの人は満腹を感じる前に食べ過ぎてしまう傾向にあります。最低でも15分以上かけて食事をすることが大切です*14。
よく噛んで食べる
咀嚼回数も食後の血糖値に影響すると言われています。
通常通り食事をした人といつもより咀嚼回数を増やして食べた人を比べたところ、よく噛んで食べた人の食後1時間から食後3時間までの血糖値は減少し、また食後1時間のインスリン値が上昇したという研究もあります*15。
一口ごとによく噛み、食べ物の形がなくなるまで口の中で味わってから飲み込むようにしましょう。
*12 独立行政法人 農畜産業振興機構「プレバイオティクスとフラクトオリゴ糖~シュガーリプレイスメントから免疫改善まで」
*13 小泉幸道. 食酢の多彩な効用. 日本調理科学会誌. 2021, 54(3), p.153–156
*14 香川県建設国民健康保険組合「【保健師だより】早食い防止で肥満対策」
*15 福井次矢ほか. 充分に咀嚼することが食後耐糖能に及ぼす効果. 公益信託日本動脈硬化予防研究基金研究報告集. 2002. p.104-106
糖質制限をする際の注意点
糖質制限を実践する際は、次の点に注意が必要です。
極端な制限は避ける
糖質を極端に制限する方法は安全性が十分に証明されていません。糖質制限を行うと、結果として脂質やたんぱく質の摂取が増えることがあります。特に、脂質を過剰にとると脂質異常症の発症や悪化につながる恐れがあるため注意が必要です*16。また、たんぱく質を多く含む食品には脂質も含まれていることが多く、意図せず脂質の摂取量が増えてしまうこともあります*2。さらに、極端な糖質制限はエネルギー不足を引き起こし、集中力や体調に影響を与える可能性があります*17。
バランスの取れた食事を心がけるためにも、食事の記録を活用するとよいでしょう。最近では、食事内容を記録・管理できるアプリもあり、これらを活用することで食事の偏りを防ぎやすくなります。
専門家の指導を受ける
自己判断で極端な制限を行うと健康に悪影響を及ぼすことがあります。特に持病がある場合は、医師や管理栄養士に相談しながら行うことが推奨されます。
*16 糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)「糖尿病の食事のはなし(献立編)」
*17 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「炭水化物 / 糖質」
まとめ
糖質制限を取り入れる際は、エネルギー量や栄養バランスに基づき、無理なく続けられる形で行うことが大切です。糖質の少ない食べ物や飲み物を上手に活用しながら、バランスの良い食事を心がけましょう。
(参考文献閲覧日:2025年1月19日)
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