取引先とともに

堺酪農団地1
堺酪農団地2堺酪農団地3

古くから商業都市として栄えきた大阪府堺市。その南部に広がる丘陵地帯に、12戸の牧場からなる「堺酪農団地」があります。1971年の泉北ニュータウンの開発計画をきっかけに、消費地に近い生産地として、また安定した酪農経営実現のためにスタートしました。この全国でもめずらしい酪農団地の現状と、未来へ向けた取り組みについてお話を聞きました。

地域と共存する近郊酪農かつ集団での酪農

組合長

堺酪農組合 組合長 小西亨さん

泉北ニュータウンの最寄駅、泉ヶ丘駅から車で約20分。住宅地にとても近いところにある堺酪農団地を訪れると、その広さに驚かされます。堺酪農団地の敷地は、東京ドームのおよそ6個分(約28万㎡)。この広い土地と牧場の建物管理、酪農業をサポートしているのが堺市畜産農業協同組合です。そこで組合長を務める小西亨(酪農家)さんに、組合の活動についてお話を聞きました。

「協同組合では、団地内にある施設の管理やエサの一括購入をしています。一括購入をすることで、個々で買うよりもコストを下げることが出来ます。また、牛の糞尿の処理についても、共同施設で処理をしています。個体にもよりますが、平均すると牛は毎日40~50キロもの糞と20~30リットルの尿を排泄します。酪農家にとってはこの糞尿の処理こそ苦労する点ですが、ここでは施設を共有にすることで大規模かつ、より効率的に処理することが出来ます。さらにここで処理した糞尿は良質なたい肥として、近隣の農家へ提供しています。他にも、最新の搾乳技術などの講習会を年2回ほど開催し、団地内で情報共有をしています。酪農家が1カ所に集まっていることが、酪農団地ならではの強みですね」

堺酪農団地では合理性を高めるために、牛舎の仕様なども統一されています。酪農団地がスタートした当初は、近郊酪農の新しいスタイルとして画期的な試みだったと誇る小西さん。その設立当時から明治とは深く関わっていたそう。 「もともとは今の市内に位置する場所に、我々酪農家は散在していました。そこから、この酪農団地へ移転してきた訳ですが、その時にも乳牛の飼育法や飼料に関わること、設備に関するアドバイスなど、明治さんにさまざまな形で支援いただきました。また今では、この堺酪農団地の全戸が、明治さんに出荷しています。そのため『明治さんに出して恥ずかしくないレベルの生乳を搾るんだ』というモチベーションにつながっています。明治の歴代の担当者さんは、みなさん気さくな方が多く、こちらも気軽に相談ができ、いい関係を築いてきました」。

人も牛もムリをしないこと。じっくりと牛たちに向かい合う。

酪農家1

前田拓哉さん

次に、この小西組合長と同様、堺酪農団地で実際に酪農を営む、前田拓哉さんにもお話をお伺いしました。

お父さんと二人で牧場の仕事をこなす前田さんの牛舎には、現在62頭ほどの牛がいます。初代である前田さんのおじいさんもやはり、泉ヶ丘周辺で酪農していたそう。そしてこの酪農団地へ移った当初から、組合や明治から助けてもらったのだと前田さんは言います。「牛舎の設計や管理、団地としての運営についても、明治さんから色々とアドバイスをもらって、今の牧場の形ができたと父から聞いています」。現在の牛舎のスタイルも、そういったさまざまな人からのアドバイスによって確立されたそう。

「この酪農団地では、牛舎に大型の換気扇をとりつけ、常に風を送っています(トンネル換気)。牛は暑さに弱い訳ですが、やはり大阪は三方山地に囲まれ熱がこもりやすく、牛にとって辛い環境になります。しかし、この換気扇をつけたことで、夏場に起こっていたトラブルが非常に少なくなりました」そう前田さんが言うように、牛舎の天井にはビニールシートが貼られ、空気が効率よく流れるよう風の通り道が作られていました。また天井にシートを貼ることで、牛舎の天井上に溜まった熱気が下に降りにくくなるのだそう。前田さんはさらに説明を加えます。「この換気によって、これまで牛を悩ませてきたサシバエも風で飛んでいきますし、一石二鳥です。また、私の牛舎では明治さんからのアドバイスで、夏になると朝顔のグリーンカーテンが出来るように、育てています。牛舎の断熱効果にもなりますし、見た目にもキレイで良いですね」。

牛舎1換気扇 牛舎2

そんな前田さんが酪農業をする上で心がけているのは「無理をしないこと」。「牛の世話は毎日のことですから、無理を重ねたら体がもちません。また、うちでは人だけでなく、牛たちにも無理をさせないようにしています」と牛を撫でながら、前田さんは朗らかに言いました。前田さんに伸び伸びと育ててもらったおかげか、ここの牛たちはとても人懐こく、牛舎に訪れた見慣れない私たちに興味津々で鼻を近づけてきます。
前田さんの言う「人が無理をしないこと」。例えば、前田さんは朝、牛たちの面倒を見てエサをあげると、牛たちが食べている間に一度自宅まで戻り、自分も朝食を摂ります。夕方のエサやりの時も同じです。焦らず人も牛もゆっくりご飯を食べます。

酪農家と牛

また、「牛にも無理をさせないこと」。「愛情を持って接すること」。それらを第一に考え、牛たちを大事にすることが酪農を続けるにあたり大事なことだと前田さんは話します。

「どんな牛であっても、初めてのお産の時には不安を感じます。そういった時は撫でてやって落ち着かせたりしています」。そう話す前田さんから、牛への深い愛情を感じることが出来ました。牛たちがストレスを感じることなく、快適に過ごせるように。じっくりと、前田さんは牛たちに向き合っていました。

明治の関わり

酪農家2

西日本酪農事務所 関西酪農課
山崎雅宣

「堺酪農団地を担当するようになって私は3年が経ちますが、こちらは明治との関わりが長く、深いつながりがあり、これまで経験してきた地域とは異なり、関係性がとても濃い感じがします」と語るのは、明治の関西酪農課、山崎です。関西酪農課は現在、2府4県を3名で担当していますが、中でも山崎は酪農家や組合への訪問に力を注いでいます。 「堺酪農団地では、それぞれの酪農家さんがしっかり品質の管理をしているので、乳質のトラブルはあまり起きません。消費地にも近く、また団地内の牧場で搾られた生乳は、近畿生乳販連を通じ、全て明治の工場へ搬入されるなど、私たちとの関係性も深いため、みなさん出荷への責任をとても意識してくださっている気がします。その結果、安心・安全と高い品質を生むことにつながっています」と山崎は言います。

また山崎は、月に一回程度は団地内の各牧場を訪問し、乳量や乳質のデータを届けています。「酪農家の方々と信頼関係を築くためには、電話やメールではなく、顔を合わせた直のコミュニケーションが大切だと思います」そう山崎が言う通り、清掃や草刈りといった酪農団地内での共同作業にも頻繁に参加しています。前田さんも「明治さんはこの前のボウリング大会にも、来てくれましたよね」と加えます。親睦を深める家族ぐるみのイベントにも、積極的に参加。そういった信頼関係の積み重ねもあり、酪農団地の方々は、明治が今推進している牛乳の価値向上取り組みにも好意的です。

「訪問してお話をしますと、皆さん熱心に話を聞いてくださるので、担当者としてやりがいを感じています。こちらは、昔から当社との関係が深く、また都市近郊でこれほど多くの牧場が集まり、効率的に酪農を営んでいるところが他にないことからも、当社の若手が逆に学ばせていただく場にもなっていました。堺酪農団地の皆さんの酪農に取り組む姿勢も高く、私たちも新しい提案をしやすい環境が整っています」そう熱を帯びて話す山崎の心には、これからの期待が満ちているようでした。

これからの挑戦。つなげる歴史と、広がる可能性。

酪農家集合

国内でも珍しい、この都市近郊型、かつ集合酪農である、堺酪農団地。しかし、設立から50年近い歳月が流れ、社会や市場の環境が変わっていく中で、堺酪農団地も転換期を迎えています。設立当初は23戸あった牧場も、いまでは12戸と約半数まで減ってしまいました。

しかし、組合長の小西さんは未来に希望を持っています。酪農団地に移転して3代目になる若い人たちの中に、牧場の規模拡大をしたいという声が挙がっているからです。 「今3軒の牧場から、飼育する牛をもっと増やしたいという希望が出ています。これまでは『平等・公平』を原則としてサポートしてきましたが、何が本当の『平等・公平』なのか…。やる気のある若い人たちの熱意を消さず、伸ばすことこそが、原則にのっとっているのではないか、と思い直しました。組合としては、希望を出来るだけ支援していく予定です。また、この3代目たちの想いに刺激を受けて、その後に続く酪農家が出てくることも期待しています」と微笑む小西さん。規模拡大に向けた新牛舎の設計や飼料の検討、効率化・省力化を高める新しい機器の導入など、明治からの情報提供とともに取り組みを進めている、と小西さんは言います。

また、前田さんもこれからについて、こう語ります。「この堺酪農団地を守っていくためには、後継者を育てていくことはもちろん大切ですし、残っている各牧場がもっとたくさんの生乳を生産できるようになることも重要だと思います。今、私の牛舎の隣も、引き継ぎ手がおらず、牛舎が空いてしまっています。そこで、その牛舎を活用して、牛の数を今の倍まで増やし、生乳の生産量を高めたいと考えています」そのためには、ロボットによる搾乳やITの利用なども視野に入れていると話す前田さん。牧場の、酪農団地の未来に向けて着実に歩みを続けていました。

また、小西さんはこうも語ります。「地域と共存し、価値を伝えていくことが、これからの近郊酪農の大きなテーマになると思っています。いつかは、消費者の方が気軽に見学できる酪農団地にしていきたいですね。これまでも毎年、市民のみなさんとの交流のために堺酪農団地の一角でイモ掘り大会をしていますが、できれば牛舎の中まで来ていただき、どんなことをしているのかを見てほしい。牧場を身近に感じてもらえば、今の酪農のさまざまな問題の解決の糸口になるはずです。単純な『価格』だけの判断ではない、『価値』につながっていくと思っています」。

小西さんの話に、山崎も付け加えます。「消費者の見学を受け入れた時なども、食品を生産する場所として安心してもらうために、是非これからも牛乳の価値向上取り組みを推進して欲しいです」。

都市近郊の身近な産地として、堺酪農団地の可能性は広がっています。酪農業界全体の価値向上のためにも、先輩たちの築いてきた酪農団地をより良い形で未来に引き継ぐためにも、三者の奮闘はこれからも続いてきます。

今回の取材で見えた「酪農あれこれ」
  • 酪農団地は、エサ代を抑えられるなどのスケールメリットがある
  • 牛の糞は平均で1日40~50キロ(日本女性の平均体重と同等)※
  • 牛舎を大型換気扇で換気する場合、天井にビニールシートを貼り風の道を作ると効率的
  • 牛舎にグリーンカーテンを作ると、断熱効果と外観美化になる

※厚生労働省「身体状況調査」結果2015年より抜粋