ATHLETE INTERVIEW

アスリートインタビュー

VOL.02

陸上日本代表

福島千里

世界と堂々、
渡り合うために。~後編~

UPDATE

20歳だった08年に初めて出場した北京オリンピック。その後、12年のロンドン、16年のリオデジャネイロと三度のオリンピックに出場。それだけでも十分、輝かしい戦績ではあるのだが、アスリートである以上、日々、常に先を求め、一歩でも前へ進もうと努力を重ねる。「0.01秒」を削るべく、今なお進化を求め続ける福島千里選手(セイコー)が掲げる目標、そして次世代へのメッセージ――。

経験や年齢を重ねて、カラダの変化を感じることはありますか?

福島

歳を重ねた変化というよりも、その時その時の状況でカラダの状態も違うので、その時々で対応を変えているという感じでしょうか。何歳だから、というのではなく、今の状態に合わせて自分のやるべきことを変えているという感じです。
基本的に私は速く走るために練習をしていて、そのためのカラダづくりが必要です。その時々でちょっとカラダを大きくしたいと思う時もあったし、筋肉量をアップしたいという時期もあります。それは20代、30代でも変わらないし、そのゴールに年齢は関係ないと思うので、今求めるもののために何をするか、何を食べるか。歳だからこうしたほうがいいというのはないと思うし、歳だから負けていい、歳だから遅く走っていい、ということはないので、その時自分がどうなりたいか。科学的、栄養的には年齢に対してのアプローチの方向性は違うかもしれませんが、私は常に、今、という感じです。

栄養サポートはその時々で、どのように対応しているのでしょうか?

村野

年齢は個人差もありますので一概には言えないのですが、福島選手も少なからず加齢に伴うカラダの変化はあると思います。また、女性アスリートとしてのコンディショニングの難しさもあると思います。ただ、栄養面からアプローチをする上では、一般的な傾向(年齢や性別など)を一つの指標としながらも、今の福島選手がどういう状況なのか、数年前と違って具体的にどういった変化があるのか。会話をしながら、本人の言葉や感覚を通してサポートする側も詳しく現状を受け止めることを大切にしています。具体的には、練習や生活環境や生活リズムなども含めて確認し、情報を得る。その上で栄養的なアセスメント(分析して課題を見つける)を行って食事内容や量の改善、プロテインの摂取タイミング、量、種類の使い分けなどの具体的なアプローチを随時するよう心掛けています。
体重を増やすためにものすごく負荷の高いウェイトトレーニングをしていた時期もあったのですが、脚への負担を考えトレーニング方法や目標体重を見直すこともありました。目標が変われば、必要であれば改めて食事調査を行い、今必要なエネルギー量を新たに設定したり、シーズンオフで練習を積む時期はより筋力アップに集中できる時期でもあるので、たんぱく質含有量の高い『ザバス プロ ホエイプロテインGP』を勧めたり。本人がどうなりたいか、どうしたいか、をしっかり把握して栄養面からフォローする。そのためのやり取りを12年間重ねて来ました。

福島

疲労感の原因を考えるだけでも、練習でかなり追い込んだからじゃないか?と練習量や練習の質を考えたり、年齢のことも、リカバリーが追い付いていないのかなとも考えたり。本当にいろいろなことが考えられるので、村野さんに相談して、いろいろなアプローチを試してきた感じです。

村野

2009年から今まで、カラダづくりや増量だけじゃなく、貧血、ケガ(疲労骨折、肉離れ、アキレス腱の故障など)、脚のケイレン、女性アスリートとしてのコンディショニング調整など、福島選手は色々な課題と向き合って、その都度改善に向けてサポートをさせてもらってきましたが、長く競技を続けていけばカラダの変化だけでなく環境も含め色々な変化も出てきます。時にはそれが栄養とは異なる側面からの相談をされるときもありますが、そんな時は根本から解決するために、各方面の専門家に相談し課題解決に取り組むことを勧めますし、栄養サポートをする側も、福島選手に関わるスタッフの皆様や関係者との連携も大切にしています。

今現在はどんなことを重点的に取り組んでいますか?

福島

とにかく今は練習をしっかり積んでいきたいので、まずは質のいいトレーニングをすること。そして、いい練習をするために、次の日に疲れを残さないこと。それだけですね。筋肉を大きくしたいというのも1つテーマとしてはありますが、それも練習した結果大きくなることなので、まずは練習をしっかり積むこと。求める結果に対する準備が整っていないと結果は出ないと思っています。ちゃんと1日1日を大切に過ごすこと。今までやってきたことを慢心や慣れにするのではなく、常にしっかり意識することが大切だと思います。そう言いながら、実は今日の朝ごはんも「これ残しますね」とか言っちゃいましたけど(笑)。基本的には、当たり前のことを当たり前に。でも、実は当たり前のことを当たり前にすることこそ、本当に難しいですよね。
練習は日々変化があって、しかもそれがすぐ結果に出ることもある。意識を変えたらすぐに変化や効果を感じることもあるし、「この練習メニューを試して見よう」と取り組めば、何かしらのフィードバックがあります。でも、日々の食事に関してはすぐにわかりやすくフィードバックがあるわけではありません。日々「0.01秒」を縮める、そんな世界でやっていて、その「0.01」を削るためにはたくさんの要素がある。「0.01」のためにこれが欠けたらダメだ、これをやってみよう、とこだわるならば、もっと食事もこだわるべきものだと思うし、食事をないがしろにしておいて「ベストを出したい」というのはちょっと違うなと。厳しく、頑張って食事にも取り組まないといけないと思っています。

村野

昨年はケガもあって、満足いくような練習が積めなかった時期もあったと思います。でも今は日々とてもいい練習ができるようになってきて、これを継続してほしいと思うので、私の立場としては、だからこそ日々、「毎日の食事を1食も無駄にしないで」という気持ちです。だからといって、毎日私が福島選手にくっついて「これを食べなさい」「この量をしっかり食べなさい」ということではなく、それは本人がいかにやるかだと思うので、その確認をするためにも、「また食事調査をしてみない?」など都度提案をしています。基本的なことはしっかりできていると思いますが、ここでまた再度食事の確認をして、追い込んで練習をした日のたんぱく質量が足りているのか、それも1日ではなく日々きちんと摂れているのか、改めて食事量を把握した中でちゃんと話して、今やりたいこと、やるべきことに栄養面から取り組みたいと思っています。

福島

これを食べたら劇的に変わる、ということはあり得ないですもんね。急に変わらないからこそ、コツコツ頑張らないといけないですね。

村野

でもそういうことを思い続けて現役生活を長く続けている選手。だからこそ尊敬しますし、日々毎日そうやっているからこその今だと思いますね。

福島

続けていることがすごいと言って下さいますけど、私からすれば、続ける環境があることが本当にありがたいこと、そういう場所を用意してもらっている立場なのでむしろ感謝しかないです。でも、気を抜くとすぐ食事の量が減って痩せちゃうんですけど(笑)。

改めて、これから福島選手が描く目標を教えて下さい

福島

今は今年の夏に向かって、何としてでもとにかく頑張る。まずそこに向かって、すべての時間をかけるべきだと思っているし、そうありたい、そうでなければいけないと思っています。とにかく自分のやるべきことをやっていくその結果が、世界での戦いにつながっていくと思いますし、それだけかける価値があると思います。「あの大舞台でもう1回」と思えたこと、このような環境でできていることに感謝しかないので、頑張ろう、と思っています。

最後に。女性アスリート、次世代に伝えたいこと、メッセージをお願いします

福島

私自身、記録が出始めた頃はすごくカラダが細かったので、いろいろ我慢していると思われていたようですが、ただ食べていなかっただけなんです。中高生の女子選手の中にはもしかしたら、勘違いをして、「速く走るためにはやせていたほうがいい、ダイエットをしたほうがいい」と思っている選手がいるかもしれない。私がそう思わせてしまったのだとしたら、すごく申し訳なかったなと思うことがあります。ですので、「細くなりたいから」とダイエットしている短距離選手がいたら、「それは間違っているよ」と伝えたいなと思っています。

村野

福島選手はもともと食事以外の間食が少なく、日常的に甘いものや脂質の高いデザートなど無駄なものを食べない。そういうものを食べたいという欲求や食べたいけど我慢するという思考がないんですよね。普段からおやつやデザートを食べるのが好きな選手は、我慢して、無理矢理抑えていることが結果ストレスになってしまって、食事は食べないけれど隠れておやつを食べてしまうからカラダが絞れないとか、カラダは細いけど筋肉が圧倒的に少ない子も多い。実は筋肉がついたカラダは代謝が上がるのでむしろ体脂肪が増えにくい体質になります。「福島選手のようになりたい!」と憧れを持って目指す中高生には特に「毎日の食事をしっかり摂ろう」という意識を持ってほしいですし、これまでの福島選手との取り組みを通じて食と栄養の大切さを私も伝えていきたいですね。

福島

陸上教室の時にはいつも「練習は1回だけれど、食事は毎日3回。その分、頑張れるチャンスがたくさんあるから、食べることも一緒に頑張りましょう!」と話しはしてきたのですが、まだまだ伝えきれていませんね。これからはもっと声も大にして言い続けようと思います。私も頑張ります!

※このインタビューは2020年1月28日に収録したものです