
1988年生まれ。北海道出身。帯広南商高卒。2008年、織田幹雄記念陸上女子100mで日本タイ記録をマーク(11.36)し、頭角を現す。女子100m、200mの日本記録保持者。08年北京、12年ロンドン、16年リオオリンピック日本代表。自己ベストは、100m:11.21(2010年4月、織田幹雄記念)、200m:22.88(2016年6月、日本選手権)。
1988年生まれ。北海道出身。帯広南商高卒。2008年、織田幹雄記念陸上女子100mで日本タイ記録をマーク(11.36)し、頭角を現す。女子100m、200mの日本記録保持者。08年北京、12年ロンドン、16年リオオリンピック日本代表。自己ベストは、100m:11.21(2010年4月、織田幹雄記念)、200m:22.88(2016年6月、日本選手権)。
陸上競技、女子短距離界の押しも押されもせぬ日本のエース・福島千里。
100m、200mの日本記録保持者である。(株)明治が福島選手の栄養サポートに関わるようになったのは2009年から。以来8年間、食と栄養の面から福島選手を支えている。連載第5弾は、『食事と栄養』アドバイスによってさらに引き出された、疾風の“走り”の原点と進化し続ける現在に迫った。
5年前(2012年)の福島選手
明治が福島選手の栄養サポートに携わるようになったのは、北京五輪翌年の2009年6月からだ。「サポートを開始する1年ほど前になりますが、福島選手の走りを初めて目にしたのは、シーズン初戦で福島選手が日本タイ記録を更新した時です(08年)。突然現れた新星女子アスリートの走りを見て、こんなに細くて華奢なのに、どうしてあんなに速く走れるんだろう…。それまでの私がイメージする短距離選手とは全く違ったタイプのアスリートだったこともあり、彼女の存在とその走りはとてもインパクトが強く印象的でした」。と当時から担当する村野あずさ管理栄養士はそう振り返った。
世界のトップアスリートたちと伍して戦っていくためには、『食事と栄養』は重要なキーワードの1つ。果たして、当時の福島選手の食事はどんな内容だったのか、さっそくヒアリングしアセスメントしてみると…。
「前年の北京五輪に出場し、世界で活躍するトップ選手との体格差やスタミナの違いを目の当たりした福島選手にとってカラダづくりは大きな課題でした。そこで本格的なカラダづくりの第一歩として食事改善からスタートしました。初めに食事調査を行ったのですが、その結果は、世界と戦っていく以前の問題…。アスリートとは程遠く、ダイエットに気を遣っているのではないかと思う20代の一般女性並み、いやそれ以下の質と量だったのです」(村野)
例えば、カラダづくりに欠かせないたんぱく質の摂取量はというと――。アスリートの場合、体重1kgあたり2gを目指しているが、当時の福島選手は1.3gほど。摂取エネルギーに至っては2000kcal/日に満たなかったという。当然、それ以外の栄養素に関しても明らかに不安。アスリートが理想とする推奨量にはほど遠い内容だった。
当の福島選手はというと、そこまでひどい内容だとは思っていなかったようで、提示された食事調査の結果に少なからずショックを覚えたという。
「今、振り返ると当時は、食事に対して何も考えていませんでしたね」(福島選手)
こうして村野さんの厳しくも適切な“ダメ出し”からスタートした栄養サポートは、まずは食事に対する意識改革から取り組まれていった。
栄養バランスのよい食事は、良質なカラダをつくり、体調を整え、強い気持ちを引き出す源になる。「何をどこから改善してよいかわからなかった」、という福島選手に対して、村野さんが最初に提案したのは、明治が推奨している『栄養フルコース型』の食事だ。『栄養フルコース型』の食事とは、カラダに必要な5大栄養素を、簡単に「フル」にとることができる食事のことで、具体的には(1)主食、(2)おかず、(3)野菜、(4)果物、(5)乳製品の5つをそろえる食事の型。サポート開始以降は食事の都度、(1)~(5)がそろっているかチェックとアドバイスを繰り返した。「栄養素のことを考えるのは難しいけど、『栄養フルコース型』の食事なら自分でもできる」。当時から自炊をしていた福島選手にとって、自分で献立を考えるときのベースづくりにもなり、足りないものは後から補うということがしやすくなる。
一方の福島選手は、「少しでも気を抜いてしまうと、また振り出しに戻ってしまっている。だから、村野さんには何度も何度も同じことを言わせてしまったのではないか、と思います。もしかすると、今でもまだまだ不十分かもしれませんね(笑)」と、村野さんの横顔をそっとうかがう。「ただ、目標も年々上がってきているし、トレーニング期、試合期など、日々掲げるテーマも状況に応じて変化していくので、何事に対しても、実は“これでもう十分”と満足することはありません。食事に対する考え方も、それは同じかな、と。競技レベルの進化に応じた取り組み方が必要だという自覚は、この8年間でしっかりと培われてきたのではないかと思っています。私にとっての大敵はとにかく気を抜かないことです。」
「そうかもしれませんね(笑)。最初の頃は、食事や体調面など私のほうから質問したり話を振るなどして課題を見つけていく、といった感じのことが多かったのですが、徐々に、福島選手自らがそのとき感じていること、気づいたことなどを積極的に話してくれるようになりました。私自身もトップアスリートである彼女から発する言葉に対して、さまざまな気づきや学ぶことが本当にたくさんありますし、さらに良いサポートをしていくために自分自身の知識やサポート力を高めていかなくてはならないな、と常に刺激を受けています。」(村野)
最近の福島千里選手の食事内容
日々の食事において特に心がけているのは“量”だ。元々、福島選手の場合、食が細く胃腸もあまり強いほうではない。それだけに、村野さんから「これがアスリートがとらなければならない普通の量」と示されたときは、「えっ!」と思わず絶句するほどだったという。なんと、その量というのは、いつもの倍近くあったからだ。
「もともと食が細いこともあり、福島選手のそれまでのごはんの量はというと、お茶碗にほんの少しだけ(120~150g程度)。お弁当箱の中身もスカスカでした。でも量について指摘(目標は200g~250g)してからは、ご飯はお茶碗に十分に盛ると同時に、お弁当箱のサイズも大きくして、ご飯をぎっしり詰めるようになるなど改善されていきました」(村野さん)
とはいっても、食事の質には即応できても、量への対応となると苦労したようだ。トレーニングに置き換えれば、10kgしか挙上できない人に、いきなり20kg持ち上げてみようといっているようなもの。だからこそ、決して無理を求めずゆっくりゆっくりとカラダに慣らしていけるよう指導していった。そして、それは現在も継続中ということだ。福島選手自身も、「無理をしてまでと思うと、途端に苦しくなってしまう。ましてや食事というのは、本来は楽しい時間であるはずですからね。だから決して無理をするのではなく、むしろ意欲的に取り組むもうと心がけました」という。
「福島選手の練習を目の当たりにすると、その質の高さと量には本当に驚かせられます。その上に体幹やウエイトトレーニングなどもかなり強度が高いので、当然、カラダへの負担や消耗も大きい。したがって、その負担や消耗を補うためにもしっかりと食事をとらなければ、疲労が蓄積しケガのリスクも高まってくる。そういう意味でも、『もっと食べなければいけないよね』とはずっと言い続けてきました。そして、それが実行できるようになったからこそ、練習量も少しずつ増やしていくことができるようになったのではないかな、と」(村野さん)
「本当にそう思います。練習ができるからこそ結果もついてくる(2016年6月、200mで自己ベストを更新)。それは食事をしっかりと食べているからこそですよね」(福島選手)
現在、福島選手は29歳。年齢とともに、練習内容も量から質への転換期となる頃かもしれないが、「むしろ、10代後半から20代前半の頃よりも練習量を増やすことができている」(福島選手)という。まさに、食事によって好循環が生まれたというわけだ。
「食事や栄養に対する取り組みはすぐに結果が出るものではありません。たくさん食べたからといって誰もが速くなるわけではないですし、速くなるためには、やはり練習の量や質をいかに高められるか、にあると思います。その中で、質の高い練習、練習量を支えていることの一つに『食事と栄養』があるのではないかと思います」(村野さん)
ただ、その一方で予期せぬ事態に遭遇することもあった。両脚のケイレンである。「4~5年前からでしょうか。不意にその症状が襲ってくることがある」(福島選手)というのだ。村野さんによると、競技中に足つりやケイレンを起こす要因としては未だ医学的に解明されていない部分も多く諸説あるという①筋疲労や中枢疲労による筋神経系の異常、②無理な姿勢や急な筋力発揮による筋神経系への急激な刺激、③大量発汗や脱水、④電解質の不足・アンバランス、⑤寒暖の急激な変化、神経系の伝達機能の低下、⑥興奮や緊張・精神的ストレスなどによる中枢神経から筋肉への過度の刺激、⑦筋グリコーゲンの枯渇による疲労、⑧筋肉内の酸素不足、などこれらのいくつかの要素が重なって起きると考えられている。
「これまでも何度かシーズン中にケイレンに悩まされたこともあり、解決法には福島選手やトレーナーと共に試行錯誤していたのですが、改めて最近の練習状況や体調の変化、栄養状態などじっくり時間をかけてヒアリングを行い、また血液検査などのコンディションチェックや身体のケアにも細心の注意をはかり今季の日本選手権に向けて取り組みました。実際の試合は、気温も高く、発汗量が増えることが想定されたため、脱水を起こさないためにも事前に水分補給を徹底することを確認。筋肉は水分を多く含む組織でもあり、水分不足が起きた場合真っ先に筋肉から水分が失われるため、筋肉のコンディションを維持する上でも大きなリスクとなるからです。また、電解質であるナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの不足やアンバランスが原因で筋収縮に支障をきたした場合にもケイレンの可能性が高まります。さらに、エネルギーの材料となる炭水化物(糖質)の量をしっかり確保することもリスクを減らすための対策の一つでした。
それでもまだケイレンに対する解決策は現在も模索中です。当日の自身のコンディションはもとより、気温や湿度などさまざまな環境条件が複合的に重なって起こることもあれば、まったく同じ条件下であっても起きないことがある。したがって、そういうことを踏まえながら、とにかく今、私たちができる最善のこと、原点に立ち返り、栄養面からしっかりアプローチすることによって、そのリスクを少しでも減らしていこう、と取り組んでいるところです」(村野さん)
2017年日本選手権100mゴールシーン
そういった危機管理が奏功してか、「最近のレースではその症状はまったく現れていない」と福島選手はいう。それを聞いて、まずは一安心だ。
では、福島選手にとってのベストコンディショニングとは…。
「どれが“ベスト”かというのは、自分でも正直わからない。だから今もまだ、常に自分の“ベスト”を探し求め続けているというのでしょうか。例えば、日本記録、自己ベストが出せたときがベストコンディションだったかというと、実はそうではないのかもしれない、と。だから、さらにその上のベストコンディションをつくらなければならないと思ってしまう(笑)。結果的にもしそれが本当の“ベスト”だったとしても、『もっといける』『もっといけたはず』と満足しない自分がそこにいるんです。
とはいっても、記録って、0.01秒ずつ正確に更新していけるわけではありません。逆に、0.01秒ずつ…と思うと、自らを追い込んで苦しくなるときがある。難しく考えてしまうと、かえって神経質になってしまうものです。時には0.05秒、あるいは0.1秒もいきなり更新できることもあるんだ、と。だからこそ短距離って面白い。そういう意味でも、細かい数値の限界をつくらず、常に『より速く、より速く』という向上心をもって取り組むことが大事だと思っています」
福島選手にとって自らを引き上げるために欠かせないアイテムがサプリメントだ。
まず、試合において常備しているのは、『ザバスエナジーメーカーゼリー』と『ザバスピットインエネルギージェル』。ともにアスリートにとって必須のエネルギー源として併用している。
「100mや200mという短距離では競技時間は数十秒と短いのでレースで消費されるエネルギー量はそれほど多くはありませんが、1日に2レースあることが多く、試合前のアップから、次のレースまでのリカバリーや準備などを考えると、こまめにエネルギー源を摂取する必要があります。短時間で効率よくエネルギー補給を行うためには、消化・吸収が速く即効性の期待のできるサプリメントであることが条件の一つ。それらはともに吸収効率の優れ、胃に負担のないマルトデキストリンを主成分としているのが特徴です。大舞台になると、緊張感から固形物が喉を通らないこともある。ましてや福島選手の場合は、元々食が細いので、こういったプレッシャーのかかる場面おいて役立つのが『ザバスエナジーメーカーゼリー』。レースとレースの合間やアップ前のレース1時間半前くらいに摂取しています。一方のレースの30分くらい前から摂取している『ザバスピットインエネルギージェル』は、一本で170kcalの高エネルギーが補給できるジェルタイプのサプリメントです。効率よく糖質補給できるだけでなく、ナトリウム・カリウムもなどの電解質も含まれているので、ケイレン対策にも有効だと考えています。」(村野)
福島千里スペシャルプロテインは
「リカバリー」に「クリア」をブレンドしたもの
日々の練習時の使用法は、「まず、サポート開始当初から大きなテーマであったカラダづくりに必要なプロテインは福島選手の競技生活の中でしっかり習慣化されています。その時の目的や状況に応じて数種類のプロテインを使い分けしてきましたが、現在は練習後に『ザバスリカバリープロテイン』を摂取しています。このプロテインの特徴は、炭水化物(糖質)とたんぱく質を理想の割合でバランスよく補給できること。練習で酷使したカラダをいち早くリカバリーするという意味でも、福島選手には必須のサプリメントといえるでしょう。さらにもう一つ、瞬発系競技の短距離種目の場合には、『リカバリー』だけではなく、筋力アップに必要なたんぱく質の量も大きなカギとなる。そこで、トレーニング強度に応じて、例えば強度の高いウエイトトレーニングなどを実施した際には、タンパク含有97%の『ザバスクリアプロテインホエイ100』との併用を勧めています。ちなみに『クリア』は、水のような透明感を追求しているので味がないのが特徴。福島さんは、『リカバリー』と『クリア』とを混ぜて飲んでいます」(村野)
「はい。とても美味しいですよ。それぞれに活用の目的は異なりますが、だったら別々にとるよりも、一緒にとったほうがいいだろう、と。村野さんのいう通り、『クリア』には味がないのでむしろ好都合でした」(福島選手)
また、日々の疲労回復には『パワーアミノ2500』。「速効型ホエイペプチドを主原料にリカバリーに必要なアミノ酸を含んでおり、練習前後と就寝前に5~6粒必ずとるように勧めています」。(村野)
福島選手を間近に見ると、スマートでスタイリッシュだ。ところが、陸上競技に取り組んでいる中高生からすると、その“スマート”な部分だけを見て、本当はしっかり食べているにも関わらず、むしろ食べていないのではないか、食事を抜いているのではないか、と勘違いされるケースが多いという。だからこそ福島選手は、自身の言葉で後進たちに『食事と栄養』の重要性を啓発していきたいと思っている。
8年間の栄養指導のデータを語る(株)明治の村野あずさ氏(左)
と懐かしい写真に思わず笑みがこぼれる福島千里選手(右)
「日々の練習やトレーニングは1~2回。当然オフ日もある。でも食事はというと、補食を含めると一日3回以上は必ずあります。たとえ試合本番に向けて、練習量を徐々に落としていくときでも、食事は朝昼晩規則正しくとらなければなりません。つまり、一日に3回も自らを磨けるチャンスがあるということ。1年間にすれば、365日×3回、つまり1000回以上も強くなれるチャンスがある、と考えてみてはいかがでしょう。そのチャンスは絶対に生かすべきで、決して放棄してはならない。それにレース直前までできることも栄養補給。それくらい『食事と栄養』は、生活にも試合にも密着しているということ。私自身もいまだ完璧ではないけれど、これからも日々コツコツと努力を積み重ねていきたいと思います」。
ザバス
プロ クリアプロテイン
ホエイ100
ザバス
プロ リカバリープロテイン