ステークホルダーとともに

井畑牧場1
井畑牧場2 井畑牧場3

井畑牧場は冬は雪に囲まれる、青森県南部の三戸町にあります。初代がたった1頭の牛から始めたという牧場は70年を経て、48頭の牛を飼育するまでになりました。水稲とにんにく、牧草づくりと米畑との兼業に追われながら、家族で力を合わせて酪農に取り組んでいます。その中で牧場経営を主に担当している、四代目の井畑育子さんにお話を伺いました。

良いと思ったことはどんどん取り込む。忙しくとも、トライしていきたい。

酪農家1

井畑育子さん

井畑牧場の牛舎の屋根は、傾斜が急になっています。傾きを急にすることで、屋根に積もった雪が自然と落ちるようにしているのだとか。また、屋根を支える柱が鉄筋で出来ているのも、時に雪が高く降り積もる地域ならではの特徴です。そんな厳しい寒さの青森で、井畑牧場は3世帯7人のご家族で営まれています。また、酪農だけでなく水稲やにんにくづくりといった畑作、さらに牧草やサイレージ(発酵させた飼料)づくりまで、精力的に働かれています。水田の広さは約9ヘクタールもあり、春先から秋の収穫までは農作業にめまぐるしく追われながら牛の世話をしているとのことでした。

「春になるとすぐに、田植え可能な大きさまで稲を育てる『苗代』(なわしろ)づくりが始まります。うちでは、毎年3,000枚の箱育苗を用意しています。農業も相手は生き物ですから、成長時期や季節に応じたさまざまな作業を、短期間でこなしていく必要があります。このタイミングでこの作業をしたい、と思っていても、他にも作業が多くあり、分かってはいてもなかなか出来ないことも多いんです。家族みんなで力を合わせて、それぞれのベストのタイミングで予定通りに仕事を終えることができた時は、本当にとってもとっても嬉しいです」と話す井畑さん。

春先の朝は4時半には起きて仕事が始まりまるとのことでした。しかし、どんなに忙しくとも年間を通して、朝と夕方のエサや搾乳の時間は変えない、と井畑さんは語ります。「こちらの都合で牛たちの食事の時間などを変えて、牛たちの体調を崩したりはしたくありません。何とか家族の間で仕事をやりくりして、いつも同じ時間になるようにしています」と疲労を見せない、朗らかな笑顔で答えてくれました。

牛舎 立入禁止 牧草

また、井畑牧場の牛舎の中に入ると、その明るさに驚きました。それは、牛舎の中が丁寧に白く石灰が塗られているためでした。それについて井畑さんはこう言います。「きっかけは明治さんのDVDです。講習会の集まりで明治さんの映像をみんなで見ましてね。こういった活動(石灰塗布)が紹介されていたんです。そこで、よしよし、と帰ってから家族に相談してすぐにやってみました。石灰には殺菌効果があるそうですし、白いと汚れが目立つので掃除しやすいんです、何より働く私たちが、明るい雰囲気の中で仕事ができるのは気持ち良いものですしね」
また、「天井のほうは高くて塗れていませんし、全体的にもっと丁寧に塗りたかったんですが…」と、更なる意欲を見せる井畑さん。忙しい中でも、お父さんの昭治さんは畜産総合部会長を務め、地域の酪農家のまとめ役もし、JA八戸が主催する勉強会にも積極的に参加。新しい知識を取り入れて、より良い環境づくりに取り組んでいます。常に新しいことへ挑戦を続ける井畑牧場の姿勢が、その牛舎だけ見ても伝わってきました。

健全な牧場経営をサポートしたい。酪農業界の課題を考えた、JA八戸の想い。

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JA八戸米穀畜産課 崩課長

そこで、井畑牧場を含むJA八戸管内の酪農家の方々と明治とをつなぎ、一緒に牛乳の価値向上に向けて取り組んでくださることになったJA八戸米穀畜産課の崩課長にお話を聞きました。

現在、青森県の酪農を取り巻く状況の中で大きな問題になっているのが、「後継者不足」と「酪農家同士の情報交流の減少」とのこと。JA八戸は、7つの市町村に約1万2000人の正組合員がいる協同組合ですが、ここでも、発足当時41戸あった牧場が、今では27戸と年々減っていっている状態でした(2017年3月現在)。また牧場の減少によって、青森の広い大地に牧場が点在することになり、酪農家同士の情報交流がより減ってしまっている、とJA八戸管内の酪農の課題を語るのはJA八戸職員の崩課長です。「酪農家の方が孤立せず、お互いに支え合えるような環境を、どう私たちがつくっていけるのか。JA八戸では、私たちが開催している勉強会や講習会によって、少しでも酪農家さん同士がつながりを深めていただければと思っています。また、明治さんもこの問題意識に共感してくださっていて、講演会を一緒に企画することも多いです。今日もちょうどその講習会でした」。

JA八戸では、その他にも、八戸で生産する牛乳の品質を高めるために、実際の乳の品質検査を行うなどの取り組みを行ってきていました。さらに、より根本的な部分である酪農の「経営」のサポートを進めていきたい、と崩課長は語ります。「家族経営の牧場では、牛を飼育する技術やノウハウは引き継いでいても、『経営』に関してのプロではありません。折角頑張って酪農をしていても、牛たちも元気なのに、なぜだか経営的には上手くいかない…なんてことはなくしたいんです。そのためにも、青森県や関連機関と連携して、酪農家さん毎の経営相談を今以上にお受け出来ればと考えています」と語る崩課長。

会議

また、明治との協力体制にも期待を寄せている、と崩課長は言います。「2016年に、明治さんから『酪農家さんの状況を直接拝見させていただきたい』というご連絡をいただき、私も一緒に初めて全ての酪農家さんを巡回訪問しました。大きなメーカーさんが来るぞ!ということで、酪農家さんたちも普段ない緊張感と、モチベーションアップになったようです。訪問前に、牛舎をすごくきれいにした人もいました。やはり実際に牛乳を買って下さるメーカーさんが、直接牧場まで見に来て下さること、というのはとても刺激になると思います。また、明治さんから他県の情報をいただけることも、ありがたいです」と言う崩課長。今後も連携を深めて、さまざまな活動を続けていきたいと語ります。

明治との関わり

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東日本酪農事務所 東北酪農課
本間純二

青森県で生産される生乳の約半分は、実は明治に出荷されています。そんな関係の深い青森県を含む、広大な東北エリアを担当しているのは明治東北酪農課の4名。日々の生乳生産に合わせて、適切な量の生乳を調達するのが主な仕事ですが、それに加えて、牛乳の価値向上に向けた様々な取り組みを行っています。

「仕事では、人と話をしてばかりいる気がします」と言うのは本間。乳質改善や美化普及のために、酪農家を積極的に訪問しています。「日中は大体外出しています。東北の酪農家の多くが、お米も育てている兼業の方が多いんです。井畑牧場さんもそうですが秋口まではお忙しく、勉強会は冬に開くことが多いです。ですが、酪農家さんへの訪問は、少しでもお時間を頂いて、年間を通じて行っています。」。また、東北地方は広いため、移動の時間も長く、訪問のための前泊や後泊も多いとのことでした。しかし、会うことが重要だと本間は語ります。

「地域ごとによって酪農家さんの状況は全く異なります。さらには、酪農家さんごとでも全然違います。例えば『牧場の美化』と言っても、その捉え方も違います。それぞれの事情を知らないで、一律の情報をお伝えしても、受け入れていただけないと思っています。相手の状況をお伺いして、気持ちを聞いて、それを踏まえて私たちからお伝えするようにしています。崩課長にも、よく八戸の酪農の状況をお伺いしています」。

中でも、良質な生乳を安定調達するための、乳質改善は大変な仕事だと本間は言います。「何か問題が起きた時、エサを見直してもらうなど状況に合わせたアドバイスをします。しかし、これまでのやり方から大きく変えることに、酪農家さんも抵抗があります。そこで、ただ『エサを変えてください』とお願いするのではなく、データで説明して納得していだくようにしています。また、牛は生き物なのですぐには効果が出ないことや、1つの改善では効果を得られないといったこともあります。そういった時も、粘り強く時間をかけて様子を見ながらアドバイスを続けるようにしています。答えが出るまでに、半年から1年近くかかることも珍しくありません。ですが、その取り組みの結果として、繁殖がうまくいったり、牛の調子が良くなったり、酪農家の方に喜んでいただけた時は、本当にうれしいです」そう語りながら笑顔になる本間。

そこには、牛乳メーカーとして長い歴史を持つ明治ならではの知見と、相手を想い、また粘り強く続けることが出来る人柄がありました。

三者が協力することで、地域の牛乳の価値向上をめざす

酪農家集合

明治とJA八戸の協力関係がスタートしたのは2015年。まず、口蹄疫等の伝染病の蔓延を防止することなどを目的に、関係者以外立ち入り禁止の看板の作り直しを一緒に進めました。その後、地域全ての酪農家をJA八戸崩課長と一緒に訪問し、信頼関係づくりの第一歩を踏み出しました。「JA八戸さんとの連携は、とてもいい形で活動を進められていると感じています」と話す本間。

井畑牧場の自主的な取り組みからも、その実感があると本間は続けます。「井畑牧場さんは、とても熱心に牛乳の価値向上の活動に取り組んでくださっていて、『良質牛乳生産牧場』の認定を受けられています。美化活動では、自主的に牛舎を石灰で塗ったり、中に小動物が入らないように網戸をつけてくださったりする井畑牧場さんを見て、嬉しく、励みになります」。

また、明治の認定の活動に対して、JA八戸崩課長はこう言います。「これまでJAでも、優れた乳質の牧場を、乳成分の結果を元に表彰していました。ですが、明治さんの認定には『美化』というこれまでにない視点があり、また乳質は取り組んでもすぐに効果が出ないこともありますが、美化はきちんと取り組めば全員が適正に評価される。それは酪農家さんにとってもやりがいのあることだと思います」。

さらに現在、青森県の協力もあり、青森県全域で牛乳価値向上を推進しようという流れになっています。地域の牛乳の価値向上に向けて、酪農家、JA、そして明治が連携し合う取り組みは、これからも続いていきます。

今回の取材で見えた「酪農あれこれ」

・雪国の牛舎は、斜めの屋根などで除雪対策
・雪国の牛舎は雪の重さに耐えられるように、柱が鉄筋で作られていることがある
・牛舎内を石灰で塗ると殺菌効果があり、白くなるので汚れも目立ち
 衛生管理に効果的