取引先とともに

大塚牧場1
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F1や8時間耐久ロードレースの開催など、モータースポーツの聖地として知られている三重県鈴鹿市。自動車産業を中心に多くの企業が立地する県内有数の商工業都市である一方、東に伊勢湾、西に鈴鹿山脈といった豊かな自然にも恵まれています。この鈴鹿市で、自給飼料にこだわりながら、奥さまと二人で牧場を経営する大塚清信さんにお話しを伺いました。

自給飼料と環境美化が乳質向上のポイント

酪農家1

大塚清信さん

「小さい頃から牧場の仕事を手伝っていましたが、自分が跡を継ぐことは考えていなかったんです。そうしたら大学に入ったばかりの頃に、父がぎっくり腰になってしまって…。牛の世話を休むわけにいかないので、自分が代わりを務めているうちに、いつの間にか本業になって。最初は慣れないことばかりで苦労しました」そう言いながら笑う大塚さん。2代目になって30数年を経た今では、ベテラン酪農家としての風格が漂います。
大塚牧場の広さは約7へクタール。その面積の約半分が牛のエサとなる作物を作る自給飼料用の農地です。牛の大好物であるトウモロコシ(デントコーン)と、WCS*を栽培しています。自給飼料で牛を養うのは手間のかかる仕事です。 でも、それが大切だと大塚さんは言います。
「トウモロコシはもちろん、発酵させたWCSもどこか甘酸っぱい独特の匂いが食欲をそそるのか、牛が良く食べてくれます。食欲が落ちる夏場の対策として使えば、乳質や乳量を落とさずに済むから、経営の安定につながります。」
*稲発酵粗飼料(稲WCS)とは稲の実が完熟する前に、実と茎葉を一体的に収穫し、乳酸菌発酵させた飼料のこと。稲ホールクロップ・サイレージとも呼ばれ、水田の有効活用と飼料自給率の向上に資する飼料作物として、作付面積が拡大傾向にある。

大塚さんが自給飼料の栽培とともに、力を入れているのが牛舎環境の美化です。明治の「良質乳生産牧場」の認定取得をきっかけに、美化活動の一環として牛舎の天井を掃除して、照明を取り付けたのです。牛舎を明るくしたことで、以前は気にならなかった汚れが目立つようになり、もっときれいにしたいという意欲がわいてきたそう。
「それまでは真っ暗の中で作業していたから、妻が一緒にいても誰だかわからなかったくらい。でも照明をつけて明るくしたら毎日の仕事にもメリハリがついて、作業するのが楽しくなりました。気持ちの問題は大きいです。人間だって明るくてキレイなところで働けばこれだけかわる。それは牛も同じだと思います」と話す大塚さん。その横で微笑む奥さまも、大塚さんが牛舎の美化に力を注ぐようになってから、新しいことへ積極的に取り組むようになってきた、と言葉をはさみます。照明や塗装だけでなく、牛体を清潔に保つため、1日に10回も牛糞の処理をしているそうです。牛が汚れないようにして、ストレスを減らすことで乳質の改善にもつながるといいます。

とうもろこし畑青塗り天井 牛体のきれいな牛

「牧場の仕事って、かなりの部分が天候に左右されるんですね。台風の直撃を受けると、自給飼料の収穫量が半分になってしまうこともある。それは自分では解決できない課題です。だから、明治さんの認定制度みたいに、結果だけではなく日々の努力を見て、きちんと評価してくれるのはとてもうれしい。ただ惰性で毎日同じことを繰り返すのではなく、次の認定という目標に向けて、もっと良くしたいという気持ちが自然にわいてきます。毎日の仕事のやりがいにもつながってきます」
さらに、美化活動や認定取得は、気持ちの問題だけではなく、牧場の経営に、大きく貢献する、と大塚さんは言います。
「正直に言えば、最初に第一認定を取る際には、何でこんなことやるんだろう?という気持ちがありましたね。でも認定の項目をクリアしながら美化を進めていくと、第三認定を取得する前は27万だった体細胞数の平均を、認定取得後には3分の1以下の8万3000まで減らせたんです。菌による乳房炎も防げるから、乳質や乳量の向上につながりました」
牛舎環境の美化を進めるなかで、自分なりの工夫を施しているのも大塚さん流です。例えば、牛舎の天井は青と白のツートンカラー。これは、明治の「おいしい牛乳」のパッケージからヒントを得たそう。
「パッケージって、売り場で選んでもらうためのものでしょう。だとしたら、牛舎にも取り入れれば、訪ねてきた人をいい気分にする効果があるかなと思って」と大塚さん。でも、歴代の明治の担当者は誰も気づかなかったと苦笑い。ただそうしたさまざまな工夫や努力の甲斐あってか、乳質や乳量はもちろん、大塚牧場の牛の平均生涯出産回数は 4.3回と高い水準です。三重県全体の平均は1.7回なので、いかに多いかがわかるでしょう。11頭の仔牛を出産した母牛がいたこともあり、繁殖の成功率が高いことも健全な経営を支える要素のひとつです。
乳質の高さや繁殖率の高さもエサの工夫と環境美化によるものだと語る大塚さん。つなぎ牛舎の中で過ごす牛たちも、健康で快適そうに見えます。

明治の関わり

酪農課

東日本酪農事務所 東海酪農課
本村祐樹

大塚牧場を含む三重県の酪農家全8戸を担当しているのは、東海酪農課の本村祐樹です。大学で農学を専攻して明治に入社。東海酪農課に配属されて2年目を迎えた本村に話を聞きました。
「私たちが目指しているのは、酪農家の方々にとって身近で頼りになるパートナーになることです。そのために一番大切なのが酪農家の方々との信頼関係作り。だから、できるだけ外回りの時間をつくるように予定を調整して、週の半分くらいは酪農家の方々を訪問する時間にあてています。気をつけているのは、普段から特別なことがなくても時間を見つけて足を運ぶように心がけること。何か問題があったときにだけ訪ねるのでは、酪農家の方も身構えてしまいますから」
目的もなく、ふらっと訪ねて行ったときにこそ、思いがけない問題や課題が見えることが多いと語る本村。担当する酪農家の方々が現場で困っていること、悩んでいることを把握できなければ、早い段階で防ぐことはできません。問題が発生した後の事後処理になってしまってはサポートも意味がありません。それではパートナーとしての役割と責任を果たしていないことになってしまう、と本村は言います。

「牛乳の価値向上の取り組みを進めるには、パートナーとしての信頼関係構築に加えて、勉強会やイベントの開催により、新しい知識や知見をお伝えすることも大切です」と話す本村。
風味の悪い生乳を酪農家の方々に実際に飲んでみてもらい、出荷できないレベルの品質を理解してもらう実践的な勉強会や、各牧場のバルク乳をサンプリングして検査した結果をフィードバックするバルクスクリーニングなども、そうした活動の一環です。また、一見難しそうな最新研究の成果を噛み砕いて説明してほしいというニーズに応えて、エサの栄養成分や牛の下痢予防についての講習会を開催しています。さらに、細菌による乳質低下を防ぐために、毎日使っている搾乳機の正しいメンテナンスの仕方について講習してもらいたい、という要望も寄せられているそう。

「新たに認定を取得した酪農家を表彰する総括会合を年に1度、三重県の酪農団体と愛知県の酪農団体と合同で開催しています。今年度は価値向上の進捗状況報告や今後の予定に関する話のほか、子牛保育の講習会を実施して、好評を博しました。」
こうした土壌があるからこそ、担当として酪農家の方々との関係づくりが可能になると言いながら、今日も牧場を訪問する本村。ある牧場で「また来てね」と声をかけてもらったことが一番うれしかったと、笑顔を見せました。

酪農家目線の情報提供やコミュニティ形成を

酪農家集合

価値あるパートナーを目指す東海酪農課の本村に、今後の抱負を聞きました。
「私たちが進めている牛乳の価値向上の取り組みは、酪農家の方々はもちろん、消費者のみなさまにも、私たち明治にも大きなメリットがあります。でも、それが酪農家の方々にうまく伝わらないと、明治の都合を押し付けられていると誤解されてしまいます。自分を振り返ってみても、今までは消費者目線からのアプローチに偏っていました。しかしこれからは酪農家の目線で取り組みを強化していきたいのです」と話す本村。消費者の立場から牧場に対して「変えてほしいこと」や「改善してほしいこと」の一方的な押し付けにならないように、酪農家にとって「役に立つこと」や「やってよかったと思えること」を意識することが大切だと言います。
さらに、価値向上へのモチベーションを高めていただくために、酪農家の方々のコミュニティ形成も重要になると本村は考えています。
「明酪会という県単位のコミュニティーをはじめとする明治のネットワークを利用すれば、地域の酪農家同士の交流を活性化するだけでなく、隣県など離れた地域との交流も可能になります。さまざまな地域の酪農家同士の情報交換が刺激になって、牛乳の価値向上の取り組みが盛り上がればうれしいですね。勉強会やイベントなど、そうした交流の機会を設けて、橋渡しの役割を果たしていきたい」と目を輝かせます。

「明治の担当者さんは、全国各地から異動してくるからね。その話を聞くだけで、いろんな情報を入手できる」という大塚さん。各地の様々な情報は、ベテランの大塚さんにとってもとても参考になるといいます。牛一頭から牧場経営を始めた先代(大塚清信さんの父)の創業時から、65年の長きにわたる関係のなかで、相談役としての明治に大きな信頼を寄せています。
「酪農家にとっては、明治さんのような、何か悩みごとがあったら、いつでも相談できる相手がいるのは、とても心強い」と話す大塚さん。「生乳の体細胞を減らすには、どうすればいいのか?」のような保健所には相談しにくい問題も、明治さんになら相談できる、と言います。
「一人で悩まずに、明治さんに相談すればエサの配合や衛生管理など、最新の対策や、他所の牧場で成功した例を教えてくれるし、行政との橋渡しもしてくれます。いろんな情報を収集できるのがいい」と、身近なパートナーとしての明治を高く評価しています。

大塚さんに牧場の将来について聞いてみました。
「二人でやっている牧場だから、規模の拡大については考えていません。これからも環境美化の活動を継続して、牛の健康と品質向上を目指していきます。今後は、繁殖成績を向上させるために、雌雄判別精液を用いた人工授精や、育成牛の販売など、新しい取り組みにもどんどん挑戦していくつもり。そのためにも、明治さんからの情報提供や、いろんな地域の牧場との繋がりを活用していきたいと考えています」と力強く語る大塚さん。

明治とのパートナーシップは、さらに深く、長く続いていきそうです。

今回の取材で見えた「酪農あれこれ」
  • 濃厚飼料と租飼料をバランスよく与えることで、夏場の牛の食欲不振を改善できる
  • 自給飼料は手間がかかる分、経営への貢献も大きい
  • 牛舎の環境美化は、人間はもちろん牛のストレスも軽減する
  • 細菌による乳質低下を防ぐため、
    搾乳機は正しくメンテナンスすることが重要