銀座で羽振の宜しい方といへば、この方を措いてございません。文藝家協會の會長も務められる文壇の大御所で、文藝春秋社の社長でもあられます。よくお出掛けになるのはサロン春。女給にチツプを二十圓も三十圓もお拂ひになるとか。大勢のお仲間を引連れられて、一晩にお使ひになるお金は五十圓を下らないと言はれます。元は、銀座にある時亊新報の記者をなさりながら創作活動に勵まれていたさうですね。『眞珠夫人』が大變な評判となりました。その後「文藝春秋」を自費で創刊されてからは出版社経營の力も發揮され、今年は芥川龍之介賞、直木三十五賞といふ、文學賞を創設されたとのことですよ。
廣津和郎さんが昭和五年に、『女給』といふ小説をお書きになつたときには、大騷ぎになりましたね。主人公の小夜子は、カフエー・タイガーの女給がモデルで、客のモデルが菊池先生だといふではありませんか。先生は怒つて中央公論に怒鳴り込み、新聞沙汰にまでなつたのです。
説をお書きになつたときには、大騷ぎになりましたね。主人公の小夜子は、カフエー・タイガーの女給がモデルで、客のモデルが菊池先生だといふではありませんか。先生は怒つて中央公論に怒鳴り込み、新聞沙汰にまでなつたのです。