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北はるか農業協同組合

取引先とともに

北はるか農業協同組合01

北はるか農業協同組合02

北はるか農業協同組合
場所:北海道中川郡美深町
創業:2003年5月1日
活動地域:下川町、美深町、音威子府村、中川町

北はるか農業協同組合03

「高品質乳生産の匠」-酪農の『いま』と『これから』を考える-

稚内と旭川の中間あたりに位置する、道北のまち美深町。同地区で出荷される生乳の多くが、明治「おいしい牛乳」の原料として利用されているため、酪農家の方々は品質への強いこだわりを持っています。 一方で、後継者不足、酪農経営難などの全国の酪農家が抱えている課題にも直面。今後の酪農の在り方が問われる中、同地区では酪農経営改善のため関係機関が集まって作る農家支援チーム、通称「高品質乳生産の匠」を設立。『立場の異なる酪農関係機関が一丸となり、酪農の現在と未来を真剣に考える』そんな取り組みについてお話を伺いました。

酪農関係機関の協力体制確立が、業界全体の課題解決の糸口に

上川地区農業協同組合長会会長 北はるか農業協同組合代表理事組合長 中瀬省さん

上川地区農業協同組合長会会長
北はるか農業協同組合代表理事組合長 中瀬省さん

酪農・畜産を中心としたJA北はるか管内の平成29年現在の酪農家戸数は、美深・音威子府地区に40戸、下川地区に24戸、そして中川地区に24戸の合計88戸。この5年間で17戸も減少しています。経営者の高齢化と、若者の担い手減少による後継者不足の問題が、酪農の地にもふりかかっています。この現状を受け、美深地区では生産者自らが立ち上がり、2003年から世襲に頼らない「居抜き継承」を推進する組織を設立。牛舎や牛はもちろん、住宅までも引き渡し、新規就農者を後継者とした受け入れを推進しています。
総合的な知識や技術が必要とされる酪農の仕事は、高い専門性が求められ、新規就農者の育成においては経験者からの知恵が引き継がれることが最も重要です。そこでJA北はるかは、第4次農業振興計画において「担い手対策室」を設立。後継者について悩みをもつ酪農家からの相談、新規就農者の募集・受け入れから就農後のフォローアップまでをワンストップでできる体制を整備しました。
まず酪農家に事前に行ったアンケートから、離農予定の酪農家をデータ管理。道内の他地区で実習を受けた人や都府県、酪農関連学科がある大学や高校まで広く募集を行い集まった新規就農者との効率的なマッチングを図り、現在までに7戸の受け入れに成功。後継者育成では道内でも随一の成果を上げています。
ただ手放しで喜んでばかりはいられないようです。JA北はるか組合長の中瀬省さんは言います。
「新規就農の方たちは、憧れが強い反面、挫折も大きい。我々はそんな時の心の支えになるような体制づくりを目指しています。これまでに新たな仲間の受け入れに成功してきてはいますが、まだまだ生産基盤は盤石とは言えません」
さらに「家族経営が中心の酪農経営ですが、今後は酪農ヘルパー員などを柔軟に導入し、労働力の軽減や休日の確保にむけての課題にも取り組む必要があります」と次なる展望について語ってくれました。

北はるか農業協同組合 常任理事 渡辺幸一さん

北はるか農業協同組合 常任理事渡辺幸一さん

搾乳、清掃、飼料配合、餌やりといった酪農家の日々の代表的な仕事は、各酪農家がおおよそ同じタイムスケジュールで行っています。
そのため、農家間の横のつながりは意外に少なく、隣の酪農家が実施している仕事の効率化や乳質改善のためのちょっとした工夫などを知る機会はあまりないとのこと。そこに一役買ったのが、「高品質乳生産の匠(以下より『匠』)」でした。
「自分のところで当たり前だと思っていたことが、隣の酪農家では違うのだということを『匠』の取り組みを通じ知ることができるようになります。関係機関の動きによるところも大きいですが、以前に比べて格段に酪農家同士の情報共有がしやすくなったのは良かったですね」というのは、常務理事の渡辺幸一さん。これまでは、JAをはじめ、飼養管理や施設面の知識・技術支援を担う農業改良普及センター、農業共済組合の獣医師などの関係機関が、各々の立場でそれぞれにサポートを行ってきたため、同じ事柄に対してのアドバイスにも統一性がないなど、酪農家の判断を惑わせることもあったそうです。
「『匠』をきっかけに、関係機関の間で考え方や思いが一元化され、整理された情報を提供できるようになりました。そのおかげで今では、『正すべきことや気にしなくていいことの優先順位付け』が酪農家に伝わりやすくなったように感じます」といいます。

酪農家の生の声から見えてきた、「意識改革」の重要性

北はるか農業協同組合 営農販売部 畜産課 課長 渡辺博紀さん

北はるか農業協同組合
営農販売部 畜産課 課長渡辺博紀さん

夏でも冷涼な気候で、暑さに弱い牛が過ごしやすい美深町。
一方で冬期は積雪が多く、気温は氷点下20度近くになるため、冬は人にも牛にも過酷な気候環境です。
北海道らしい特徴としては、1戸あたり40~50ヘクタールもの広大な農地面積を活かした、自家粗飼料作りがあげられます。「良質な粗飼料が、牛の健康を維持する」という考えのもと、JA北はるかと上川農業改良普及センターは、2012年から草地の植生改善に取り組み、2013年からは畜産経営支援チームを立ち上げ経営改善に力を入れてきました。抜本的な経営改善を考えたとき、課題として浮上したのが乳質問題。上川地区の乳質向上のためには、地域で一番の乳量を占めるJA北はるかの品質向上が不可欠だと考えられたのです。
そこで2016年に、乳質改善をテーマに立ち上げられたのが「高品質乳生産の匠」という仕組みです。立ち上げ当初は農業改良普及センターの前係長が中心となり、行政、JA、農業共済組合の獣医師、そして明治で構成されました。
「明治さんに生乳の基礎についての勉強会をしてもらったり、これまで外部に開示してこなかった農家ごとの生乳や乳牛の検査成績を共有したりすることから始めました。柔軟な発想で発言できる関係機関の若手を中心に多くの意見を収集し、『乳牛を取り巻く環境と搾乳の衛生化を図り、乳牛を健康に飼い高品質乳を生産することで乳代を確保する』、つまり病気で生乳を出荷できない乳牛を減らし、生産性を上げることで経営改善につなげることを目標に掲げました」と話すのは、JA北はるか畜産課課長の渡辺博紀さんです。
しかし、目標は立てたものの、どのような取り組みをしたらいいのか悩んだといいます。そこで、共済組合の獣医師の発案で、全酪農家へのアンケートを実施。まずは美深地区全40戸の現状把握することからでした。若手から意見を吸い上げ、獣医師さんにそれらを見てもらい、酪農家はどんな気持ちで搾乳しているのか、悩みや課題などをすべて吐き出してもらえるようなアンケートを作成し、それぞれの関係機関が手分けして、アンケートを100%回収し、酪農家の生の声を集めました。
同時期に明治からは匠チームの目標とマッチする事例として、千歳市で実施されていた『生乳処理室美化大作戦』を紹介しました。「そこから一気にチームの動きが加速したように思います。こういった取り組みが、『匠』のターニングポイントとなりました」と渡辺さん。

上川総合振興局 上川農業改良普及センター上川北部支所 専門普及指導員 森 光生さん

上川総合振興局 上川農業改良普及センター上川北部支所
専門普及指導員森 光生さん

アンケートの結果から意識改革の必要性に改めて気づいた関係機関は、改革への一歩として、『匠』のメイン活動を生乳処理室の美化活動と決めました。
現場では、施設面で知識を多くもつ普及センターが中心となり作業を行います。作業はまず、生乳処理室にある器具類などを一度すべて屋外に出すことからスタート。外に並んだものを眺め、「こんなにあったのね」と驚く酪農家もいました。
衛生面を改善し、作業の効率化を図ることはもちろんですが、この活動の本質は乳質改善のために必要な「意識改革」にあると、農業改良普及センター専門普及指導員の森光生さんはいいます。もちろんバルク室がきれいになったからといって、乳質改善に即つながるわけではありません。とはいえ美深地区で生乳の生産に携わる全員が、衛生的な環境の必要性や乳質に対する考え方を同じにすることは、乳質改善に向けて前進するために必要な過程だったと考えているそう。
「1度きれいにした酪農家さんのバルク室が、次に訪問したときにも保たれていたら、前向きになってくださっているのかと、嬉しくなりますね」。
この考え方は、1年半の活動を通し、『匠』チーム内でも広く理解が得られたそうです。経営改善に対する考え方が統一されたことで、酪農関係機関が立場を超え一丸となり、それぞれが抱える課題解決に取り組むことができるようになったのです。
「なによりも明治さんを含めた関係機関同士の強いつながりがつくれたことが大きな成果でした」と渡辺(博)さんはいいます。

酪農家と消費者の橋渡し役を担い、乳質改善の重要性を伝えていく。

北海道酪農事務所 北海道酪農課 課長(取材当時)

北海道酪農事務所 北海道酪農課 課長(取材当時)
多田佳由

北海道における生乳の生産量はおよそ380万トン。 これは日本で生産される量の半分以上を占めています。そのうち90万トンもの量を、明治酪農部の北海道酪農事務所に所属する4人の社員で取り扱っています。JA北はるかとのつきあいに関し、「当初は敷居が高かった」と北海道酪農課 課長(取材当時)の多田佳由はいいます。「札幌と帯広の2か所に担当を配置しているとはいえ、広大な北海道では酪農家やJAへの巡回も1日仕事です。加えて1日あたり2,000トン以上の牛乳を扱っているのだから、1軒1軒きめ細やかに乳質改善・価値向上の支援を行うことは困難でした」
酪農が産業として確立している北海道は、JAの組織力が非常に強く、設備も整っているのが都府県では見られない特徴です。消費者の声を届けるには敷居が高く、当初はなかなか入り込めずにいました。そこでまずは『おいしい牛乳』の主要エリアからでも価値向上に向けた取り組みを推進していきたいと考えていたところ、JA北はるかさんから、乳質改善についてのご相談を受けました。
「それなら農家さんと個別に話をして、足りないところを補いましょうということで、意見が一致しました。そこからJA北はるかさんとの密な連携が始まりました」と多田。
JAや普及センターにとっても、自らが立ち上げた『匠』で酪農家に乳質改善フォローを実施するためには、技術経験やノウハウ的な明治のサポートが必要だったのです。

北海道酪農事務所 課長補佐 山崎雅宣

北海道酪農事務所 課長補佐山崎雅宣

乳業メーカー側から酪農家を訪ねると、「クレームに来たのでは…」と反発や警戒心を持たれてしまうこともしばしば。そういった壁をいかに払拭できるかが、『匠』に参加するうえでの最初の関門だったと北海道酪農課の山崎雅宣は振り返ります。
「とにかく我々は、酪農家の最初の直接消費者として、垣根を取り除いて一緒に良質な生乳を作っていきたいと伝え続けました」
当初は、『匠』の取り組みである生乳処理室の美化が、乳質改善にどう関係するのかという酪農家からの意見も少なくありませんでした。そこで、製品化してお客様にお届けしているからこそ知り得る、消費者のニーズなどをお話しし、酪農家と消費者の橋渡し役を担いながら良質なものを作る意義を誠心誠意伝えたといいます。
「確かに生乳処理室をきれいにすることや、整理整頓などの活動は、乳質改善に即効性はありません。しかし、消費者に、『この牧場で作られた牛乳を飲みたい』と思ってもらえるような、衛生的で整理が行き届いた環境の必要性を理解していただくことが重要だと思っています」
『匠』では、口でお伝えするだけでは真意をご理解いただくことは難しいと考え、行動で示すことにしたといいます。実際にきれいにすることの気持ちよさを実感してもらうとともに、美化活動のbefore&after写真を勉強会の場で提示するなどし、環境改善の必要性について理解していただくことにも努めています。
「このような地道な啓蒙活動を続け、『匠』の取り組みに積極的かつ自主的に取り組む意識が根付いていけばと考えています」

すべては「高品質でおいしい牛乳」づくりのために。今こそ意識を1つに。

北はるか農業協同組合集合

酪農という産業は、同エリアの各酪農家から生乳を集めて工場に出荷し、すべてをまとめて製品にするものです。他の農産物のように一酪農家の生産物だけで完結できないのが酪農の最大の特徴です。これが意味することは、地域とのつながりを無視して牛乳の価値向上は実現しないということです。
「まわりの酪農家の品質が上がったら、『自分もやらないと、足をひっぱっては恥ずかしい』という機運が美深地区全体で高まれば良いと思っています」と多田はいいます。一酪農家の努力が地域全体の士気向上につながり、各酪農家に波及効果をもたらした結果、乳質改善、ひいては酪農家の経営改善につながるという、好循環の方程式が理解され、それを取りいれてもらうことが明治の今後の展望です。
「ゆくゆくは我々の介在がなくても、酪農家さんやJAが主体となったチェックシステムや、勉強会などの啓蒙活動が企画されるようになったらいいなと思います」というのは山崎です。
一方、渡辺(博)さんは『匠』の取り組みについて、数値的結果を出すことが短期的目標だといいます。
「今はまだ意識改革のフェーズであり、結果を出せているとは言い難い状況です。今後は体細胞減少など数値として顕著な結果を追求したいですね」
そのためにも次のステップとして、乳牛の飲み水の水質や牧場設備の再点検、牧場全体の環境美化なども行っていきたいそうです。
「長期的には、この取り組みが道内の他地域にも波及していけばよいと思っています」。
今後EPA(経済連携協定)が加速すると、ヨーロッパからチーズなどの乳製品輸入が増加し、国産の生乳には「高品質とおいしさ」が今以上に問われます。今こそ「高品質で風味の良い生乳」を標榜する産地にふさわしい、盤石な生産基盤を固める時期です。
こういった外部要因対策の第一歩として、乳質改善に真摯に取り組むことが有効な手立てとなります。そしてなによりも、廃棄乳減少につながる乳質改善こそが、酪農経営改善の最善策。また、酪農経営の改善が急がれる美深地区においては、家族経営中心の経営スタイルの脱却、共同体としての生産体制の確保、中規模酪農家によるロボット搾乳等のシステム導入など解決すべき課題は少なくありません。
こうした課題に向け、酪農関係機関の思いをひとつに重ねた『匠』の奮闘は始まったばかりです。美深地区ひいては北海道酪農全体の価値向上を目指し、JA北はるかは邁進し続けます。

今回の取材で見えた「酪農あれこれ」
  • 後継者対策には、離農予定の酪農家をデータ管理することが有効。
    新規就農者とのマッチング効率がアップ。
  • 乳質改善を行うことで生産性が上がり、コスト削減、酪農経営改善へとつながる。
  • 乳質改善を推進するためのファーストステップは「意識改革」。そのためには乳質改善の「重要性の理解」を促すだけでなく、実際にその効果を「実感」してもらうことが大切
  • 「高品質でおいしい生乳」をつくるのに重要なのは酪農関係機関が一丸となり関係者間の意思統一を図ること