からだにいいこと
世界をまたにかける“スキンケア成分ハンター”竹岡篤史氏が語る、「カカオセラミド」への期待
2024/05/10
チョコレートの原料であるカカオの様々な部位から抽出された「カカオセラミド」は、食べて良し、塗って良しと大きな可能性を秘めた保湿成分です。 今回、“スキンケア成分ハンター”として化粧品開発の最前線でご活躍されているZero Gravity株式会社 主席顧問の竹岡 篤史氏にインタビューし、カカオセラミドの特徴や可能性などについて詳しくお話を伺いました。
目 次
“スキンケア成分ハンター”竹岡 篤史氏について
株式会社 明治(以下、明治)では、新たなプロジェクト「meiji CACAO BEauty Project」を始動。世界初の素材化に成功したカカオ由来の保湿成分「カカオセラミド」の化粧品原料化など、「カカオセラミド」の価値を高めて世界に届けていくために他企業や専門家の方々と協力してプロジェクトを進めています。今回お話を伺った竹岡氏は化粧品原料・成分の専門家として、本プロジェクトに参画することになりました。
まず気になったのは“スキンケア成分ハンター”というユニークな肩書。一体どのようなお仕事なのでしょうか?竹岡氏に伺いました。
「美容成分にはコラーゲン、プラセンタ、セラミドなど千以上の成分があり、特に2000年以降に様々な種類が広がってきました。狩りをするハンターのように、世界中にあるまだ隠れた美容成分を見つけ、その魅力を育てながら美容・ヘルスケア関連のメーカー各社と繋ぎあわせ、製品やサービスを生み出す仕事です。」とのこと。
なんとも興味深いお仕事です。竹岡氏は大手化粧品メーカーとの共同研究や技術開発など研究者として長くご活躍され、独立してからスキンケア成分ハンターとして活動されるようになったそうです。
化粧品成分における世界的なトレンド
近年、世界の化粧品成分のマーケットでは、アップサイクルやサステナビリティなど、環境や資源への配慮がされた成分の開発がトレンドになっているとのことです。
竹岡氏にその点を解説いただきました。
「世界ではサステナブルという言葉が非常に注目され、重要視されています。ただ、消費者の皆さんは化粧品に保湿や美白などの“機能”を求めるので、サステナブルという言葉だけで購買に繋がるかというと少々難しいです。しかし近い将来、同じ機能をもった製品を比較する際、サステナブルなモノ作りをしている製品を意識的に選ぶ時代が来るであろうし、メーカー側に立てば、サステナブルを意識したモノ作り、人の循環などが大事になります。農家の方々がいて、それを原料にした製品を我々消費者が購入し、その代金がメーカーに資金として集まり、メーカーが産地へ還元していく。また、ある製品を製造するときに出てくる残渣についても、新しく価値あるものへ活用することで、何らかの形で還元されるなど、"循環の絵"が続くこと――つまり、サステナブルデベロップメントという持続可能な開発・発展を継続していくことが大切です。これをやっていかないと、いずれ継続的な生産はできなくなります。メーカーはこの目標が必達ですし、世界的にはそれが大前提。”meiji CACAO BEauty Project”はカカオセラミド抽出をはじめとした、未活用部位であるカカオ豆の薄皮“カカオハスク”のアップサイクル活動にも取り組みます。今回のプロジェクトは日本メーカーの良い見本になっていくのではないかと思います。消費者側の意識が高まることも重要です。」
世界のセラミド市場をリードする日本
実は、セラミド市場においては日本が世界をリードしているとのこと。どのような点でリードしているのか、より具体的な内容を伺いました。
「まず、日本人は保湿好きな傾向があり、化粧水を使う文化があります。一方、海外は油文化で、化粧水を使わないことが多く、日本の美容事情と異なります。また、日本人は自覚症状として敏感肌であると感じている方がとても多く、肌のゆらぎをサポートする成分としてセラミドの人気が非常に高いです。保湿成分として人気の成分は他にもコラーゲンやヒアルロン酸があり、それらは肌の内側での効果が期待されていますが、セラミドは肌の最外層に効くという特徴(バリア機能)があります。ストレスが原因のゆらぎ肌にもセラミドのバリア機能が有効なため、近年セラミドを求める消費者が多いと感じます。ストレスが多い今の時代を反映しているのではないでしょうか。そのセラミドについて日本は知財、論文の数も多く、世界をリードしている状況です。」
さらに昨今、世界的にもセラミドが注目されているそう。
「日本はこんにゃく、柚子、米など、セラミド及びセラミドを含んだ植物エキスの研究がこれまでも行われており、海外の植物由来のセラミドの供給源は日本が中心です。」と竹岡氏は付け加えました。
つまり、海外の化粧品メーカー、美容メーカーは日本の美容成分に着目しているとのこと。眠っている成分、知られざる成分が多々あるからこそ、ハンターとして成分や技術の発掘が求められるのですね!
夢しかない!竹岡氏が注目するカカオセラミドの魅力
豊富に含まれるヒト型遊離セラミド
保湿文化の日本のみならず、世界的にも美容の大きなトレンドとなっているセラミド。今回新たに素材化されたカカオセラミドについて、美容成分に精通し多くの知見を持つプロとしてはどのような印象を持たれたのでしょうか?
「通常、植物由来のセラミドは、糖が付いているグルコシルセラミドが多いです。化粧品用途に使われるヒト型遊離セラミドは植物由来のものが少ない中、カカオは多く含むという特長を持った希少な素材だと思います。」
(下図参照)
竹岡氏が研究してきたこんにゃくやパイナップル、リンゴなどにはヒト型遊離セラミドは含まれていないとのことで、他の植物とは異なる特徴をもつといえるカカオ。植物由来のヒト型遊離セラミドは量が少ないため価格が高く、化粧品で使用されているセラミドの多くは合成されたセラミドです。しかし、カカオハスクから多量のヒト型遊離セラミドを抽出することができれば、より多くの商品に活用できるようになるため、消費者の手に届きやすい価格で流通する未来が訪れるかもしれません。また、有効活用されてこなかったカカオハスクに価値が生まれることで、カカオ生産地の農家の方々の生活を守ることにも繋がります。
カカオは天然のプレミックス
「植物由来の成分はPhyto Nutrient(フィトニュートリエント)と呼ばれる様々な機能成分や栄養豊富な成分を複合的に含んでおり、多くの効果が期待できます。天然のプレミックスなんです。カカオも同じ、まさに神の恵み。カカオセラミドと、どの成分の組み合わせが相乗効果が出るのか、元々カカオに含まれる成分や、添加する成分との“組み合わせの妙”も研究対象です。まさに無限大の可能性があり、夢しかない!食べておいしいだけじゃなく、肌に塗っても良いという未来を開いていければいいなと思います。」と竹岡氏は笑顔で語りました。
カカオセラミド、今後の展望
世界的にセラミド人気が高まり、日本に注目する美容メーカーも多い中、竹岡氏は「ぜひカカオセラミドを海外に向けて紹介していきたい。」と考えているとのことです。
美容の世界では、植物が生育する地でどう育ってきたか、歴史的にどう使われてきたかなどを重視するそう。その植物がなぜそこに育ち、生き延びているのかなど、植物が持っている力には意味があり、それを美容に活かす考えがあるとのことです。そういった点では、カカオが育つ現地の環境や食文化などの背景が研究のヒントになると竹岡氏は話します。
「これからさらに研究開発を進めていくため、商品化は短い道のりではないですが、なるべく早く皆様にお届けできるよう最速で研究開発を進めています。」と話してくれました。
最後に竹岡氏から、「美食といってもグルメ的なことではなく、“美肌のための食”ということでカカオセラミドが活用されれば、チョコレート・カカオの新しい可能性が広がると思います。内外美容ということですね。日本から世界へ発信できるカカオセラミドには本当に夢しか感じない!」と熱いメッセージをいただきました。
私たちがカカオセラミド入りの化粧品を手にする日がとても待ち遠しいですね。
竹岡 篤史
Zero Gravity株式会社 主席顧問、スキンケア成分ハンター
国立研究所にてペプチドを用いた経皮ワクチンの開発を経て、企業においてスキンケア成分専科部門を立ち上げ、2002年より成分開発に従事。
2016年にはヨーロッパを代表する美容・コスメイベント「In-cosmetics」において、イノベーションアワード金賞を世界で初めてアジアから受賞。
2020年には再生オイル、2023年7月には清酒由来の発酵ペプチドで金賞を受賞。
現在においても化粧品会社や製薬企業と共に共同研究・開発を進めている。