「ヤセ菌」という言葉が腸活やダイエットのキーワードとして注目を集めています。しかし、具体的にどのような菌なのか知っていますか?「ヤセ菌を増やすには、何から始めればいいの?」と悩んでいる人もいるかもしれません。
今回の記事では、テレビやSNSで話題の「ヤセ菌」「デブ菌」と呼ばれる腸内細菌の解説をしながら、腸内環境を整えるための方法や注意点を紹介します。
この記事の執筆者
管理栄養士/ヴィーガン&グルテンフリー専門家
たちばな かやの
大豆食品・ヴィーガン・グルテンフリー情報に特化する栄養専門家として活動している。栄養を学び、給食委託会社に入社後、病院と保育園で調理・食材発注・事務対応などを経験。アレルギー除去食をつくるうちに大豆の可能性に魅了され、大豆関連の資格を多数取得。また、プラントベースにも興味をもち、ヴィーガンやグルテンフリーについて学ぶ。
現在はコラム執筆やレシピ開発、セミナー講演のほか、自身でグルテンフリーのケータリング弁当屋を主催するなど精力的に活動している。食物アレルギーやヴィーガン・ハラル等の食のマイノリティが抱える悩みを解消し、食の多様性がある日本・世界を目指す。
ヤセ菌とは
皆さんは「腸内フローラ」という言葉を聞いたことがありますか?私たちの腸内には500〜1,000種類、総計100兆個以上の細菌が生息すると言われています*1。善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3つのグループに大きく分かれており、グループごとに集団を形成しています。花畑みたいに見える様子から「腸内フローラ」と呼ばれています。
「ヤセ菌」という名前は、医学的・学術的な正式名称ではありません。腸内フローラの3つのグループの1つである日和見菌に属するバクテロイデス門の細菌が通称「ヤセ菌」と言われています。一方、「ヤセ菌」に対して通称「デブ菌」と言われているのが同じく日和見菌に属するファーミキューティス門の細菌です。
2006年、アメリカの研究で肥満者と非肥満者の腸内細菌を比べた所、肥満者にはバクテロイデス門の菌が少なく、ファーミキューティス門の菌が多いことが分かりました*2。マウスの腸に肥満マウスの便を移植すると、マウスの体重が劇的に増え、体脂肪が増加したという研究結果も出ています。
一連のバクテロイデス門とファーミキューティス門に関する研究結果から「ヤセ菌」「デブ菌」という言葉が話題になりました。しかしその後の研究では、日本人には「ヤセ菌」「デブ菌」の概念は必ずしも当てはまらないとの報告がされています*2。
腸内細菌と肥満の関係についてはいまだ不明点も多く、一概に「この腸内細菌が肥満の原因」とは言い切れません。ただし、腸内環境と生活習慣病に関する研究はさまざまおこなわれており、善玉菌によって産生された酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸が、肥満・糖尿病の予防・改善、血中コレステロール値の低減、アレルギーの抑制など、体に良い影響を及ぼす可能性が報告されています*1。
ヤセ菌、デブ菌という概念だけにとらわれ過ぎずに、腸内フローラのバランスにフォーカスして、腸内環境を整えることを意識してみましょう。
*1 立垣愛郎. 乳酸菌の健康機能. Comprehensive Medicine. 2018, Vol.17.No.1.p.8-19
*2 内藤裕二ほか. 肥満と腸内細菌:腸内環境からみた下部消化管疾患. 日本消化器病学会雑誌. 2021, 第118巻, 第6号, p.525-528
ヤセ菌を増やす時の注意点
まず、現時点で「ヤセ菌を増やせばやせる」と言えるだけのデータはありません。あくまでも肥満者にはバクテロイデス門の菌が少なく、ファーミキューティス門の菌が多いという結果が出ただけです。しかも、現時点では日本人に当てはまりません。ヤセ菌、デブ菌にとらわれず、腸内細菌のバランスを整える生活が大切です。
腸内フローラは、善玉菌、悪玉菌、日和見菌で構成されており、バランスを意識することが重要です*1。善玉菌だけに焦点が当てられがちですが、状況によっては悪玉菌が体に良い作用をすることもあります。また、日和見菌は善玉菌と悪玉菌のうち優勢な方と同じような働きをします。1つの菌を増やす・減らすと考えずに、腸内フローラ全体のバランスを整えることを心がけていきましょう。
また、腸内環境が整うと、スムーズな排便などが期待できます。反対に食生活の乱れや運動不足などによって腸内細菌のバランスがくずれると、悪玉菌が優勢な状態となって有害物質が増え、便秘などにつながる可能性があります*1。
加齢やストレスも腸内環境がくずれる要因とされており、腸内環境を意識しないまま生活をしていると、気付かないうちに腸内細菌のバランスがくずれ、健康に悪影響を及ぼす恐れがあるのです。
腸内環境を整える方法
腸内環境を整えるには、日々の食事がポイントです。次に、すぐに始められる3つの方法を紹介します。
善玉菌のエサとなる食品をとる
まずは、善玉菌のエサとなる食品をとる方法です。「プレバイオティクス」と呼ばれ、水溶性食物繊維や難消化性のオリゴ糖があげられます*3。プレバイオティクスは胃や小腸で消化・吸収されずに大腸まで届き、善玉菌のエサとなります。そして短鎖脂肪酸にまで代謝され、腸内を酸性にすることで悪玉菌の抑制が期待できます*1。
食物繊維を含む食品は、玄米ごはんやさつまいも(蒸し)、ゴボウ、おから、しいたけ、ひじきなど野菜類、豆類、いも類、海藻、きのこ類、果物があげられます*4*5。日本人は食物繊維が不足気味のため、まずは1日3~4g増やすことを目標にして積極的に摂取してみましょう。
善玉菌をとる
善玉菌を直接とる方法もおすすめです。ヨーグルトやチーズ、みそ、漬物、キムチなどの発酵食品には善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌などが含まれています*1。このような食品は「プロバイオティクス」と呼ばれます。善玉菌は腸内に留まりにくいため、プロバイオティクスを食べて、毎日補うのがおすすめです。
また、プレバイオティクスとプロバイオティクスの両食品をとる「シンバイオティクス」という考えもあります*6。たとえば、ヨーグルトにバナナや難消化性オリゴ糖を加えてみたり、野菜とチーズを合わせてみたり、アレンジ次第でシンバイオティクスを取り入れられます。
動物性食品の摂取量に気をつける
悪玉菌を増やさない工夫もしましょう。脂質やアルコールは適切な量であれば問題ありませんが、とり過ぎには注意です。脂質やアルコールは悪玉菌の増加につながるリスクがあります*7。
さらに、動物性食品中心の生活は短鎖脂肪酸の生成を減少させる可能性があります*8。普段の生活で動物性食品を多く食べている人は、大豆や野菜、果物など植物性食品も毎日の食生活に取り入れてみてください。
*3 独立行政法人 農畜産業振興機構「プレバイオティクスとフラクトオリゴ糖~シュガーリプレイスメントから免疫改善まで」
*4 厚生労働省 健康日本21アクション支援システム「食物繊維の必要性と健康」
*5 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年・第2章本表別表1(データ)」
*6 公益財団法人腸内細菌学会「用語集 シンバイオティクス」
*7 金井 隆典. 腸内細菌と消化器疾患. 日本内科学会雑誌. 108巻, 9号, p1939-1945
*8 田妻 進. 生活習慣病と腸内細菌叢. 生物工学会誌. 2021, 第99巻, 第11号, p.573–576
まとめ
今回は、ヤセ菌と呼ばれる腸内細菌について紹介しました。しかし、ヤセ菌、デブ菌の概念は日本人には当てはまりません。特定の菌だけに注目するのではなく、腸内細菌全体のバランスを整えることが毎日の健康へとつながります。
食生活の乱れや加齢、ストレスなどで気付かないうちに腸内細菌のバランスがくずれている場合もあるため、本記事を参考に日頃から腸内環境を整える食事法を実践してみてください。
(参考文献閲覧日:2025年11月10日)
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