取引先とともに

南牧場1

南牧場2

南牧場
場所:福井県勝山市
創業:1980年
規模:牛 40頭(2017年 8月現在)

南牧場3

福井県の東北部に位置する勝山市は、1980年代後半から国内有数の恐竜化石の産地として知られるようになりました。今回訪問した南牧場は勝山市街地の南東に位置する山の中。麓に比べると2℃程度気温が低く、夏でも過ごしやすい半面、1月から3月にかけての積雪が3mに達することもある豪雪地帯です。サラリーマンから転身した後、そうした自然環境の中で、父から受け継いだ牧場の経営に新風を吹き込んでいる若き酪農家、南一輝さんにお話しを伺いました。

業務効率を高めて、仕事をサラリーマン化

南一輝さん

南一輝さん

初めて南牧場を訪れた人は、まずユニークな看板に目をひきつけられることでしょう。牧場というより、まるで飲食店や雑貨屋の看板のようです。
「看板や名刺のデザインは妻のアイデアをもとにして作りました。この牛のモデルは僕です」と笑う南一輝さん。
2016年6月に初代のお父様から牧場を受け継いだばかりの31歳。若き2代目の経営者です。大学卒業後、空調設備の商社を経て、東京の特許事務所でサラリーマンとして働いていた南さん。地元に戻って2年間の就農前研修を受けるまで、牧場の仕事はほとんど手伝ったことがなかったそうです。
福井県の平均からみてやや大きな規模である南牧場は、つなぎ牛舎で40頭の牛を飼っています。家族で経営する多くの牧場と違って、南牧場は南さんを中心に、お父様と二人の従業員が働く合同会社。南さんの奥様とお母様は牧場の仕事には関わっていません。
「母親が看護師として牧場の外で働いているのを見てきたので、妻にも僕の仕事を手伝ってほしいとは思っていません。妻は、自分のやりたいことをやって、それが生きがいになればいい。僕は酪農に興味のある若者たちを集めて、自分が思うようなスタイルで牧場を運営したいと考えています」
会社員時代に「なぜ毎日8時間働かなければいけないんだ?決められた勤務時間に縛られて働くのは不合理だ」と思っていたという南さん。長時間労働を美徳とする旧態依然とした会社組織の慣習には否定的です。いま目指しているのは、作業をシステム化して合理的に管理することでムダを省き、牧場の仕事は拘束時間が長くて大変そう、というイメージを払拭すること。若者や転職者が就職先を選択する際に、サラリーマンになるのと同じような感覚で、酪農家を志望できるようにしなければならないと語ります。
「僕自身がサラリーマン出身ということもあって、酪農業という仕事の敷居を下げてサラリーマン的に働けるように変えていきたい。南牧場では早朝の真っ暗なうちから搾乳を始めなくても間に合うように、トラックが集荷する時間を1時間後にしてもらうなど、短時間に集中して作業できるように工夫しています。夕方の仕事も18時半までには終えますから、同じくらいの規模の牧場に比べて、労働時間は短いと思います。いつまでも人が牛舎の中にいたら、牛だって落ち着かないでしょう。牛を休ませるのも、僕たちの大事な仕事です」
さらに、南牧場では1週間に1回、従業員向けの勉強会を開いて、知識や技能の向上を図っています。こうした取組みも、企業で行う社内研修のようです。
南さん自身も、酪農への理解を深めていくことに貪欲です。
「福井県では獣医さんとか飼料の業者さんとか、酪農に関わる人たちが集まって飲み会を開く機会があります。そこで広めた人脈が役に立っていますね。悩みごとを解決したり、新しい発見があったり、とても貴重な場です」

牛舎 飼料 断熱

専門家の意見や新しい情報を積極的に聞いて、良いものはどんどん取り入れていこうというオープンマインドの南さん。
「酪農家としてのスタートが、他の人より遅かったから、その分追いつけるようにがんばらないと。幸い父は頭の柔らかい人で、僕の意見をきちんと聞いてくれるから、牧場経営のことでケンカになることはありません。父が37年かけて培ってきたノウハウは、南牧場の財産だと思っています。エサの配合がうまくいっているのも、父が作ったレシピのおかげです」
南牧場で給与されているエサは自給飼料が中心です。自家産と地域の米を使ったWCS(稲発酵粗飼料)とモミに乳酸菌と糖蜜を加えたSGS(稲ソフトグレインサイレージ)を使うことで、飼料代の1割を削減することに成功しています。「父が半生をかけて築いてきたベースがあるから、新しいことに挑戦できる」と語る南さん。もともと理科の実験が好きで、大学時代は生命情報学を専攻し、オーダーメイドの治療薬を作るバイオシミュレーションに没頭していたそうです。
従来の方法にとらわれず、日々努力を重ねながら前進を続ける南さんの姿勢は、この理系の発想に由来しているのかもしれません。

明治との関わり

東日本酪農事務所 東海酪農課 結城遼

東日本酪農事務所 東海酪農課
結城遼

北陸地域は、早くから牛乳の価値向上に取り組んできた先進地域で、多くの酪農家の方が第2認定まで取得しています」と話すのは、明治東海酪農課で福井、石川、新潟の3県を担当する結城遼です。乳量と乳質を管理するため、週のうち3日は午前中に酪農家を訪問。さらに、明治が主体となっている酪農家のコミュニティである石川明酪会や、日本乳業協会の支部である石川県牛乳協会の窓口も担っています。
しかし、順調に進んできた価値向上の取り組みも、乗り越えなくてはならない壁にぶつかっていると結城は話します。
「高齢化と、それに伴う後継者不足です。後継ぎがいないため、いまから10年の間に離農するかもしれない牧場が数戸あります。次第に先細りになっていく中で、酪農家の方々のモチベーションを維持するのは難しい。どうすれば価値向上の取り組みを推進していけるかを考えなくてはなりません」
そうした状況を打開するための答えの一つが、経営診断や技術支援など、短期間で効果が見える身近なメリットを提供していくことだと結城は考え、「この地域は、ほぼ8割の牧場が当社北陸工場への直送酪農家なので、お互いに顔が見える関係。フェイスtoフェイスでざっくばらんに話をしやすい環境があります。
例えば、月一回の牛群検定の数値を見せてもらって、ずっと体細胞数が高いままの牛がいたら、牛舎をきれいにするのも有効な対策ですね、といった助言を行なっています」。衛生面を改善できれば、認定の項目をクリアして価値向上の取り組みを一歩進められる、と取り組みを推進しています。
「認定取得が最終目標ではなく、日々の小さな改善の積み重ねが、結果として価値向上につながっていけばいいと思います。明治からの押しつけだと誤解されないように、何のために取り組むのかを丁寧に説明し『お願いする』という気持ちをもつことが必要です。また、自分も酪農家の方々と一緒に汗をかくという姿勢を示さないと、人を動かすことはできません」
イベントや勉強会の場を活用して、酪農家同士の横のつながりを深めて、コミュニティを強化していくことも重要だという結城。石川県と福井県のように文化風土の違う地域の酪農家が交流することで、刺激し合いながら北陸地域の結束を固め、牧場経営に対するモチベーションアップを目指していきます。

南牧場酪農家

そして今、大きな期待を寄せているのが、南さんのように若くて、新しい考えを持った牧場経営者の登場です。南牧場と明治の関係は2017年の4月に始まったばかり。わずか数カ月の間に、南さんは牛乳の価値向上の取り組みの主旨に賛同し、環境美化に取り組んでいます。
「私たちの徹底した衛生管理の考え方に共感してくださったのは、南さんが“食品を扱っている”という意識が高い方だからだと思います。南さんのように、強い向上心を持って酪農に取り組み、外部からのアドバイスも好意的に聞き入れる牧場経営者が、地域の酪農家を活性化するキーマンとして重要なんです」と話す結城。
一方の南さんは「明治さんはメーカーとして衛生に対する厳しさが違います。もっと厳しく、遠慮しないで言ってほしいですね」と言います。従業員にも、常に食品を作っているという自覚を持つように指導しているそうです。
これから南牧場がさらに進化していくためには、明治という「第三者の声」が必要だと考えているといいます。「牧場の環境美化や衛生管理を進めるときにも、明治の結城さんがこう言っていたと伝えれば、説得力が増して、父や従業員がすんなり受け入れてくれるんです。僕が一人で主張するだけでは、こうはいきません。今後は結城さんに従業員の勉強会にも参加していただくなど、もっといろんな部分でフォローしてもらいたいですね」と話す南さん。
こうした南牧場と明治との新しい関係づくりが、地域の酪農家を盛り上げるきっかけになると期待しています。

酪農のイメージを変えていきたい

南牧場酪農家集合

牧場の将来について南さんにお話しをお聞きしました。
「規模を拡大することは一切考えていません。酪農家を4年経験してわかったのは、牛の健康を守るのが僕たちのゴールだということ。むやみに規模を大きくしても、目が行き届かなくなって、牛たちがかわいそうです。僕としては一頭一頭の状況をきちんと頭に入れて、発情のタイミングまで、しっかり把握しておきたい。そのうえで挑戦したいと考えているのが、近隣地域を対象にオーダーメイドの牛乳を販売するミルクスタンドです」
牧場の牛乳を使ったミルクスタンドは、パティシエの資格を持つ奥さんの夢。ブラウンスイスという濃厚な味わいの乳を出す牛を飼い始めたのも、そのための準備です。
「ガンジーやジャージーも飼って、いろんなタイプの牛乳を作りたいですね。ブラウンスイス30%、ホルスタイン50%、ジャージー20%といった具合に、好みに合わせたミルクカクテルやソフトクリームを販売して、味を比べてもらえたりしたら面白いと考えています」
たくさんの消費者に牛乳の美味しさを伝えて、酪農という仕事を理解してもらいたいと語る南さん。そのためにも牛舎の衛生管理が大事だと言います。
「牧場を見学する消費者の方が汚い牛舎を見たら、牛乳を飲みたいと思わないでしょう。だから明治さんの環境美化や認定取得にも取り組んでいきます。同時に業務の効率化、システム化をさらに進めて、長時間拘束される辛い仕事という先入観を払拭したい。父が誇りをもって続けてきた酪農という仕事が魅力的に見えるよう、従来の酪農に対するイメージを変えていきたいと思っています」

南さんの目指すニュースタイルの牧場経営が、地域の酪農家に新しい風を吹き込み、将来的に酪農業界全体への追い風を吹かせることになるかもしれません。

今回の取材で見えた「酪農あれこれ」
  • 牛舎にいる時間を短くして、牛を休ませるのも大切な仕事
  • 牛の体細胞率を下げるには、牛舎をキレイにすることが効果的
  • WCSやSGSを使用することで、飼料代を削減できる
  • 乳牛の種類によって乳成分だけでなく風味も様々