「最近、風邪をひきやすくなった気がする」「なんとなく気分が落ち込みやすい」そんな不調を感じていませんか。実は、こうした“なんとなく”の不調の背景に、腸内環境の乱れが関係していることがあります。
本記事では、体質改善の鍵となる腸内環境の働きと、整えることで得られる主なメリットについて、科学的な知見をもとに解説します。
この記事の執筆者
管理栄養士
中村 瑞樹
フリーの管理栄養士として、食事指導、行政の健康事業への参画、執筆、セミナー講師、商品監修などを行う。特に健康維持や病気予防を目的とした食事指導に注力し、これまでのべ1,200名以上をサポートした。調理師、琉球料理伝承人などの資格を保有。
体質改善とは?
「体質」という言葉は、私たちの日常でも良く使われる表現です。辞書では”からだの性質。遺伝的素因と環境要因との相互作用によって形成される、個々人の総合的な性質。”*1とされています。一方、医学・医療分野の文献では、太りやすさやアレルギーなど病気へのかかりやすさといった、体に現れる傾向を示す概念として用いられます*2*3。これら辞書と論文の記述から、体質は生まれもったものだけではなく、生活習慣や服薬など後天的な行動によっても変化すると考えられます。
「体質改善」という言葉の捉え方や方法はさまざまですが、ここでは冒頭で触れた「なんとなく感じる不調」を和らげ、より健やかな状態を目指すことを目的にお話を進めます。中でも近年、全身の健康との関連が注目されているのが「腸内環境」です。次の章から、腸内環境と体質とのつながりを一緒に見ていきましょう。
*1 コトバンク「デジタル大辞泉 「体質」の意味・読み・例文・類語」
*2 久木久美子ほか. 肥満に係わる遺伝的体質と東洋医学的体質との関係ー個別化栄養指導の導入に向けての検討ー. 日東医誌. 2017, Vol.68, No.1.p.1-11
*3 一般社団法人日本アレルギー学会「アレルギーを知ろう」
腸内環境から体質を改善するメリット
腸内には多様な細菌がすみついており、その多様性が私たちの健康に深く関わっていることが分かってきました*4。腸内環境が整うことで、栄養の吸収だけでなく、免疫、メンタル面にも良い影響を及ぼす可能性があります。
ビタミンやミネラルの吸収や合成をサポート
腸内細菌は、食物繊維を分解して短鎖脂肪酸を生成します。短鎖脂肪酸は、ミネラルの吸収を助ける、コレステロール合成を抑える、大腸がんの発症を防ぐなどの働きが期待されています*5。こうした腸内細菌の代謝産物も、体質改善を目指す上で、注目すべき要素と言えるでしょう。
また、腸内細菌の中には、ビタミンB群やビタミンKを合成する細菌がいることも報告されています*6。ビタミンB群は、エネルギーの産生や神経の働き、肌や粘膜の健康維持に欠かせない栄養素であり、ビタミンKは、血液や骨の健康を支える働きを持っています*7*8。これらのビタミンは食事からも摂取できますが、腸内で適切に生成・利用されることで、よりスムーズに体に働きかけると考えられています。
免疫機能への関与
腸には、体内の免疫細胞の約7割が集中しているとされており、腸内細菌のバランスと免疫機能の関連を示唆した研究結果も出ています。例として、乳酸菌OLL2809株を用いた研究では、免疫機能を調節し、アレルギー症状が落ち着く可能性が示されました*9。健康に役立つ菌を積極的に取り入れ、腸内環境を維持することは、免疫の維持にもつながる可能性があります。
ストレスへの関与
腸と脳が互いに影響を与え合う「脳腸相関(脳腸軸)」という概念が、近年注目されています。これは、神経系やホルモンを通じて、腸と脳が双方向にコミュニケーションを行っているという考え方です*10。たとえば、ストレスを感じると、腸内細菌のバランスに変化が起きることが報告されています*11。
旧ソ連が宇宙飛行士を対象に行った研究では、乳酸菌やビフィズス菌などの有益な菌が減少し、エンテロバクターなどの有害な菌が増加したという報告もあります。また、動物実験では、腸内細菌をもたないマウスの方が、腸内細菌をもつマウスに比べてストレスに過敏に反応したという結果も出ています*10。
腸内細菌は、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の材料を生み出す働きもあります。セロトニンは不安感を和らげ、ドーパミンはやる気や集中力を高めるホルモンとして知られています。マウスを使った実験では、無菌状態のマウスでセロトニンの量が少なくなってしまうことがわかり、腸内環境の状態が、気分や心の安定と深く関係している可能性が示唆されています*12。
*4 宮川健ほか. 腸内フローラと健康. 川崎医療福祉学会誌. 2020, Vol.30, No.1.p.15-35
*5 原博. プレバイオティクスから大腸で産生される短鎖脂肪酸の生理効果. 腸内細菌学雑誌. 2002, 16巻1号, p.38-40
*6 中山二郎. 腸内細菌と健康:ゆりかごから墓場まで. 日本醸造協会誌. 2013, Vol.108, No.10.p.724-733
*7 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)(2)水溶性ビタミン」p.194-225
*8 公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」ビタミンKの働きと1日の摂取量
*9 指原 紀宏. 乳酸菌の免疫調節効果に関する研究. 腸内細菌学雑誌, 2013, 27巻, 4号, p. 197-202
*10 須藤信行. 腸内細菌と脳腸相関. 福岡醫學雜誌. 2009,100 (9), p.298-304
*11 須藤信行. ストレスと腸内フローラ. 腸内細菌学雜誌. 2005,19 , p.26
*12 藤田紘一郎. こころとからだの免疫学—腸内細菌の働きを中心にー. 心身健康科学. 2012,8 (2), p.5-9
腸内環境の整え方
腸内環境を整える取り組みは、難しい技術や特別な道具は必要なく、毎日の生活の中で腸内細菌のバランスを意識した習慣を続けていくことが大切です。
ここでは、腸内環境のために取り入れたい3つの基本的な習慣を紹介します。
発酵食品を取り入れる
腸内環境を整えるアプローチの1つとして「プロバイオティクス」が重要です。これは、健康に役立つ微生物(善玉菌)そのものを指します。食べ物やサプリメントなどから善玉菌を直接取り入れて補うことを目指します。
代表的なプロバイオティクスとしては、乳酸菌やビフィズス菌などがあり、ヨーグルトや発酵食品に多く含まれています。これらの菌を腸内まで届けることで、腸内環境を整えることが期待できます。善玉菌は食品から取り入れても定着しづらいため、毎日継続的にとることが大切です*13。
プロバイオティクスの食品の例
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ヨーグルト(乳酸菌やビフィズス菌入り)
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キムチやぬか漬けなどの発酵漬物
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みそ、納豆、塩麹などの和の発酵食品
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チーズ(ナチュラルチーズ)
これらの食品を取り入れることで、腸内に良い菌を届け、腸内環境を整えることにつながります。
腸内細菌のエサとなる食品を積極的にとる
腸内細菌が元気に働くためには、「エサ」となる成分をしっかりと届けることが大切です。
エサとなるのが「プレバイオティクス」と呼ばれる成分で、中でもフラクトオリゴ糖は代表的な存在です。フラクトオリゴ糖は、胃や小腸で消化・吸収されずに大腸まで届き、腸内細菌のエサとなり、腸内環境を整えることにつながります*14。
普段の食事に取り入れる例として、以下のように善玉菌を含む食品と、エサとなる成分を含む食品を組み合わせてとるのがおすすめです。
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ヨーグルトに果物やオリゴ糖を加える
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納豆にサラダを組み合わせる
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みそ汁に海藻やきのこを入れる
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玄米に漬物を添える
睡眠を充分にとる
腸内環境と睡眠には、密接な関係があります。たとえば、9名の健常者を対象に、4時間睡眠を2日間、8時間睡眠を2日間、睡眠以外はすべて同じ条件になるように生活させた研究では、一部の腸内細菌のバランスがくずれ、血糖値のコントロールが乱れるといった変化が確認されました*15。
必要な睡眠時間は人によってさまざまですが、自分にとってのベストな睡眠時間がとれない状況が続くと、腸内環境が乱れにつながる可能性があります。「最近良く眠れていない」と感じる方は、以下のような工夫を試してみましょう*16。
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日中にできるだけ日光を浴びる
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寝室にはスマートフォンやタブレット端末をもち込まない
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寝室は暑過ぎず、寒過ぎない室温に設定する
こうした取り組みが睡眠の質を高めて、腸内環境を整えることにもつながります。
*13 公益財団法人腸内細菌学会「用語集 プロバイオティクス」
*14 独立行政法人 農畜産業振興機構「砂糖以外の甘味料について」
*15 入江潤一郎ほか. 睡眠と腸内細菌叢. 腸内細菌学雑誌. 2017, Vol.31, No.3.p.143-150
*16 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
まとめ
今回は、腸内環境と体質改善の関係について紹介しました。腸を整えることで、おなかの調子だけでなく、免疫やメンタルへ良い影響を与える可能性があります。毎日の積み重ねで腸内環境を整え、健康な体質を目指しましょう。食事、睡眠どちらでも構いません。できることから少しずつ取り入れてみましょう。
(参考文献閲覧日:2025年10月11日)
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