取引先とともに

宮田牧場1
宮田牧場2宮田牧場3

豊かな自然と美しい景観に恵まれた長崎県は畜産業が盛んで、農業産出額のうち約31%*を肉用牛や牛乳などの畜産物が占めているほど。今回訪問した宮田牧場は、島原半島・雲仙市の国民休暇村のほとりにあります。およそ50年前に先代が数頭から始めた牧場を引き継いで、新しい試みに積極的に取り組んでいる2代目の宮田耕介さんにお話を伺いました。
*長崎県畜産部 畜産環境情報 第54号より

乳質の追求が、新しいものへ挑戦する原動力

酪農家1

宮田耕介さん

長崎県は面積の約4割を小さな島々が占めており、内陸部に平地が少ないため、比較的小規模な牧場が多いという特徴があります。丘陵地の多い地域で畜産とともに盛んなのが、全国2位の生産量を誇るジャガイモ作り*。痩せた火山灰の土地で農作物を育てるためには肥料が必要です。そこで大きな役割を果たしているのが酪農などの畜産業です。牛の寝床に使ったワラやおがくずを糞尿と混ぜて作る堆肥が、有機栽培農家の味方になってくれるのです。耕作に適した平地が少ない長崎県においてこれだけ畑作が行われているのは、畜産業との連携など生産者の知恵と工夫にあるのかもしれません。今回、訪問した宮田牧場も、乳質にこだわり、積極的に設備の導入や新しい取り組みを行っている意欲にあふれた酪農家です。雲仙市では兼業する酪農家が多いなか、ご両親と宮田さんご夫婦の家族4人は、専業で牧場を営んでいます。

「中学3年で進学先に農業高校を選んだ時には、牧場を継ぐことを決めていました。ずっと父親と一緒にやってきて、牧場経営のイロハは父から学びました」と語る宮田さん。品質に対するこだわりと牛への愛情は昔から変わらず、新しいことに率先してチャレンジし、南高地方酪農業協同組合でもリーダー的な役割を果たしています。2015年には明治が行っている「良質乳生産牧場」の第3認定を取得しました。 「ウチはずっと一頭ずつ区切って繋ぐ、つなぎ牛舎のスタイルでやってきました。柵の位置は通常より前に出して、牛の大きさや体調によって少しずつ広さを変えています。牛の首を楽にしてやることで、ストレスを減らせますから。柵を前に出したのは、10年くらい前に明治さんからアドバイスしてもらったからなんですよ」と牛をなでる宮田さん。体調を崩した牛のために、リハビリ用のスペースを設けるなど、牛たちの健康管理には、きめ細かく配慮しています。 種付けのために福岡から月に一度、繁殖専門の獣医に来てもらうのも、宮田牧場ならではのこだわりです。10年以上前に、種付けがうまくいかなかったことがきっかけで、それ以降ずっと続けており、繁殖専門の獣医に検診を受ける牧場は、あまり例がないそうです。卵巣の状態から牛の健康を診てもらい、必要があればエサの配合や回数を調整します。宮田牧場のエサは、牧草や配合飼料をミキサーで混ぜて与えるコンプリート方式(TMR)。組合の中では少数派ですが、これも長年の経験を踏まえた結果だそう。エサの配合にも、独自の工夫が活かされています。

牛舎1クールパット TMR

雲仙市の酪農家にとって悩ましいのが、暑さ対策です。夏の猛暑日には牛舎内の気温が36℃以上となり牛が体調を崩し、一頭あたり3~4キロも乳量が落ちてしまうそう。多くの牧場が牛舎の入口と出口に扇風機を設置したり、細霧装置を使ったりしているなか、宮田牧場では2014年にクールパッドという新しい設備を導入しました。これは、ポンプで水を汲み上げて、気化熱で冷やした空気を牛に送るものです。それぞれの牛に対して直径5センチの送風口が設けられ、首筋に冷風があたるようになっています。牧場のある高地は直射日光が強いため、6月から10月の終わりくらいまで牛たちを冷やさなければなりません。クールパッドの効果については、もう少し様子をみないとわからない、と宮田さんは言いますが、牛たちの元気そうな姿が、快適な環境を物語っています。

牧場の仕事で、何が一番大変ですか?という問いに、「とにかく全部が大変ですよ」と笑って答える宮田さん。トラブルが起こったときには、近隣の酪農家とのネットワークが頼りになると言います。 「近所に同じ酪農家の仲間がいるからお互い助け合えるし、悩みを相談することもできる。南高地方酪農業協同組合は一体感が強いと思う。牛がお産で子宮捻転になったときには、近くの牧場から若い衆が駆けつけて、子宮のねじれを戻すために牛を転がす手伝いをしてくれます。そういう仲間がいるから、酪農の仕事が楽しいし、困ったことがあっても乗り越えていけるのです」という宮田さん。地域の消防団の分団長も務めています。地域の繋がりを大事にするため、会合などで牧場を留守にする用事が増え、家族で対応しきれないときはヘルパーや組合のネットワークに助けられることもあるとか。明治をはじめとする外部のパートナーとの連携や情報交換も重要で、クールパッドなどの新しい設備についても、業者から教えてもらったことが導入のきっかけになりました。常に新しい試みに取り組む宮田さんの柔軟な姿勢が、同じ道を歩む仲間たちを惹きつける力になっています。

「この先しばらくの間は牧場の規模を拡大するつもりはありません。牛を増やせば作業量も増えてしまう。ある程度時間に余裕がないと牛たちの管理も難しくなります。乳質にもこだわっていきたいから、これくらいがちょうどいい」という宮田さん。今は量よりも質の追求に力を注いでいて、牛たちの健康だけでなく、エサとなる牧草を購入する際にも品質のチェックを欠かさないそうです。サンプルを取り寄せるだけでなく、LINEで事前に写真を送ってもらい、色を確認します。素人には見分けがつきませんが、宮田さんは色で牧草の質がわかるそう。これからは、そうしたスキルを後進に伝えていくのも、宮田さんに求められる役割になるのでしょう。

*農林水産統計 28年12月6日に公表

明治との関わり

酪農課1

西日本酪農事務所 九州酪農課
加藤浩晶

宮田牧場をはじめとする南高地方酪農業協同組合の酪農家をサポートし、品質の管理を行うとともに西日本全体の需給調整を行っているのが明治の九州酪農課です。担当の加藤浩晶係長に話を聞きました。
「明治と南高地方酪農業協同組合さんとのお付き合いは長く、20年以上前からとても良い関係を築いています。組合の中でも宮田さんは非常に勉強熱心な方で、驚かされました。自らさまざまなルートで牧場経営や設備投資に関する情報を集めて、先進的な技術を取り入れ、実行していく力は本当にすごい。宮田さんから教わることも多くて、私たち自身も大いに刺激を受けています。『良質乳生産牧場』の認定取得にも進んで手を上げてくださって、組合全体をリードしていただいております」
と話す加藤は、明治が2009年に始めた牛乳の価値向上取り組みの一環として、認定取得を推進してきました。今年になって、最後に残っていた牧場が第2認定を取得した際に、組合長から「加藤君が何度も足を運んでくれたから、みんなが認定を取れた」と言われたことが、九州に赴任して最もうれしかったそう。

その加藤とともに長崎県を担当しているのが、酪農課では数少ない女性社員の服部美乃里です。「かつての自分がそうだったように、スーパーで牛乳を買う消費者の方々は、牛乳の製造・流通の工程を知りません。酪農家のみなさんも、自分たちが搾乳した生乳がどこで、どのように販売され、消費されているのか、よくわかってないことは一つの課題です」と話す服部。酪農課2西日本酪農事務所 九州酪農課
服部美乃里
加藤と二人で、酪農課として美味しい牛乳を消費者に届けるためには、どうすればいいのか?というテーマに日々向き合います。

「生産者と消費者の中間にいる私たちが、黒子として橋渡し役を務める事が重要です。まず消費者の想いを酪農家へ伝えること。そして酪農家の取り組みを消費者へ伝える。双方を繋ぐことで、もっと牛乳の価値を高めて、市場の活性化に貢献できると考えています」。生産者と消費者に対して、サプライチェーンを「見える化」する。そのための方法論は、他部門と連携して考えなくてはならない、と加藤は言います。

二人三脚で酪農家の理想形を目指す

酪農家集合

加藤は、牛乳の価値向上取り組み推進のため、長崎の酪農家全130戸を訪問しました。これによって、宮田牧場をはじめとする南高地方酪農業協同組合の酪農家が、積極的に認定取得を目指す動きや、勉強会の開催など、牧場間のネットワークが強化され、地域酪農の活性化実現の第一歩になったそうです。宮田さんは、活気あふれる組合活動を喜び、できる限り協力したいと言います。
「世代交代が進んで、20代~30代の酪農家が増えたことから、若手を中心とした勉強会が活発に行われるようになりました。とてもいいことだと思います。自分もどんどん参加して、一緒に新しい知識やノウハウを吸収したい。まだまだ若い人たちには負けられません」と目を輝かせる宮田さん。さらに、明治九州酪農課のサポートにも期待を寄せています。組合と明治が共同で制作を手がけた子牛飼養マニュアルや、明治グループの強みを活かしたサシバエ対策が成果を上げているからです。南高地方酪農業協同組合にとって、明治と二人三脚で行う牛乳の価値向上取り組みは、これからますます重要度を増していくでしょう。
後継者問題をはじめ、さまざまな要因から厳しいといわれる酪農を取り巻く状況において、明治の九州酪農課と南高地方酪農業協同組合の関係は、一つの成功例として実績を築きつつあります。
「こうした関係を広げるために、長崎県で実施した酪農家の全戸訪問を他県でも実施したい」と語る加藤。宮田牧場を中心とした南高地方酪農業協同組合が進み続ける先には、明治が目指す酪農家の理想形があるのです。

今回の取材で見えた「酪農あれこれ」
  • つなぎ牛舎の時、顔側の柵を前に出すと、首が楽になり牛に優しい
  • ミキサーで作るコンプリート方式のエサは牛の偏食を防ぐ
  • 牛は暑いと乳量や繁殖力が落ちるので、酪農家は暑熱対策が必要
  • 気化熱を利用したクールパッドなど扇風機以外にも、
    暑熱対策の工夫がみられる