「短鎖脂肪酸ってなんだろう?」そう思ってこの記事を読んでいる人もいるかもしれません。名前は聞いたことがあるかもしれないけれど、詳しいことはよく分からない人が多いでしょう。
実は、短鎖脂肪酸は、腸内環境を整える・コレステロールの合成を抑えるなど、さまざまな働きが期待されています。善玉菌から産生されるため「腸活」を頑張りたい人にはぜひ知っておいてほしい成分です。
この記事では、短鎖脂肪酸の代表的な4つの働きと、短鎖脂肪酸を増やすための腸活の方法を解説します。

この記事の執筆者
薬剤師/腸育コンシェルジュ
松本 萌
薬剤師ライターとして、セルフケアに関する記事を執筆している。前職のドラッグストアで健康相談を受ける中で、正しい知識を知らない人が多くいることを痛感。セルフケアの正しい知識を誰にでも分かりやすい言葉で紹介することを心がけている。薬剤師以外にも化粧品成分検定1級、腸育コンシェルジュなどさまざまな健康・美容の資格を取得。

この記事の監修者
精神科医/スポーツドクター
湯地 啓
宮崎大学医学部卒業後、精神科専門医プログラムやハーバード大学 Blackburn Course in Obesity Medicine を修了。 大手美容皮膚科クリニック痩身統括医を歴任し、現在は都内美容外科クリニック美容外科医。美容外科、皮膚科、精神科領域だけでなく、筋トレ、ストレスマネージメント、ダイエット治療を専門とする。 日本精神神経学会認定精神科専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本糖尿病協会認定医、日本医師会認定産業医、NSCA-CPT(米国 NSCA 認定パーソナルトレーナー)などの資格を保有。
短鎖脂肪酸とは?

短鎖脂肪酸は脂質を構成する成分「脂肪酸」のうち、一般的に炭素が2〜6個結合したものです*1。大腸にある善玉菌が食物繊維や難消化性オリゴ糖を食べた後に発生する代謝物で*1、腸内環境の改善や脂肪蓄積の抑制、免疫機能の調整などの働きが、近年注目されています。
代表的な短鎖脂肪酸には「酢酸」「酪酸」「プロピオン酸」の3つがあります。
炭素の数 | 特徴 | |
---|---|---|
酢酸 | 2個 | 酢の酸味となる成分*2。もともと腸内にも多く存在している*3。 |
プロピオン酸 | 3個*3 | 発酵食品や牛乳などに含まれている。パンや洋菓子の保存料としても使用される*4。 |
酪酸 | 4個 | バターやチーズなどに含まれている*2。腸内では酪酸菌によってつくられる。酪酸菌は炎症性腸疾患や心血管疾患との関わりが注目されている*5。 |
*1 坂田隆ほか. 短鎖脂肪酸の生理活性. 日本油化学会誌. 1997, 第46巻第10号, p.143-254
*2 農林水産省「脂肪酸」
*3 祐森誠司ほか,飼料学(83)Ⅴ発酵工業副産物,畜産の研究,2012,第66巻,第1号,p.177-182
*4 細谷 圭助ほか. 食品中のプロピオン酸の含有量について. 日本栄養・食糧学会誌. 1986, 39 (3), p.231-233
*5 公益財団法人腸内細菌学会「用語集 酪酸産生菌」
短鎖脂肪酸の4つの働き
大腸で産生される短鎖脂肪酸には、さまざまな働きがあることが分かってきました。ここでは、短鎖脂肪酸の代表的な4つの働きを具体的にみていきましょう。
腸内環境を整える

短鎖脂肪酸は名前に「酸」とつくだけあって、腸内をpH5〜7の酸性に傾ける働きをもちます*6。酸性の腸内環境では悪玉菌の増殖を抑えることができ、腸の動きも活発になることで、腸が健康な状態となっていくのです*7。
腸内環境が整うと、便通が改善したり感染症の予防につながったりするとされてます。糖尿病・大腸がん・動脈硬化症・炎症性腸疾患などの患者と健康な人との腸内環境には大きな違いがあることも知られています*7。
コレステロールの合成や脂肪の蓄積抑制が示唆される

大腸でつくられた短鎖脂肪酸は肝臓に運ばれコレステロールの合成を抑制し、血中コレステロールを低下させることが示唆されています*8。食物繊維をとることでも血中コレステロールが低下しますが、これには食物繊維によって腸内で短鎖脂肪酸が産生したことも関係しているとも考えられているのです*7。
また、短鎖脂肪酸はコレステロールの合成を抑制するだけでなく、交感神経や脂肪組織に働きかけてエネルギー代謝を促したり脂肪の蓄積を抑制する可能性が期待されています*9。
ミネラルの吸収を促進する

短鎖脂肪酸は、カルシウム・マグネシウム・鉄などのミネラルの吸収を促進することが示唆されています*6。この働きを利用した特定保健用食品(トクホ)も発売されています。
特に、酢酸とプロピオン酸は大腸でのカルシウム吸収を促進する働きがあると報告されています*10。食品に含まれるミネラルをしっかりと吸収したい人は、短鎖脂肪酸にも注目してみると良いでしょう。
免疫機能を調整する可能性

短鎖脂肪酸は免疫機能を調整して、ウイルスや細菌の侵入を防いだりアレルギー反応を抑えたりする働きが期待されています。中でも酢酸はウイルスや細菌をブロックする免疫グロブリンA(IgA)を増やし、腸のバリア機能を高めると考えられています*11。
また、短鎖脂肪酸は異常な免疫を抑える制御性T細胞の働きを促したり、アレルギーを起こすTh2細胞の働きを抑えたりすると考えられています*12。
*6 安藤朗. 腸内細菌の種類と定着:その隠された臓器としての機能. 日内会誌. 2015,104巻1号, p.29-34
*7 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「腸内細菌と健康」
*8 原博. プレバイオティクスから大腸で産生される短鎖脂肪酸の生理効果. 腸内細菌学雑誌. 2002, 16巻1 号, p.35-42
*9 木村 郁夫ほか. 食事由来腸内細菌代謝産物、短鎖脂肪酸と宿主代謝制御. 脂質栄養学. 2015, 第24巻,第1号, p.33-40
*10 Trinidad TP et al., Effect of acetate and propionate on calcium absorption from the rectum and distal colon of humans, The American Journal of Clinical Nutrition. 1996, Vol. 63, Issue 4, p.574-578.
*11 竹内 直志ほか. 腸内細菌と免疫グロブリン A. 腸内細菌学雑誌. 2022, 36巻4号, p.189-198
*12 白鳥 弘明ほか. 腸内共生系における免疫寛容機構. Drug Delivery System. 2022, 37巻2号,p.159-167
短鎖脂肪酸を増やす方法
さまざまな働きのある短鎖脂肪酸。一部の食品にも含まれていますが、口から摂取してもほとんどは胃などで消化されてしまいます。短鎖脂肪酸を増やすためには、腸内の善玉菌と善玉菌のエサを増やす、いわゆる「腸活」が大切となるでしょう。
方法1:善玉菌をとる

短鎖脂肪酸は善玉菌が食物繊維や難消化性オリゴ糖を食べることで産生されるため、まずは善玉菌を増やすことから始めましょう。
特に「プロバイオティクス」を摂取するのがおすすめです*6。プロバイオティクスとは「腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生きた微生物」で、乳酸菌やビフィズス菌などが当てはまります*13。
プロバイオティクスを含む食品としてはヨーグルト・納豆・漬物が有名です。善玉菌は腸内でずっと生きているわけではありません。これらの食品を継続的に摂取することが大切です。
方法2:食物繊維や難消化性オリゴ糖をとる

短鎖脂肪酸は善玉菌があるだけでは増えません。食物繊維や難消化性オリゴ糖などの善玉菌のエサとなる「プレバイオティクス」が必要です。難消化性オリゴ糖は胃や小腸で消化・吸収されずに大腸まで届き、善玉菌のエサとなります*14。
食物繊維や難消化性オリゴ糖は野菜類・果物類・豆類によく含まれています。普段からバランスの良い食事を心がけましょう。
また、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせた「シンバイオティクス」という考え方も出てきています。シンバイオティクスを取り入れることで、よりスムーズに短鎖脂肪酸を増やせるでしょう*15。
方法3:生活習慣を整える

短鎖脂肪酸を増やすためには、腸内で善玉菌の比率を増やすことが重要です。そのためには、悪玉菌が増えにくい生活を心がけ、理想的な腸内環境をつくる必要があります。
悪玉菌は、たんぱく質・脂質に偏った食事や不規則な生活、ストレス、便秘などが原因で増えていくと言われています*7。
規則正しい生活習慣を送り、適度な運動でストレスを発散させ、腸の運動を促すと良いでしょう。朝食をとると胃や腸が刺激され、排便しやすくなります。便秘にならないためにも、朝食をしっかり食べた後は我慢せずにトイレに行く習慣もつけましょう*16。

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*13 公益財団法人腸内細菌学会「用語集 プロバイオティクス」
*14 中村宜督「食品でひく 機能性成分の事典」女子栄養大学出版部, 2022, p.36-37
*15 清水健太郎ほか. プロバイオティクス・プレバイオティクス. 日本静脈経腸栄養学会雑誌. 2016, 31(3), p.797-802
*16 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「便秘と食習慣」
短鎖脂肪酸についてのよくある質問
短鎖脂肪酸について「どんなものなの?」「不足すると良くないの?」と疑問が出てきた人もいるのではないでしょうか。ここでは、そんな質問にお答えします。
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短鎖脂肪酸は脂肪や油なの?
短鎖脂肪酸と聞くと「脂肪なのかな?食用の油にも入っているのかな?」と考える人も多いかと思います。短鎖脂肪酸は脂肪の構成成分「脂肪酸」の仲間ではあるのですが、食用の油には含まれない成分です。
食用の油(植物油)には、炭素が8〜10個の「中鎖脂肪酸」や炭素が12個以上の「長鎖脂肪酸」が含まれています*17。
・中鎖脂肪酸:飽和脂肪酸としてヤシ油やパーム油に含まれる
・長鎖脂肪酸:パルミチン酸などの飽和脂肪酸や、オレイン酸・リノール酸・αリノレン酸などの不飽和脂肪酸がある一方、短鎖脂肪酸には酢酸(酢の成分)や酪酸(チーズの成分)などが該当します。
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短鎖脂肪酸が不足すると体に悪いの?
短鎖脂肪酸が腸内に少ないからと言って、すぐに体調に影響するということはないでしょう。ですが、2型糖尿病になった人の腸内では短鎖脂肪酸が減少しているという研究結果が報告されています。そのため、近年では肥満や糖尿病の予防・改善などに腸内環境や短鎖脂肪酸が注目されてきています*18。
また、本記事で紹介したように、短鎖脂肪酸には「腸内環境を整える」「脂肪の蓄積を抑制する」「ミネラルの吸収を促進する」「免疫機能を調整する」といった働きがあるのが特徴です。なんとなく調子が良くないという時やダイエットが上手くいかないとき、腸活・免疫アップをしたいときには、短鎖脂肪酸を増やす方法を取り入れてみてはいかがでしょうか。
*17 一般社団法人日本植物油協会「植物油に含まれる脂肪酸」
*18 水島莉那ほか. 腸内細菌叢と生活習慣病 1.肥満・糖尿病の病態と腸内細菌叢 3)短鎖脂肪酸を介した宿主のエネルギー・糖代謝調節. 日本糖尿病学会誌, 2020, 63巻,6号, p.373
短鎖脂肪酸を増やすおすすめのレシピ
短鎖脂肪酸を増やすのにおすすめの、プロバイオティクスを含む発酵食品と、食物繊維や難消化性オリゴ糖などのプレバイオティクスの組合せのレシピを紹介します。
(*フラクトオリゴ糖製品を使用する際は、商品によってフラクトオリゴ糖含有量が異なるため、フラクトオリゴ糖量を合わせてください。1日のフラクトオリゴ糖摂取量の目安は3gです。)
甘酒ティラミス

<材料(4人分 100mL×瓶4つ分)>
※このレシピではお好みではちみつを使用する箇所があります。使用した場合は1歳未満の乳児には与えないでください。
▼A_チーズの層 | |
フラクトオリゴ糖として* | 6g |
甘酒(米麹) | 大さじ2 |
ホイップクリーム | 100g |
マスカルポーネチーズ | 100g |
▼B_コーヒーの層 | |
食パン(6枚切り) | 1枚 |
濃い目に出したコーヒー | 100mL |
はちみつ | 適宜 |
ココアパウダー | 適量 |
いちごジャム | 適宜 |
<つくり方>
ボウルにAの材料を入れてよく混ぜる。
別のボウルにBの食パンを千切りながら入れ、濃い目に出したコーヒーに浸す。お好みではちみつを加え、甘さをつける。
瓶に①、②を交互に重ねる。ココアパウダーをふるい、お好みでいちごジャムをのせる。
キムチのもち麦雑炊

<材料(1人分)>
もち麦ご飯 | 茶碗1杯分 |
シーフードミックス | 50g |
キムチ | 70g |
水 | 200ml |
白だし | 大さじ1 |
フラクトオリゴ糖として* | 3g |
塩 | 少々 |
小ねぎ | 適宜 |
<つくり方>
鍋にもち麦ご飯、シーフードミックス、水、白だしを入れて中火で7分程煮る。
水の量が半分程になったら火を止めて少し冷まし、キムチ、フラクトオリゴ糖を加え、塩で味を調える。
器に盛り、お好みで小ねぎをのせる。
まとめ
短鎖脂肪酸には腸内環境を整えてミネラルを吸収しやすくする働きがあります。また、免疫を整えたり、脂肪の蓄積を防いでくれる働きも示唆されています。短鎖脂肪酸を増やすためには、善玉菌と食物繊維や難消化性オリゴ糖を積極的に取り入れることが大切です。ダイエットや健康的な体づくりを叶えたい人は、ぜひ短鎖脂肪酸を増やす腸活を始めましょう。
(参考文献閲覧日:2024年12月15日)
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